思想新聞2003年12月1日号【視点論点】
拓殖大学教授
茅原郁生氏
当面の最大焦点は北朝鮮
9・11テロ以後、世界の安全保障環境が根本的に変わった。一つは、抑止の利かない脅威になったことだ。それまで国防は国家対国家の話だった。脅威の主体は国家で、国のトップは国民の安全と最大幸福の保証という責任を担う。しかしテロリストなど国家以外の脅威の主体が現れ、さらに北朝鮮のような専制独裁国家では、金正日総書記にとり国民の安全や幸福はどうでもよく、自らの体制保持を最優先させる。そんな国家に対し、国民を人質にした抑止論は利かない。また、伝統的な軍事力の脅威の他に非軍事的なテロや海賊などの脅威も出ている。
二つには、兵器が飛躍的に進歩した。イラク戦争では目標を正確に爆破する精密誘導兵器が多用された。兵器の進歩は軍事力を使う敷居を低くし、米国はテロへの先制攻撃の名の下、国連決議なしでイラク攻撃に踏み切った。
三つには、グローバル化で国同士の依存関係が増え、国際社会が国境を越えてつながり合うものになった。そのため一国の脅威がグローバルな脅威につながり、一国だけではとても防衛はできない。
四つには、これまで国連がある程度国際平和と安全を仕切ってきたが、イラク攻撃のように、その権威が低下・無力化した。さらに同盟関係が変質してきた。米国とフランスはこれまでNATO(北大西洋条約機構)内で一体的に行動してきたが、イラク戦争をめぐり対立。つまり同盟が日米安保体制の緊密化のように、価値観の同じ国同士の選択的同盟になった。
五つには、脅威が見分けにくくなった。軍事的脅威の兆候がつかめず、突然現実化する。こうした戦略環境の変化を踏まえ日本の防衛を考える必要がある。
では各国はどういう安全保障体制を取ろうというのか。これまで脅威に対し抑止力でほぼ話が通じた。やられると倍の仕返しを受けることで武力発動は制御されてきた。その抑止が利かなくなり、突発的な脅威が兆候もなく起こるので、怪しいのを片っ端から叩かないといけない。それが米国のイラク先制攻撃を是とした背景で、国民もそれを支持した。
また、一国の防衛に加えて地域全体として安定を保たなければならない。中国などは国内にテロ勢力を抱えており、国内の安定も図らなければならない。テロ対策も一国ではできないので、上海協力機構のような国際協調を進めることが求められている。
以上を踏まえ日本の安全保障を考えたい。まず「今そこにある脅威」は北朝鮮の核ミサイルだ。さらに、いつ、誰が起こすかも分からないテロがある。中長期的に見ると、北朝鮮だけが日本の防衛の対象ですむはずがない。21世紀のアジアでは、日本は中国とどう共存するかが大きな課題だ。中国は核もミサイルも、質・量で北朝鮮とは比較にならない戦力を有し、これを念頭から外してミサイル防衛を考えるわけにはいかない。
ミサイルにはいくつかの種類があり、一つは核弾頭を積んだ大陸間弾道弾。距離によって三種類あり、射程距離が1万km以上で大陸間を飛ぶICBM(大陸間弾道ミサイル)、1000~3000kmの中距離のIRMB(中距離弾道ミサイル)、もう一つは300~1000kmの射程のSRBM(短距離攻撃ミサイル)、。さらに巡航ミサイルがある。弾道ミサイルは大気圏へ打ち上げ、後は慣性で自然落下するが、巡航ミサイルは低空を這うように飛ぶ。
今やミサイルは破壊力を運ぶ主要な兵器だ。特に米軍では弾頭に精密なセンサを付け、わずかな誤差で目標物を狙える。その意味でミサイルは非常に有効な兵器で、ミサイルなき軍事力は考えられない。
またミサイルは費用対効果も優れる。攻撃目標までの距離が20~30kmであれば大砲が一番安いが、それ以上の距離で破壊力を運ぼうとすると、ミサイルか飛行機だ。飛行機は繰り返し使えるが、人が操縦し人命のコストが掛かる。米国のような二ケタの戦死者が出ると大統領の地位が危うくなる国ではミサイルの役割は重い。
日本にミサイルの脅威を及ぼす恐れのある国は北朝鮮・中国・ロシアで、いずれも日本に届くミサイルを保有する。中ロは日本との間に国交関係があり、相応の信頼関係と経済的な相互依存関係が継続しており、にわかに敵対関係となりミサイルが飛んでくるとは考えにくい。しかし、北朝鮮とは国交がなく、金正日の恣意的一存で物事が決まり、日本との間には拉致問題を含め利害の対立が多い。これらからすると、当面の脅威は北朝鮮に絞られる。
米国がミサイル防衛網(MD)に真剣になったのも、北朝鮮が北米大陸に届くミサイルを開発したことが大きな要因になった。
(取材・協力=世界思想、文責・編集部、以下次号)


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