小泉首相は妥協なき対話を
思想新聞2002年9月15日号【1面top】日朝首脳会談の課題
拉致、核・ミサイル疑惑、不審船米韓との連携が軸になる
9月17日に小泉首相が訪朝し、初めて日朝首脳会談が開催されることになった。小泉首相は金正日総書記と直接対話することで日朝間の懸案問題の打開の糸口をさぐり、拉致やミサイル・核開発、不審船問題などで一定の前進があれば日朝国交交渉を再開させるとしている。一方、北朝鮮は米国のイラク攻撃が取りざたされる中で孤立感を深め、日朝首脳会談をテコに米朝対話を再開させ、さらに日本から「賠償金」を手に入れて経済危機を乗り越えたい考えとされる。日朝首脳会談が北東アジアの平和と安全に寄与し、南北統一、東アジア共同体へと連動する一里塚となれば、きわめて意義深い会談になろう。だが、北朝鮮の牙を抜くことなく安易な日朝国交・経済援助の道を開けば、北朝鮮の軍事的「強盛大国」づくりに手を貸したことになり逆に世界の平和を阻害することになる。小泉首相は世界平和確立への不退転の決意で訪朝しなければならない。
イラク攻撃で浮上91年情勢と同時性
日朝首脳会談はなぜ急きょ持ち上がったのか。言うまでもなく米国のイラク攻撃が迫ってきたからだ。
米国同時多発テロ事件からちょうど1年。国際テロ戦線は新たな段階に差し掛かっている。アフガン問題が一段落し、次なる国際テロの拠点潰し、すなわちブッシュ米大統領が「悪の枢軸」と名指しにしたイラクにどう対応するかという事態に入った。ブッシュ政権はイラクが国際核査察を受け入れない限り、軍事攻撃を行いフセイン政権を打倒するまで戦う決意を固め、国連や同盟国との調整に入っている。
イラク攻撃の次は北朝鮮問題である。これは91年の湾岸戦争の時とまったく同じ構図だ。90年8月のイラクのクエート侵略、91年1月の湾岸戦争でのイラク攻撃の後、「次は北朝鮮だ」の声が米議会でにわかに高まり、北東アジアの危機が急浮上した。
だが、北朝鮮はイラクと違う。仮に戦争が勃発すれば中国の介入も予想され、韓国は言うまでもなく、日本も戦場になる可能性が高く、中東では想像できない犠牲者を生みだすことになるのは必至である。
そこで同年11月に世界平和連合の文鮮明総裁が訪朝し、金日成主席との間で【1】人道問題の解決(南北離散家族探しと再開)【2】核エネルギーの平和的利用の限定と国際核査察の受け入れ【3】軍需産業を除外した対北朝鮮経済投資・支援の拡大【4】南北首脳会談の開催の4項目合意がなされた。
だが、その後、核疑惑が頂点に達し、さらに94年に金日成主席が死去。同年、北朝鮮の核開発の放棄と引き替えに軽水炉を提供する米朝核枠組みが成立したものの、テポドン発射、ミサイル輸出、さらなる核開発疑惑などが浮上し、2000年6月に南北首脳会談が行われたものの、平和への具体的進展は見られず今日に至っている。
そして米国同時テロ事件が起こり、ブッシュ米政権は「悪の枢軸」と断固として戦い国際テロ戦線の粉砕を目指している。こうして再びイラク問題が浮上してきたのだ。米国は北朝鮮に対しては核開発疑惑がありミサイル開発および輸出を行ってきた確固たる証拠があるとしている。だから「悪の枢軸」と呼び、イラクと同様の姿勢で臨もうとしている。
もはや北朝鮮問題は単なる北東アジア問題に終わらず世界平和全体の問題となってきているのだ。北朝鮮への軽水炉支援は8月に基礎工事が始まり、いよいよ本体の炉心部の設置が迫ってきた。その前に北朝鮮は国際核査察を受け入れなくてはならない。そのタイムリミットが来年である。イラク問題の進展いかんにより来年、米国は対北朝鮮政策に集中してくることになるだろう。そのとき、ポスト金大中政権はいかなる対北政策を採用するだろうか。大きな岐路に立たされる。
