思想新聞2003年8月15日号【視点論点】
菅野 英機 上武大学教授
キーワードは自然と伝統
日本はもはや高度成長は困難だろう。グローバルには環境・エネルギー・資源・食糧の制約、国内では少子高齢化が未曾有のスピードで進む。この条件下で高度成長しようとすればマイナス面が強い。視点を変えるべきだ。
生活の質では日本にはまだ多くの課題が残る。量的拡大は困難だが質的向上は可能で、その視点からの町おこしだ。工場誘致等による所得拡大は不可能で、生活の質的向上を図り、雇用機会を拡大するのが今後の方向だろう。生活の質は、安全・安心・快適の三要素からなり、各々自然と伝統と関わる。その事例を紹介し、私が考える方法を提案したい。
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徳島県上勝町は四国山脈の山腹にある過疎地で、65才以上が43%を占め、まさに50年後の日本。そこでは紅葉や南天、柿の葉を日本料理のツマとして商品化、関連会社を含め年商15億円。月収60万円超の80台女性もいてはつらつ働き、寝たきりは2人だけという。
自然条件を生かした安全な食品作りは、群馬県新治村の高野豆腐。冬はからっ風が強くて日照時間が長く、夜は零下にまで冷え込むので、夜に豆腐を凍らせ、昼に乾燥させると、20日間で質の高い高野豆腐ができる。山間の町、香川県仲南町では伝統を生かした手作り野菜を朝市に出し、惣菜を直販で販売し、年商一億円を超える。高齢者が味のいい漬物などを生産している。
今、人々が一番望んでいるのは安心。1400兆円もある個人資産があるのに消費性向が弱く、デフレ傾向が強い。不安感を取り除けば消費は増える。
広島県御調町は山間の過疎・高齢化の町だが、福祉の町が売り。自然環境を生かし、保健・医療・福祉一本化。在宅介護を訪問医療で支援、寝たきりが3分の1以下に激減。福祉予算は80億円を超えるが、長期入院も大幅に減少し、医療費も安くなった。しかも対象者の3分の2は町外民で、それが町に収入をもたらし、医療・福祉関係で500人の雇用が拡大し、過疎化に歯止めがかかった。また、進んだ介護環境を求め転入者が増え、町が活性化している。
安心と伝統を組み合わせた例では、生ゴミから堆肥を作り、それを農家に提供し作物栽培に使い、飲食店が購入する循環を進める自治体が増えている。
完成間近の中部国際空港では、その仕組みを取り入れた設計だ。堆肥作りは農家の伝統技術で、現代の技術で生かしている。
快適で自然な例としては、品川区の立会川でのボラの遡上が注目された。水質の悪い川だったが、JR東日本が総武線の地下路線で湧いた水を1日で約4500トン流し浄化。費用は30億円だが、地下水処分費を考えれば数年でペイする。良い環境を提供し、ボラがやってきた。
農業との関わりでは、群馬県のシイタケがある。中国産に押されていたが、原木をクヌギに変え、肉厚で柔らかいシイタケの生産に成功、1キロ1000円以上で出荷できた。消費者は安全で安心、おいしいものを求める。ニーズに合うものを作れば、安価な外国産に対抗できる。むしろ中国との競争によって進歩できた。消費者にとっても選択の幅が広がる。
自然との関わりで、群馬県では、増え過ぎた竹と回収牛乳パックで室内用タイルを作る。ヨモギや杉の皮から作った染料で染め、粘着テープで貼り付ける。自然の風合いが好まれるようだ。香川県仲南町では町工場で竹炭を作り、農家に土壌改良材として安く提供。高松市の建材業者は竹炭粉末入り塗料を開発、ホルムアルデヒド吸収によるシックハウス症候群の防止で注目を集める。近年、里山に竹が増えて困り、竹炭作りはその処理にもなり一石二鳥。煙から得られる竹酢は安全な除虫剤や野菜の活性剤として使われる。竹炭は炭焼き窯やドラム缶の小さな窯でもでき、里山を守る市民活動として広まった。
古紙と廃材を利用し、バイオマスでアルコールを作ると、ガソリンに混ぜ燃料に使える。ブラジルでは数十年前からサトウキビの絞り粕でアルコールを作り、ガソリンに混入。米国でも混ぜる州があり、品質に問題はない。炭酸ガス減少の効果もある。
快適と伝統の組み合わせでは、街並みや遺跡の保存で観光開発する例がある。飛騨高山では古い養蚕農家の家を保存し、観光の目玉に。地元民の誇りで、伝統文化を子供たちにも伝えられる。
古い街並みの復元・保存では、長野県の馬籠、妻籠。旧中山道の宿場町が再現され、観光地に。姫路市は映画ロケ地として態勢を整え、ハリウッド映画のロケも誘致。京都の太秦も時代劇が撮影できる映画のメッカ。愛媛県大洲市は明治の街並みが残るNHK朝ドラ「おはなはん」のロケ地。徳島が舞台だが、撮影は愛媛で行われ、今も駅にはドラマのテーマ曲が流れている。(協力=世界思想、文責編集部)


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