思想新聞2001年11月15日号【TOP】
テロ対策はなおざりだ発足から6カ月、正念場の小泉政権
小泉首相が首相に就任して半年が過ぎた。小泉内閣は最大の政治課として「聖域なき構造改革」を掲げ、内向き政治に陥りがちだったが、9月11日の米国同時多発テロで否が応でも外に目を転じざるを得なくなり、日米同盟の強化を再確認、大慌てでテロ対策関連法案を成立させ、11月9日には自衛艦をインド洋に派遣した。おりしも米軍のアフガン空爆から1カ月が経過し、英独伊の三国はいずれも数千人規模の兵力をアフガン周辺に展開する。いよいよ対テロ軍事行動は地上戦へと進む気配だ。だが、日本は自衛艦を派遣するものの、NATO(大西洋条約機構)のように集団的自衛権行使を発動せず、小手先の対応策に終始した感が否めない。テロ事件を契機に世界は大きく変化し始めているが、小泉内閣はその変化への対応に遅れをとっている。国際貢献、安全保障にこそ「聖域なき構造改革」の決断を下さなければならない。

今回、海上自衛隊が派遣した3艦艇。 上から 護衛艦くらま、護衛艦きりさめ、補給鑑はまな
アフガニスタンで対テロ軍事行動を展開する米軍を支援するために自衛艦がようやく9日、派遣された。ブッシュ米大統領は「日米同盟は現在が最もすばらしい」と自衛艦派遣を高く評価した。
湾岸戦争以後、日本は国際貢献に疎(うと)い国との汚名をきせられてきたが、今回のテロ事件では小泉首相自ら訪米、ブッシュ大統領との間で「テロを根絶し、破壊する」との目標で両国が連帯して取り組むことで一致した。日本の顔が見える形で米国支援を表明した意義は大きく、それを証明するのがテロ関連法案の成立、そして自衛艦の派遣だった。
だが、自衛艦派遣だけでテロ対策が終わったわけではない。ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」所長のジョン・ハムレ氏(元米国防副長官)が「テロ組織根絶には20年はかかる。拠点奪回などを争うこれまでの戦争の概念とは違う。軍事だけでなく可能なすべての手段を講じる必要がある」と指摘しているように(読売新聞11月9日)、長期戦になるのは必至だ。
したがってテロ対策を2年間の時限法(テロ特措法)といった対応姿勢で取り組むのは根本的に間違っている。本来、NATOのように自衛権行使で臨むべきで、そうした方向へと日本を一大転換させる必要がある。
ところが、小泉首相にはテロ特措法を成立させ、自衛艦を派遣したことで対テロ態勢が一応整ったとの甘さが見える。たしかに、10月8日に内閣に設置された緊急テロ対策本部において7項目にわたる緊急対応措置を決定し、それに基づいて今国会には補正予算の中にテロ対策費として約5百億円を盛り込んだ。だが、これでも十分ではないのが現状だ。
お粗末な政府のNBC兵器対策
その最たるものがNBC(核・生物・化学)テロ対策だ。同時多発テロに引き続いて全米を揺るがしている炭疽(そ)菌テロは、郵便物がテロ手段に使われているので、いつ日本に波及するか知れない。現に世界各地で炭疽菌騒動が巻き起こっている。日本を敵と位置付けているタリバンやアルカイダは、インド洋にひるがえった日の丸がを見て日本を標的にテロを仕掛ける可能性は十分にある。その際、懸念されるのがNBCテロだ。
ところが日本は炭疽菌発見能力を有していないばかりか、専門家も皆無に近い。必要な医薬品等の準備を強化することを緊急対応措置はうたい、厚生労働省は補正予算でBCテロで予想される天然痘のワクチン3百万人分を生産・備蓄する。この数は焼け石に水といっても過言ではない。米国では天然痘の感染力の強さを考慮して全国民分の生産を急いでいるのだ。ワクチンの数の問題だけでなく、被害者が治療できる病院(第一種指定医療機関)は全国に13しかなく、搬入する搬送車は都道府県に数台しかないというお粗末さだ。あらゆる態勢づくりで日本は遅れているのだ。
総務省は、都道府県と政令指定都市に危機管理担当者の設置および危機管理対策会議の開催を求めている。だが、これも防災対策の一環としてしか考えられておらず、テロ対策としては心許ない。本来、こうした対応は法律に基づいて手はずを整えておくべきで、それが有事立法にほかならない。
つまり有事立法を柱に侵略やゲリラ・テロに対応する「戦争態勢」を完備し、さらに大地震や風水害などの自然災害、そして金融危機などの経済パニックへの対応など、全方位的な危機管理策を構築しておくのが国家の使命である。
残念ながら、こうした国家の基本が日本には存在しない。これこそが「聖域なき構造改革」の第一に掲げるべき小泉政権の課題である。
「治にいて乱を忘れず」肝に銘ずも…
その意味でテロ対策は有事法制なき日本の弱点をさらけださせたといえる。すでに成立した周辺事態法では、周辺有事に対応する米軍への協力が40項目以上にわたっており、防衛庁のみならず総務(自治体協力)、国土交通(港湾・空港協力)、厚生労働(病院協力)などすべての省庁に日米協力が及ぶばかりか、民間協力も不可欠とされている。
これが日本有事ともなると、周辺有事とは比較にならない多くの分野で協力態勢づくりが必要になり、総合的なテロ対策も可能になるのだ。
小泉首相はかねてから「治にいて乱を忘れず」が政治の要諦と述べている。首相就任から6カ月。この間、参院選、靖国問題、そしていわゆる抵抗勢力との抗争など、紆余曲折してきたが、国家の平和と安全を守る国策では国論を統一して一貫した政策を構築しておかねばならない。それが実現できるか、小泉首相は正念場に立たされている。


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