この記事は2011年8月1日に投稿されました。
思想新聞8月1日号に掲載されている「主張」を紹介する。
米国防省は7月14日、初のサイバー戦略を発表した。サイバー空間を陸、海、空、宇宙と並ぶ新たな「作戦領域」と位置付け、米軍のサイバー防衛能力を増強するもので、同盟国に対して共同監視システムの構築など連携強化を目指す。今やサイバー攻撃は安全保障を脅かす「軍事攻撃だ。わが国も安保戦略の要に据えるべきだ。
中国と北朝鮮が米日韓を標的に
サイバー攻撃は増加の一方だ。米連邦議会の政策諮問機関「米中経済・安全保障調査委員会」は昨年11月、中国当局が米国などへのサイバー攻撃を組織的に行っている実態を明らかにする対中年次報告書を発表したが、それによると中国政府や共産党、民間組織などが高度の方法で外国のシステムに侵入している。
昨年初めには米国大手ネット企業グーグル社が「オーロラ作戦」と呼ばれるサイバー攻撃を受け、米国の金融、化学、メディアなど計33企業のグーグル系電子メールに侵入され、知的所有権を含む大量の秘密情報が中国側に盗まれた。今年3月には国防総省のネットワークに侵入され、国防関連のデータを含む2万4千個のファイルが盗まれた。その中には戦闘機や潜水艦などに関する機密情報も含まれており、リン米国防副長官は「国家による犯行だ」と断定している。
こうした事態を受け米国は09年に国家サイバーセキュリティー・通信統合センターを設置、昨年5月には米軍コンピュータ網の防衛を任務とする「サイバー司令部」をワシントン近郊のフォートミード陸軍基地に約1000人規模で新たに設置した。加えて今回、「作戦領域」に格上げし、本格的な対サイバー戦略に乗り出すわけだ。
新戦略は、サイバー空間を新たな作戦領域と規定し、センサーやソフトウエアを利用してサイバー攻撃を水際で防ぐシステムを導入するなど米軍ネットワークの防衛体制を強化、サイバー攻撃による障害が起きた場合の防衛力を高め、作戦への影響を防止するバックアップシステムも構築するとしている。
さらに日本や北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国とサイバー攻撃に対する共同警戒
システムを開発し、合同訓練を実施するなど共同防衛体制の構築を目指す。また兵器や防衛関連企業などのネットワークを守る民間協力も拡大。軍が電力の99%を依存する民間の電力会社なども防衛の対象に含む。
サイバー攻撃の被害を受けているのは米国だけではない。韓国は今年3月、北朝鮮からのサイバー攻撃にさらされ、大統領府や外交通商笥国防省や韓国軍と在韓米軍、銀行など40ヵ所のウェブサイトが「DDoS攻撃」(分散型サービス拒否)を受け、一部の企業サイトが接続不能になった。また北朝鮮は韓国の衛星利用測位システム(GPS)をかく乱する電波を発射し、ソウル首都圏の西・北部地域で受信障害が発生した。
わが国に対するサイバー攻撃は今のところ中国が主だ。昨年9月、尖閣諸島でわが国の巡視船に体当たりした中国漁船の船長が逮捕された直後には中国のハッカー集団が日本へのサイバー攻撃を呼び掛け、警察庁のホームページがダウンした。
サイバー攻撃を甘くみてはならない。北朝鮮はGPSかく乱装置を使って米国製の巡航ミサイル「トマホーク」や韓国製の巡航ミサイル、統合直接攻撃弾(JDAM)などを標的にしている。03年のイラク戦争では、イラク軍が同装置を使ってGPSで誘導される米国の統合直接攻撃弾に電波妨害を起こし、民間市場を誤爆させ、多くの民間人死傷者が発生した例がある。サイバー攻撃は軍事攻撃そのものなのだ。
国際テロ集団によるサイバーテロも想起しておく必要がある。軍事関連施設だけでなく、重要インフラも狙われるからだ。
原発へのサイバー攻撃も危険度高い
とりわけ①情報通信②電力システム③ガス・石油備蓄運搬④金融機関⑤運輸交通機関⑥水道供給システム・医療・警察・消防・救助など緊急サービス⑦政府活動の8分野の危険度が高い。いずれもコンピュータ管理されており、データが破壊、改ざんされると国民生活が破壊されるからだ。
例えば原発の電力喪失がいかなる事態を招くかは福島第一原発事故で目の当たりにした。銀行や証券取引システムに侵入し、かく乱すれば、金融システムが崩壊し大混乱に陥るほか、航空管制システムのコンピュータ・システムに入り込みデータを改ざんすれば、民間航空機の衝突もあり得る。新幹線のコンピュータ・システムに入って速度を変更し、大事故を起こすことも考えられる。
あらゆる事態を想定して国家安全保障に臨まねばならない。米国のサイバー戦略を座視せず、わが国もサイバー戦略を構築し国民の暮らしを守るべきだ。
2011年8月1日


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