思想新聞2002年10月15日号【ニューススコープ】
自衛隊の出動態勢つくれ有事立法、スパイ防止法が不可欠

北朝鮮による拉致事件の全貌が徐々に浮き彫りになっているが、拉致には鹿児島県・奄美大島沖から引き揚げられた同種の工作船が使われていたことが明確になった。引き揚げられた工作船は調査の結果、驚くべき重装備で事実上の軍艦だったことが判明した。このことで海上警備は海上保安庁だけにまかせておけないことがはっきりした。海上自衛隊が領海警備に当たれる法整備が不可欠だといえる。加えて国家の平和と安全の柱となる有事立法、そして工作員の暗躍を防ぐスパイ防止法の制定も絶対必要であり、総合的な安保体制の再構築が急がれている。
海上保安庁は10月4日、鹿児島県・奄美大島沖で引き揚げた北朝鮮の工作船の調査状況を発表した。船内外から700以上の回収物があり、その中には航空機も撃墜できる携帯型地対空ミサイル(SA―16)や対戦車用82ミリ無反動砲、戦車の装甲板を撃ち抜けるロケットランチャー、14.5ミリ対空機関銃のほか手りゅう弾、自動小銃などあり、まさに軍艦並みの重装備だったことがわかった。
この中でも専門家が注目するのは対空ミサイルで、海上自衛隊の哨戒機P3Cが工作船を追跡する場合、5キロ以内に近づけば撃墜される恐れがあるという。対空機関銃も航空機を至近距離で撃墜できる能力があり、工作船の活動が軍事行動を前提にしていることを見せつけた。
国際法のルールすら放棄する愚
ロケットランチャーは昨年12月に巡視船に向けて発射されたが、このときは幸いにも当たらなかった。仮に直撃していたら撃沈させられた可能性が高い。82ミリ無反動砲も同じぐらいの威力があるといわれる。
こうした“軍艦”であることも知らず昨年12月、海上保安庁の巡視船はわが国の排他的経済水域(EEZ)で発見した不審船として、漁業法に基づいて立入検査を要求。工作船が検査忌避したために同法違反の疑いで追跡し威嚇射撃を行い、接近して立入検査を行おうとした。その際、工作船乗組員が機関銃とロケットランチャーで海上保安官の生命を脅かしたので警職法7条の「正当防衛」を根拠として、ようやく船体射撃を実施。結局、工作船は自沈した。
装備が明らかになると、多くの国民は「よくも海上保安官に死者を出さず工作船の自沈ですんだものだ」と思っているはずだ。
このことは領海警備の体制不備を浮き彫りにしたといえる。1年前の臨時国会では99年3月に北朝鮮の不審船をやすやすと取り逃がしたことを教訓に自衛隊法改正、海上保安庁法改正を行った。この改正で領海内で停戦命令を無視した船に対して危害射撃(船体射撃)を可能にし、仮に射撃で乗組員に危害を与えても責任が問われないことになった。
だが、昨年12月の工作船の場合は領海内でなくわが国の排他的経済水域(EEZ)での発見だったため巡視船は結局、改正海保法を適用できず、漁業法で対応。警職法による「正当防衛」でしか危害射撃をできなかった。撃たれたから「正当防衛」が適用できたわけだが、工作船がロケットランチャーだけでなく82ミリ無反動砲などの全兵器を使って先制攻撃していれば、巡視船は「正当防衛」以前に撃沈され、多数の死者を出していたことは間違いない。
北朝鮮の工作船が“軍艦”であることが判明した、この期に及んでも日本は安保体制を見直さないというのだろうか。
そもそも国際法(国連海洋法条約など)によれば、「無国籍船」に対しては領海、公海を問わず、海軍(日本の場合は海上自衛隊)と沿岸警備隊(同、海上保安庁)に臨検が認められており、これを拒否して逃走した場合は停戦させるための船体射撃(危害射撃)が可能である。この危害射撃で相手船舶に死傷者が出ても何ら責任が問われないのが、国際法のルールである。
だが、平和ボケの日本は国際法のルールすら自ら放棄している。それは国際法に対応して危害射撃を認める国内法がないからだ。昨年の法改正では危害射撃を領海内だけに限定し、自ら足かせをはめる愚をおかした。政府は直ちに国際法に基づきわが国の領海および経済水域を守れるように法整備を行うべきだ。自衛隊に対して領土・領海・領空を警備する任務を与える「領域警備法」を制定し、常日頃から海上自衛隊と海上保安庁の連係プレーを可能する法整備も不可欠なのは言うまでもない。
だが、こうした領海警備法の整備も所せん、小手先の安保体制にすぎない。国民の平和と安全を守るには、緊急事態への対応としてまずその幹となる有事=武力攻撃への対処策を確立しておき、そのうえで枝となり葉となるテロ対策や工作船対策を作り上げていくのが正しい順序だからだ。その意味で優先的に整備すべきは有事立法といえる。有事への備えは人災であろうと天災であろうと最悪の事態を予測して準備するのが常道である。最悪の事態への備えがあれば、それ以下の事態に対して容易に対応できるからだ。
仮に工作船が小規模攻撃にとどまらずに大規模化した場合に右往左往するようなことがあれば、それこそ国民の生命と財産は守れない。逆の場合のほうが被害を最小限にくい止めることができるのは言うまでもない。
原さん拉致では朝鮮総連が協力
引き揚げられた工作船からプリペイド式携帯電話も見つかった。これは日本製で日本国内でしか購入できず、国内の電話しか受信できないもので、明らかに日本国内にいる協力者と連絡をとっていたと捜査当局は分析している。つまり、工作船が暗躍していることは国内に北朝鮮のスパイ網が張り巡らされていることを意味しているのだ。
拉致された原勅晁さんの場合、原さんになりすました北朝鮮工作員・辛光洙が韓国で逮捕された後、韓国当局に自供している。それによると在日朝鮮総連の地方幹部らが辛のスパイ工作を手助けしたばかりか、身代わり要員として原さんを見つけだし、さらに辛とともに拉致に当たっていた。
元北朝鮮工作員は「日本にスパイ防止法がないから安心して潜入できる」と証言しており、どの国にもあるスパイ防止法が日本にないために潜入、拉致工作を容易にしているのだ。このことからも明らかなように、スパイ防止法制定が拉致・工作船の暗躍を防ぐ有力な方法である。スパイ防止法がないことで工作船の暗躍を許し、拉致の悲劇を招き入れてきた。政府は早急にスパイ防止法を制定し工作船・拉致再発防止体制を構築しなければならない。


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