思想新聞 2000年6月15日号【視点論点】

教育問題研究家
四 方 遼 氏
「“人を殺してみたかった”という彼はその先に何が見えたのだろう? 何が見えたか教えてほしい。自分の”成長”のために無差別に人を殺してしまった君は、それに見合った成長を見せ、そして何かを感じたらそれを伝えなければいけない。君にとっての”実験台”は他の人にとってはかけがえのない人間だったのですから」――。
相次ぐ少年の凶悪犯罪に関し、私は担当する大学1年生約100名の授業で取り上げ、次の質問内容で自由に書いてもらった。
(1)少年による一連の凶悪事件についてどう思うか(2)事件が起こる原因は何だと思うか(3)今後こうした事件を起こさないためにどうすればよいか(4)凶悪事件を起こした少年達に送りたいメッセージ。
冒頭の文章は、高校サッカーで全国大会出場した岩手出身のF君のメッセージの一部。難しい質問に、少年犯達とは1~2歳しか違わない、入学したばかりの学生達がB四判用紙の表と裏に各々の思いのたけをびっしり綴ってくれた。限られた紙数で彼らの真摯な叫びを挙げ尽くせぬのが甚だ残念だが、その一部を紹介し、事件の問題解決の糸口を見出せればと思う。
「衝動的な理由であっさり人を殺せる少年が何人もいることが信じられない。動機がバカバカしいものばかりで理解できない。怖いと言うしかない。年齢を考えても甘えた考えが腹立たしい。“自分はここにいる”という叫びをこういう形でしか表現できない少年達が哀れ」。
(1)事件の原因に、【1】人間関係・コミュニケーション・人とのふれあいの希薄さ、未熟さ 【2】自己コントロールできず、自己中心で我慢する心の欠如 【3】同年代の育った遊び(テレビ、ゲーム、ビデオ、漫画、インターネットなど)の影響 【4】家に閉じこもって仮想と現実の世界が区別できぬ暴力的疑似体験をし、ゲーム感覚で殺人を受容。情報の氾濫、規制がなさすぎ【5】神戸事件の影響やマスコミの報道姿勢――などを挙げる。そして最も多かったのは「親からの愛情不足、学校に教育をなすりつける親、子供に甘すぎるか放ったらかしの親が多いこと」だ。
また、(3)「どうすべきか」は、「学校が悪いと言わず、親がしっかり我が子を育てる。人に迷惑をかけることは悪い、人殺しなどもってのほかなど、人として当たり前のこと、善悪のケジメを親が幼い頃から教えるべき。共働き家庭も多いが、子供と接する時間、語り合う時間を多く持つ。親が子供の異常に気づかぬのは子のうわべだけ見ているから。もっと真剣に向き合い、子が親に進んで話せる家庭を築く。親の愛に勝るものはない」など、大半の学生が「人間関係の希薄さは家庭に原因。全てはそこから」と真っ先に挙げているのは、意外というべきか、尤もというべきか。
そして次に多いのは「少年法改正」。次の授業で学生達に「少年法をどのように改正すべきか」と問うと、「未成年という理由で罰が軽いのはおかしい」という。「少年法について実際に調べたことのある人は?」と尋ねると、誰もいない。同法の全文をコピーし配布。少年法の問題点と改正案を紹介し、バスジャック事件をもとに少年事件の審理の流れを説明した。
「理性で止めることはできなかったのですか」「犯行に踏み切る前に相談できる人はいなかったのですか」「何か大きいことをしたい、こういう経験をしてみたいと実際にやり遂げた勇気、実行力。しかし向ける方向が間違っていた。他人に迷惑をかけてやり遂げたことは満足に繋がらず、必ず後悔が残る。折角の勇気や実行力を、喜びを得ることや他人が喜んでくれることに使うべき」「やってしまったこと、自分が何をしたのか、その過ちの大きさをしっかり考えてほしい、決して逃げるな」「取り返しのつかぬ犯罪を犯したのだから、しっかり罰を償うように。そして残りの人生を多くの友をつくり、視野を広め、人のために尽くしてほしい」「もっと自分を大切にし、自分と同じように周りの世界を大切に。”いのち”を絶対に軽く見てはいけない、いのちあってこそ人間輝けるもの」「今後の長い人生で過ちを反省し、決して現実から逃げるな。人間は決して一人で生きられないもの。君のことを思ってくれる人が周りに何人もいることを忘れるな」「被害者とその家族はもちろん、君の家族や周りの人たちが受けた悲しみ、人の気持ちが分かる人になって」――。
一人で読むのはもったいない。こうした百名近くの学生達の切々たるメッセージを読み、”近頃の少年たちは…”とひと括りにすることだけは決してしてはなるまい。寧ろ、危うさをたくさん抱えた現代という社会状況の中で、一人ひとり健気に必死に生きる多くの若者たちの健全さを大切に見守り続けたい。そして、彼らの真摯で温かいメッセージが罪を犯してしまった少年らに届いてほしいと祈る想いである。


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