思想新聞1998年9月5日号
安全保障に重大な危機小渕首相 「憂慮」どころではない
北朝鮮が8月31日に発射した弾道ミサイルが三陸沖に着弾した。これにより、日本全土が完全に射程圏内に入ったことになる。防空体制の不備が指摘され、わが国の安全保障は重大な危機に陥ったと言っても過言ではない。政府は直ちに北朝鮮に厳重抗議を行い、小渕首相も憂慮の念を示したが、事は重大である。有事立法はもちろん、懸念される戦域ミサイル防衛構想の研究に早急に着手すべきである。
有事法制、TMD研究は焦眉の急
今回のミサイル発射実験に対して、北朝鮮からわが国には何の事前通告もなかった。万が一、実験に失敗していれば国内に甚大な被害が出た可能性も否定できなかった。
ミサイル発射の背景は、軽水炉支援や重油供給を確実なものにする、中東など第三世界へのミサイル輸出のアピール、金正日総書記の国家主席による北朝鮮人民への国威発揚などが挙げられている。
いずれにせよ、北朝鮮の「核カード」にならぶ新たな「ミサイル・カード」のメッセージは、主に米国に対してであるとみられている。北朝鮮中央通信は六月、同国のミサイル開発・輸出を認めた時の論評で「輸出を本当に阻止したいのなら、できるだけ速やかに北朝鮮への経済制裁を解除するとともに、輸出中止による損失を補償すべきだ」「ミサイルの開発中止に関して、平和協定が結ばれ、軍事的脅威が除去されてからでないと協議できない」と、米国に要求している。
「恫喝外交」で舐められる日本
北朝鮮当局は、今回の実験で今後の日朝交渉を有利に進めよう、との思惑も秘めている。このように、日本人拉致事件や日本人妻問題での対応を初め、わが国は北朝鮮の「恫喝外交」に完全に舐められているといえよう。
わが国政府も直ちに北朝鮮側に「厳重抗議」し、小渕首相はこの事態に「憂慮」の念を明らかにした。しかし、事は日本の安全保障の危機に関わる。今回、弾道ミサイルは日本上空を飛来した。北朝鮮は核兵器や化学兵器を搭載できるミサイル技術を実戦レベルまで高めているわけで、日本国民の平和と安全が脅かされた事態について、もっと厳しい認識が必要だ。
こうした“寝耳に水”のミサイル着弾で、改めて防空体制など危機管理体制の不備が浮き彫りになった。ミサイル発射情報については、九六年から米軍と防衛庁の間で交わされた「早期警戒情報システム」が機能したが、日本独自の情報収集システムはない。またわが国を実際に狙ったミサイルだと、現在の自衛隊の装備では防ぎようがない。
したがって有事法整備は焦眉の急である。継続審議中の周辺事態法案も検討を加える課題があるが、今国会中の成立がまたれる。さらに、現在棚上げ状態のミサイルを空中で迎撃する戦域ミサイル防衛(TMD)構想についても、米国との共同研究に一刻も早く先鞭をつけるべきだろう。
ミサイル実験は、北朝鮮の「単なる交渉取引の材料」にすぎないという見方は禁物である。


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