思想新聞1998年9月5日号 主張
北朝鮮では9月5日に最高人民会議が開催され、金正日総書記が国家主席に就任する見通しである。これによって金日成主席が死去して以来、空席になっていた国家の最高ポストが決まり、名実ともに金正日時代が幕開けすることになる。いったい「金正日の北朝鮮」はいかなる国なのであろうか。まずわれわれはこのことを正しく理解しておかねばなるまい。
軍部の忠誠合戦でスパイ事件が多発
このような「金正日の北朝鮮」の誕生に先だって、北朝鮮は6月以来、対韓武装スパイ工作を強化する一方、さる8月31日には日本列島を飛び越えてミサイル発射実験を強行するなど、「軍事路線」が目立っている。これこそ、「金正日の北朝鮮」の最大の特徴であることを心得ておかねばならない。
いまさら言うまでもなく、金正日体制は強固な「軍事政権」であることを忘れてはならない。今後、軍部がさらに著しく影響力を高め、名実ともに「軍事政権」色を強めてくる点に注目しておく必要がある。
さる7月下旬に実施された最高人民会議第十期代議員選挙で軍人が多数、代議員に選出されていることからも、このことがうかがい知れる。軍出身の代議員は前回第九期代議員では23人(3%)にすぎなかったが、今回は86人で全体の約13%にまで躍進した。ちなみに現職閣僚12人の名がなく、新人が全体の約60%を占めている。金正日総書記は軍を中心に自らの基盤強化を図っていくことは疑いないところであろう。
同総書記は73年に党中央委員会書記に選出され、金日成主席の後継者と位置付けられた。党中央に「三大革命小組」が置かれ、金日成思想の強化を図ることを名目に、親子継承体制が固められてきた。党中央を「忠誠分子」で固めた後、91年に軍最高司令官に就任して今日に至っている。
金正日総書記自身、軍を自らの基盤とすることに腐心しているといわれ、今回の代議員選挙での候補登録は軍選挙区である第666選挙区だった。軍に推戴されて代議員になったとの演出のもとに、国家主席に就任する手はずなのである。
こうしたことを背景に、軍の「忠誠合戦」がくり広げられている。
6月下旬には韓国北東部の江原道沖合いで北朝鮮のスパイ工作用の潜水艦が発見され、続く七月中旬には、同地域で武装工作員の死体と水中潜航装置が発見された。こうした相次ぐ武装スパイ事件は、軍が金正日総書記への忠誠を誓うために競って派遣し合っている結果であるといわれている。
金正日政権の性格物語る「ミサイル」
一方、新たな核関連施設が密かに建設されていることも明らかになっている。米軍事偵察衛星が発見したもので、94年に稼動停止された寧辺の核施設のわずか40キロ南西に、原子炉か使用済み核燃料の再処理工場と見られる地下工場がつくられている。北朝鮮は94年の米朝合意で核開発の凍結を約束したが、これを破って再開している可能性がきわめて高い。
北朝鮮では10年ほど前から軍事施設の地下化を推進してきたが、今回の「地下核施設」はその一環と見られるばかりか、北朝鮮がいよいよ“隠れて”核武装しようとしている重大事態との見方も強まっている。
そうした中での、今回の日本上空を飛び越えてのミサイル発射実験である。最高人民会議開催直前での実験は、金正日政権がいかなる性格の政権かを端的に物語っているといえよう。
日本は「金正日の北朝鮮」の本質を見誤ってはならない。


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