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ドイツから見た日本の憲法問題・中 NATOの重責果たすドイツ

【思想新聞2001年4月15日号 視点論点】

日本大学教授 小林 宏晨 氏

 問題は、旧態依然とした内閣法制局の存在だ。本来、法律を制定する際に合憲かどうかを検討する機関だが、日本は政府提案の法案が圧倒的に多く、それを憲法に照らして検討する。一行政機関にすぎぬ内閣法制局が今や最高裁を上回る権力を持ち、集団的自衛権適用は憲法違反だという解釈などに誰も反対しない。
 国連憲章で自然権とされるように、個別的自衛権も集団的自衛権も、国家が持つ固有の権利だ。サンフランシスコ講和条約の第五条でも、日本が集団的自衛権を持つことがうたわれている。同時に調印された日米安保条約においても前文に明記され、改定後の条約においても同様だ。
 ところが、内閣法制局はそれらへの明確な説明もなく「適用できない」と主張する。それを覆せないのは政治的指導力の欠落。日本には第二次大戦の負い目を引きずる部分がまだある。教科書問題など、周辺諸国との間で主権国家と言えない対応が見られるからだ。自民党は結党以来、憲法改正、自主憲法制定を旗印にしていたが、今では反対の議員が多くいる。
 かつてスパイ防止法制定運動をした時、「同法制定で世の中暗くなる」と、日弁連と朝日新聞以下主要マスコミが全て反対し、時の金丸信・自民党幹事長は、成立しないと見て廃案にしてしまった。私たちは、スイスやオーストリア並みのものにと提案したが、検討過程で骨を抜かれ、その名に値せぬ法案ですら潰されたのだ。
 97年の日米ガイドラインは、台湾海峡に紛争が発生した際に適用される、あるいは朝鮮半島に軍事紛争が起こった場合を想定して作られた。台湾は中国の一部であることは確かだが、国際海峡である台湾海峡での船舶の安全な航行を守らなければならない。それが脅かされるなら、自らの力でそれに対応せざるをえない――と明言すべきだ。それを中国に迎合しすることこそが問題なのだ。
 日本の場合、軍事力に関して常に近隣諸国への配慮が問題になるが、ドイツでそれが問題にならなかったのはNATOの枠組みがあるからだ。NATOでは、陸海ともドイツ軍は圧倒的な戦力を占める。また、ドイツは非常に賢明にもフランスを先に立ててやってきた。
 ドイツ憲法87条Aには、自衛目的以外に連邦軍を使用してはならないと定め、侵略戦争は行わないとの規定がある。それを根拠に、自衛以外には域外派兵できないというのが、東西統一までの政府の正式見解。だから統一直後の湾岸戦争には、ドイツは派兵しなかった。
 ところが統一後、その解釈を一変させた。それまで東西統一を含む将来のドイツのステータスに対し、米ソ英仏の共同発言権が留保された。合同演習でも域外には衛生部隊しか派遣しない。ところが東西ドイツに上記四カ国を加えた条約が成立し正式に統一すると、その共同発言権は消失した。
 そこで、ドイツはNATOの一員として同様の活動をしなければならないと、ユーゴスラビアに空軍を、ソマリアに軽装備の部隊を派遣するなどし始めた。それは憲法を改正したわけではなく、八七条Aの解釈を変更して実施したのだ。
 そのため、社会民主党が連邦憲法裁判所に憲法違反ではないかと訴えたのだが、判決は合憲。その根拠は、ドイツはEU(欧州連合)や国連などの国際機関に正式に参加しており、その成員としての権利を有し、義務を遂行しなければならないということ。ただし、議会の多数の承認が必要だ。
 それ以来ドイツは、域外派兵ができるようになりコソボには一番多くの軍隊を派遣している。それで改正や解釈を重ねて「普通の国」になった。
 日本には日米安保条約及び米韓両国との関係を一致させる日米ガイドラインがある。そこでの共同作戦は十分に可能だ。
 日本の安全保障には三つの重要な案件があり、すべてに双務性、相互主義が適用されなければならない。一つは,自衛隊で、学理的にも有権的にも合憲を実現し、きちんと社会的に承認すべきだ。第二は日米安保条約で、相互補完するには,集団的自衛権が適用できるとするのが不可欠の条件。第三は、国連との関係で、日本は国連の要求をすべてクリアできる状況にする。それには、集団的自衛権が適用できることと海外派遣が可能なことを自衛隊法に規定しなければなりません。以上、いずれも憲法解釈で可能だが、より明確にするには改正が望ましい。
 ドイツでは連邦軍創設の際自衛を目的とするとしたが、国連の軍事行動だけでなく、NATOの自衛を目的としない行動にも適用できるとしている。それを証明したのがコソボ紛争への派兵で、国連安全保障理事会の承認を得ず行動したので国際法学者の間では違反論もあるが、NATO加盟政府は合法としている。
 東西冷戦が終結し、東西ドイツの統一が成ると、集団的自衛権適用の可能性は少なくなる代わりに、大きく問題化したのがNATO周辺諸国での軍事紛争の発生だ。それがNATOに飛び火する恐れがある。それを防ぐのが軍事的な危機管理で、そのために派兵するとしたのが90年代初めのNATOの重大な戦略転換だ。
 コソボ紛争の派兵では、セルビア人勢力のアルバニア人に対する迫害をやめさせ、次いで安保理の承認を経て駐留している。結局、国連がNATOにねじ伏せられた。それは国連が、共産主義政権や軍事政権の国も含む世界組織で、民主主義国のクラブではないからだ。安保理ではロシア・中国という全体主義に近い国が常任理事国で、拒否権を持っている。
 緒方貞子前国連難民高等弁務官は、国連の平和維持活動に日本が参加できないようだと、日本のプレゼンスはどんどん下がってしまうと心配する。国連には米国に次ぐ拠出金を出し、米国を上回るODA(政府開発援助)を出しながら、国際的に主権国家と認められないような状況は極めて異状。やはり憲法を改正し、きちんとした国家になるという気概が必要だ。
 国の根幹である国防については、自衛のために自衛隊を持ち、世界の平和維持、平和回復のために派遣できると明確に規定することが必要。ブッシュ米政権は日本との同盟を重視する立場から、集団的自衛権を認めるよう迫るものと思われる。マスコミも産経と読売二紙は認める立場なので、雰囲気はかなり変わってきている。

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