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「春窮」に怯える北朝鮮の人々・上

思想新聞2003年2月1日号【視点論点】

山梨学院大学教授 宮塚 利雄氏

迷走する「経済改革」

 脱北者急増の背景

 昨年1年間に韓国に亡命した北朝鮮の脱北者は、1100人を超えた。最近では中国に3~4年も潜入せず、第3国経由でなく、すぐ韓国への亡命を手助けする組織がある。旅券を偽造していきなり韓国に飛ぶが、もちろん、それにはかなりの金が要る。
 脱北者急増の決定的な原因は、北朝鮮の食糧不足にあるが、加えて政府に対する絶望感が広がっている。長年祖国建設のために働いてきたのに、米の飯が満足に食べられる可能性はより遠のいている。そこに亡命者の成功談が漏れ伝わる。最近外貨、特にドルを集めるのは亡命資金にするためだ。韓国に亡命した女性は5千ドルを持っていた。
 外貨商店では値段は高いが欲しいものが手に入る。1ドル=150ウォンとされるが、実際には330~340ウォンになっている。今、北朝鮮が外貨を稼げるのはミサイルとマスゲームだ。ところがミサイル技術の輸出は米国の監視で難しくなり、マスゲームに動員される国民も疲れている。北のドルは在米朝鮮人の送金が大半で、そのため平壌には教会もある。
 また最近の「経済改革」にもかかわらず、国営商店には商品が戻らず、実際には闇市場はますます増えている。経済改革では普通、闇市の値段を国営店の値段に合わせるが、国営の価格を闇市の価格に合わせて上げた。給料を20倍にもしたが、紙幣が足らず慌てて紙幣を増刷。新紙幣は、旧紙幣とデザインが同じで数字が違うだけのものだ。
 モノがなくて値段と給料を上げたので、急激なインフレになった。平壌はともかく地方は圧倒的にモノが足りない。ところが物価は全国均一。流通が整備されずに、全国一律価格は厳しい。圧倒的多数の声なき人民が牙をむくことはないから革命が起こらないだけだ。
 新義州の特別行政区もうまくいっていない。開城の工業団地は韓国の企業が進出しているが、見通しは非常に厳しい。新義州の経済特区には中国が反対。川を隔てた国境の近くに北朝鮮の特区ができると、外国の資本が中国ではなく北に行くから中国は販売市場になってしまう。中国東北部も外資導入に必死で、資本が対岸に行くのを黙って見ているわけにはいかない。だから新義州特区の責任者である楊斌を脱税容疑で逮捕したのは、なかなか巧妙なやり方だ。
 開城に工業団地を造るプロジェクトが本格的に動き始めたが、同様の計画がこれまで何度も挫折している。何しろ圧倒的なインフラ不足。新義州も特別行政区に指定はしたが、まともなインフラも工場もなく動き出すには10年以上かかるだろう。
 そこで食糧が喉から手が出るほど欲しいので、日本と拉致被害者の家族の帰国問題で交渉して、50万トン程度の食糧支援を得ようとしている。しかし、合意して実施されるまで輸送船の手配など2カ月はかかる。歴史的に朝鮮半島で食糧がなくなるのが「春窮」といわれる3月から4月、春麦が収穫されるまでの端境期には間に合わない。
 その上、核開発への制裁として、米国は重油援助の凍結を打ち出した。それが実施されると、何より軍に与える影響が大きい。北朝鮮の電力は水力が6割、火力が4割で、そのうちの1割が重油で、援助の重油は発電には使われず、第2経済委員会という軍用に回る。精製してジェット機の燃料にするので、それが途絶えると軍の士気に影響すると思われる。

 強腰とタイミング

 拉致被害者の家族の交渉は、弱腰の外務省ペースではダメだったろう。あの国は強腰で押さないとダメだが、瞬間湯沸かし器のように激昂するので、その前に一歩引いて、タイミングよく冷却期間を置くことも重要だ。
 米国に核開発を正直に認めたのは、米側が濃縮ウランを製造する遠心分離機を買った証拠を突きつけ、強腰に出たから。最初はないといって交渉のテーブルを蹴ったのが、一時間後に戻ってきて認めた。日本に対しては、拉致も長い間認めず、行方不明者だとして扱っていた。それを一転して認め、謝罪したのは、経済が逼迫し、何としても援助が欲しいからである。
 今回の交渉では日本側が有利。北は国交正常化で経済支援を得る前に、さし当たって食糧援助が欲しい。最大の支援国、中国もいい加減にして欲しいと思っている。脱北者が流れ込んで、そこから外国を目指すものだから、事件が起きて世界から注目を浴びてしまう。
(取材・協力=世界思想、文責・編集部)

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