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ベトナム共産党 ドイモイの影で軍・公安が台頭

この記事は2011年1月25日に投稿されました。

ベトナム共産党は1月19日、グエン・フー・チョン新書記長(67)ら最高指導部の政治局員14人の新人事を発表した。党大会は5年ぶりで、一党独裁を堅持しながら市場経済化を図る「ドイモイ(刷新)」政策を継続し、政治報告では中国をにらんだ海洋の防衛などを盛り込んでいる。メディアは「ドイモイ路線堅持」(日本経済新聞1月19日付)ともっぱら経済政策に着目しているが、こういう視点は中国の経済だけをみて党独裁や軍事拡張から目を逸らすのと同じ間違いを犯しかねない。ベトナム共産党人事を正しく捉えておく必要がある。

東南アジア、南シナ海の戦略的位相

ベトナムは共産国であるが、対中戦略で考えれば、わが陣営に取り込んでいく必要がある。ベトナムの面する南シナ海は中東と北東アジアを結ぶ海上交通路であり、ここで中国はその全域を自国の領海と主張し、海軍力の強化を背景に威圧的な実効支配を進めており、日本のシーレーンも危ういからだ。米国は「航行の自由」を守る立場から同海域での米海軍艦船のプレゼンスを高めようとしているが、ここでベトナムが重要な役割を果たす。クリントン米国務長官は昨年7月、ハノイで開催されたASEAN(東南アジア諸国連合)地域フォーラムで「米国は南シナ海での航行の自由に国益を有する」と言明し、米国が今後、同海域への関与を強め、中国海軍の威圧的行動に苦慮するASEAN諸国を支援する姿勢を強調した。そして昨年8月中旬に米国とベトナム両海軍がダナン沖の南シナ海上で初めて「合同軍事演習」を展開した。表向きは「米越国交正常化15周年の記念行事の一環」とされたが、演習は本格的なものだった。米軍は最新級のイージス艦「ジョン・S・マケイン」を参加させ、公式参加ではないが訓練海域には原子力空母「ジョージ・ワシントン」を派遣、訓練最終日にはベトナム政府高官を同空母艦内の視察に招待した。米クリスチャン・サイエンス・モニター(8月12日付)は「これほどの驚きはない。憎しみをむき出しに1960~70年代のベトナム戦争を戦った両国が合同軍事演習を実施するとは」と書いたほどだ。
 ベトナムは地勢的に中国の影響を受け抗争を繰り返し、1979年には中越戦争も行い、中国への警戒心が強い。それだけに中国の東南アジア進出、南シナ海支配への対抗勢力としてわが国も関係を強化していきたいところである。経済的には日本の新幹線方式を採用した南北高速鉄道が決まっているほか、日本の衛星技術を活用したハイテクパークの建設、原子力発電所建設プロジェクトやレアアース(希土類)開発など日越経済関係も促進されている。

