この記事は2016年5月27日に投稿されました。
日米台の連携強化せよ
台湾の新総統・蔡英文の就任式が5月20日に行われた。ご存知のように蔡氏は、独立志向の極めて強い人物である。就任演説がどのようなものになるか。注目したのは台湾国民以上に中国当局だっただろう。
まずは参加者である。就任式には海外からの来賓が700人出席した。過去最多である。国別には、台湾と国交を結ぶ22か国を含む59か国からの参加となった。
中でも米国は、特使団を5人派遣した。前米通商代表部代表のロン・カーク氏、初代国家情報長官のジョン・ネグロポンテ氏など、錚々たる顔ぶれである。就任式の4日前にはケリー国務長官が、中国の王毅外相と電話会談で「一つの中国の原則を堅持する」と話したが、実際には米台接近のサインを送ったのである。日本からは、衆議院議員の古屋圭司氏率いる日華議員懇談会の12議員をはじめ、252人の大祝賀団が参加した。
「92共識」の行方
就任式の最大の焦点は、蔡氏が「92共識(コンセンサス)」をどう語るかにあった。前任の馬政権は、これを両国交渉の基礎に位置付けた。当時の台湾国民に、現状維持を望む声が強かったという背景もある。馬政権はこれを武器に20以上の経済協定を締結し、経済発展を進めた。そして今や中国は、台湾の最大の貿易相手国である。特に輸出依存度が高い。
しかし馬政権の末期になると、「恩恵は一部の富裕層しか受けていない」という不満が国民の間に高まってきた。中国観光客が大量に押し寄せ、「このままでは飲み込まれる」という中国脅威論も語られるようになった。これらが頂点に達したのが、昨年3月の「ヒマワリ学生運動」である。中国依存を深めても就職先は減り、賃金は上がらず、チャイナマネーの不動産投機で家も買えない。若者らの不満がついに爆発したのである。
さらに昨年9月、中国ビジネスで急成長した食用油大手企業が廃材を再利用していたことが発覚し、これが馬政権にとっての決定打となった。馬政権は巻き返しに全力を傾けたが、国民党は今年1月の総統選挙で300万票の大差をつけて敗北した。
蔡氏は「92共識」については、合意文書が存在しないこと、台湾の解釈を中国が認めないことなどを理由に、「存在しない」と主張している。この立場を就任演説でどう説明するのか。中国の強い反発を受けても台湾経済は持ちこたえられるのか。それとも民進党の主張を変えてしまうのか。それが注目されたのである。
バランス重視
蔡氏は就任演説で、「92共識」という言葉を一度も使わなかった。「92共識」は、「存在する」とも「存在しない」とも言わなかったのである。これは中国へ配慮をしつつ、民進党の立場をぎりぎり守ったことを意味する。しかしその会談は歴史的事実としてあった。それを基礎として今後も発展を推進させるというのである。
内外の評価は上々である。たとえ蔡氏が中国への強硬姿勢を示し、独立を唱えても緊張状態を生むだけである。かといって馬政権に同化しては台湾の今後が危うい。国民からの支持も得られない。そこで馬政権時代に築いた経済関係は維持・発展しつつ、今後は「中華民国憲法」に基づき、自国の主権と領土を守るというのである。
多くの台湾人が「台湾は台湾、中国とは違う」という理想をもっている。安全保障面ではなおさらだ。しかし今のところ特に経済面では、中国抜きに台湾は存在できない。理想と現実の間には大きなギャップがある。国民もそのことをよく知っている。蔡氏の演説は、それらのすべてに配慮した、バランス重視の演説だったといえるだろう。
今後は日本、そして米国との連携が重要である。台湾独自で増強される中国の脅威に立ち向かうことは不可能だ。特に平和安全法制が制定された日本の役割は大きい。太平洋を自由と民主主義、法の支配による海とするために、お互いからの協力が重要である。
2016年5月27日


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