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File-32 20世紀最大の衝撃は「家族の崩壊」

家庭崩壊のコストが公的支出の2/3に

思想新聞2001年5月1日号 シリーズQ&A 共産主義は間違っている

フェミニズムの仮面を被ったマルクス主義 16

臨界に達した公的部門の異常な膨張

象徴的なポールソン教授の論文

Q 前回は女性の社会的進出について教えていただいたのですが、そこで今度はスウェーデンの家族・家庭についての考え方について教えてください。

A 
はい。ここに、スウェーデンの女流社会学者の書いた大変興味深い論文があります。スウェーデン南部の都市ルンドにあるルンド大学のポールソン教授によるものですが、その論文になんとも象徴的な逸話が記されています。

 一世紀を生きてきた老人に大学生が尋ねた。「お爺さんの一生で何が最も重要な変化でした?」と。彼は二度の世界大戦か原子力発電か、あるいはテレビ、携帯電話、パソコンなどの情報革命か、それとも宇宙衛星かなどの回答を予測した。前世紀から現在までという、まさに人類史で最も出来事の多い時代を生きた老人だったからだ。しかし老人の回答は彼の予想もしないものだった。「それはね――家族の崩壊だよ」と。

 このエピソードは、前出の武田龍夫・北欧協会理事による『福祉国家の闘い』(中公新書)にも紹介されています。スウェーデンの百歳以上の老人は1998年現在で約7百人で、もちろんほとんどが女性です。

年金など国民の税負担は75%

 そして武田氏はまた、次のようにスウェーデン社会の公的部門の異常な膨張と離婚の急増、老人と若者たちとの別居などを取り上げ論をすすめるポールソン教授の論文を紹介しています。
「老人たちの介護は、いかなる時代でも家庭の中で行われてきた。しかし今はほとんど公的機関の手に任されてしまった。昔の大家族は老人や病人や、職のない家族員のために経済的面倒も見てきた。誰かが病気になって失業しても、家族が面倒を見てきた。この各世代同居の家族が工業化とともに分裂したとき、人々は老人たちの生活を別なやり方で見てやらねばならなくなった。女性たちは家の外で働くようになり、生産に寄与するようになったが、その家での仕事が消えたわけではない。それは誰かほかの人々、つまり公的機関が引き受けねばならなくなった。こうして公的部門は小さな子供たちの面倒を見て食事も与えねばならなくなり、さらに老人たちの世話もしなければならなくなった。
 われわれはこうして、多くの人々が言うような公正で平等な社会をつくりあげた。女性たちはミュルダール夫妻(夫はノーベル経済学賞受賞者。夫人はノーベル平和賞受賞者)の言うように、『非生産的な家庭から解放されて、家庭外で自分を生かすことができるようになった』。しかし女性たちを待っていた労働市場は賃金供与も低く、狭い市場だった。家庭を崩壊させたコストは高くついた。社会福祉国家は伝統的な家庭支出を肩代わりしているが、それは公的支出の三分の二に達している。スウェーデンの総所得の半分である。しかもその重圧はますます増大している。……われわれの税負担は75%にも達する。そして公的部門支出を軽減しようとしても政治家、政党は国民から嵐の抗議を受けてしまう。スウェーデンモデルは、われわれの能力以上の高いものについてしまっている。現在、予算や財政に関する技術的な問題のみが一方的に扱われ、論じられているのは不幸なことだ。そうではなく、一般的福祉社会からの脱出を容易にするための議論こそ重要なのである」
 どうでしょう。これが社会福祉国家の実体と言えます。まさに「家族の絆はいずこにありや?」といった感じです。先の老人が一世紀の生涯最大の衝撃を「家族の崩壊」と言ったのもうなずけるでしょう。
 そこから、武田氏は「福祉のモデル国家として喧伝されてきた現代スウェーデンの行き詰まりを指摘示唆して余すところがない。…具体的な結論として、福祉制度の改革を主張したのである。そしてその改革の方向性こそ、まさに現在スウェーデンが長期的視野から取り組んでいる最大の問題となっているのである。またその意味でモデル福祉国家としてのスウェーデンの歴史的役割は終わったのであり、砕かれた神話となった」と結論づけるのです。

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