インフレ・汚職蔓延で保守派の苛立ち

だが、ベトナムが共産党の一党独裁国であることを忘れてはならない。確かにドイモイ政策の採用は1986年と古く、経済開放路線には歴史がある。しかし、経済をいくら開放しても国民の自由は認めず、独裁政治に固執し続けている。今回のベトナム共産党大会で何があったのか。それは中国の現況と極めて似ている。すなわち経済成長のひずみが噴出していることだ。インフレ率は10%を超え、対外債務が急増し、通貨を切り下げたものの、国内では貧富の格差が一段と広がり、共産党の汚職が蔓延している。国民の不満は中国と同様に軍事・治安力で抑えているが、このままインフレや格差が広がれば、不満は膨れあがる。そういう状況で5年ぶりにベトナム共産党大会が開催された。焦点は人事である。
 最高指導部の政治局員は15人から1減の14人となり、3分の1が交代した。序列1位の最高指導者だったノン・ドク・マイン書記長(70)と同2位のグエン・ミン・チェット国家主席(68)が引退。新たにグエン・フー・チョン新書記長(68)が就き、チュオン・タン・サン氏(61)が7月招集の国会で国家主席に就くと見られている。新任の政治局員に選出された5人のうち、最年少局員となったチャン・ダイ・クアン氏(55、中将)は公安省次官(公安警察統括)、ディン・テー・フイン氏は党機関紙「ニャンザン」編集長、ゴ・バン・ズ氏は党中央委書記(監察総監)である。これらの人物はいずれも軍・公安に関わる保守派で、実務派が増えたとはいい難い人事なのである(他の新任2人はファム・クアン・ギー・ハノイ市党委書記とトン・ティ・フォン国会副議長=女性)。
 つまり、今回の人事は党による規律の引き締めを図る保守派の巻き返しと捉えてよい。これは中国が共青同(共産主義青年同盟=改革思考が強いとされる)派を抑えて軍部・江沢民派の習近平が次期指導者になるのと似ている。党トップのグエン・フー・チョン新書記長は党中央理論評議会議長などを経て国会議長に就任した理論畑で「保守穏健派」ということになっているが、政治局員中67歳と最高齢であることから、要は実務派のノン・ドク・マイン前書記長の引退に伴い保守派が影響力を行使しやすい古参幹部を看板に就けたという印象が強い。しかもテクノクラート派の代表格で知日派のファム・ザー・キエム現副首相兼外相は66歳と比較的に高齢とはいえ、党中央委員にも落選するという想定外の事態があった(従って、今回政治局員からも外れた)。同氏は今年中の国会で副首相兼外相から外れるとはみられていたが、中央委員にも落選するというのは異例である。

ベトナムもラオスもテクノクラート派が後退した

このベトナム共産党の人事は昨年12月のラオスのブアソン首相の突然の辞任劇と共通性があるように思われる。ラオスでは党序列1位のチュンマリ書記長(大統領=74)が政治局では序列7位で若手のブアソン氏(56)を実質的に罷免し、変わりに序列3位で比較的に高齢のトンシン前国会議長(66)を首相に就けた(政府の公式発表ではブアソン氏は「家庭の事情」で辞任したとしている)。5年ごとの党大会までまだ半年残した時点での人事で、しかも序列上位で高齢の国会議長を首相に「異動」するというのは異例の人事だ。ブアソン氏は海外投資の受け入れ拡大と市場経済の導入促進などで国際社会からは一定の評価を受けていたテクノクラート・タイプの実務派だった。それだけに“罷免”が注目された。
 つまり、ラオスもベトナムもより「革命世代」に近い高齢者で、しかも実質的には党の思想を堅持しかつ軍・公安と意思の疎通がとれそうなバランス型の人物をトップ(ラオスの場合は首相)に就けたといえるだろう。ラオスの首相もベトナムの書記長も前任者が就任した4~5年前と比べると、グローバル経済の伸張で国内への海外からの投資額も格段に増え市場経済化も進んだ。こうした状況に党内の保守派や軍・公安が共産党一党独裁体制の維持に危機感を抱いており、革命政党としての共産党の結党理念に最も年齢的に近い長老格を首相や書記長として就けた。政治局の長老だけに、経済改革・発展のスピードに懸念を抱く保守派や軍・公安が行政府の実務派・テクノクラート派の行き過ぎを牽制するバランス役になれるということだろう(トンシン新首相もグエン・フー・チョン新書記長も決してカリスマ性のある指導者とはいえず、軍・公安が利用しやすい古参幹部という色彩が強い)。

社会主義市場経済の矛盾に動揺する共産党

インドシナの共産党はこの4~5年で先進国からの資本の流入などが共産党独裁の社会に対して及ぼす影響の大きさに内心動揺するとともに、その影響を図りかねている側面もあり、経済発展を抑制する可能性も考えた上でとりあえず党の布陣を立て直したということではあるまいか。そもそも社会主義市場経済なるもの自体が根本的な矛盾を孕んでおり、その矛盾が表面化する徴候にこれらの党が危機感を抱いているのだ。このことを踏まえて共産国と付き合っていくべきだろう。

2011年1月25日

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