だから米国が対外的にはイラク攻撃、対内的には中間選挙に忙殺され、韓国が大統領選挙にひた走る今、北朝鮮が外交攻勢を仕掛けられるのは日本だけということになる。日本もまた、孤立化を深め経済危機に瀕して日本の援助を期待する北朝鮮との交渉を有利に進めるチャンスでもある。
単なる二国関係ではない自覚を
こうした思惑から電撃的な日朝首脳会談開催へと進んだことは想像に難くない。
このような背景を見れば、日朝首脳会談に臨む小泉首相の姿勢は自ずから明らかになるだろう。その第一は前記の四項目合意にあるように人道問題の解決、そして核査察受け入れに象徴される安全保障の確立、そのうえでの経済援助すなわち国交正常化交渉であるということだ。
日本にとって人道上の最大の問題は、8件11人(これだけではないが)の拉致者の安否確認と解放である。小泉首相はここで腰が引けてはならない。北朝鮮はよど号犯が関わった拉致については安否確認および帰還を認める方針だと一部で伝えられる。だが、これで問題解決にはならない。全員の安否確認および解放を迫らねばならない。これは国交交渉の大前提である。
さらに日朝首脳会談で確認しておくべきことは、日朝関係を単なる二国間関係として扱ってはならないということだ。北朝鮮問題の第一の核心は言うまでもなく安全保障問題だからである。
北朝鮮はかねてより「四大軍事路線」をはじめとする軍国化を進め、今年の年頭スローガンが「強盛国家建設」であるように、この路線は今も変えていない。つまり脅威が現に存在するのだ。だから「太陽政策」を進める金大中大統領も対北朝鮮三原則の第一に「いかなる武力挑発も認めない」(98年2月、就任演説)としている。対話がいくら進展しても安全保障をないがしろにできないのが、韓国のみならず日本の立場である。
世界の懸念はすでに述べたように核・ミサイル開発・輸出問題である。北朝鮮が世界から孤立化し、米朝交渉が進まない最大の原因はここにある。核開発疑惑は払しょくされていない。北朝鮮は核査察を迫る米国の主張をはね除けている。
こうした姿勢を続ける以上、日朝国交は論外である。米国の同時多発テロ以来、国際テロに対する国際社会の監視の目は一段と厳しくなっている。世界平和を確立し、さらに北東アジアの安全保障を確固たるものにするための日朝交渉でなければならない。北東アジアの安全保障の要は米国であり、米国を主軸とする米韓、日米の両安保条約で安保を確保している以上、米国との連携を抜きに日朝交渉を進める道理はないのだ。
北朝鮮問題の第二の核心は、南北統一問題である。2000年6月の南北首脳会談で「統一問題の自主的解決」(南北共同声明)を唱っているように、南北統一は韓民族の悲願である。南北統一がいつ、どういう形で進展するか、予断を許さない。しかも1965年に結んだ日韓基本条約でわが国は韓国を「朝鮮唯一の合法政府」と認めている。同条約では北半分については白紙状態にしているが、韓国を無視した日朝交渉はあってはならないことなのだ。
ましてや北朝鮮は日朝国交で「戦後賠償」の獲得を求めている。日韓条約締結の際には5億ドルの無償・有償援助を行い、これが韓国近代化の起爆剤となったが、北朝鮮の場合、「強盛大国」に利用されたり、南北統一への阻害要件となれば東アジアの将来に禍根を残すことになる。このことを十分に踏まえた日朝交渉でなければならない。
小泉首相はそうした世界的視野を持ち、慎重に日朝首脳会談に臨まねばならない。米韓との連携を強め、将来を見据えて功を焦らず、慎重に取り組むことが肝要である。


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