思想新聞2002年3月15日号【主張】
スパイ防止法制定が不可欠だ
日航機「よど号」をハイジャックして北朝鮮に渡った元赤軍派メンバーの元妻、八尾恵さんが12日に東京地裁で開かれた同グループの妻の旅券法違反事件の公判に証人として出廷、1983年に北朝鮮の工作員と図って英国留学中の有本恵子さん(当時23)を拉致したと証言した。これによって拉致事件の詳細が初めて明らかになり、小泉首相は「拉致事件をいい加減にして北朝鮮との国交正常化交渉はありえない」と言明、警察庁に対して拉致事件に毅然と対応するよう指示した。
この証言を受けて、何よりも政府に求められることは拉致事件の全容解明と日本人解放を北朝鮮に迫っていかねばならないということである。
日本政府がこれまで拉致として認定しているのは、新潟市で下校途中に拉致された横田めぐみさん(当時13)ら7件10人で、いずれも北朝鮮の工作員によって日本国内で拉致された。有本恵子さんの場合は北朝鮮の工作員と元赤軍派メンバーによって欧州で拉致されており、ほかに日本人男性2人の失踪も拉致と見られている。
八尾証人によると、拉致はよど号グループ最高幹部の田宮高麿の指示で「日本を金日成主義化するため革命の中核を担う日本人を発掘、獲得、育成がよど号グループのこれからの課題」として実行された。有本さん拉致では朝鮮労働党の工作機関「対外連絡部」に所属する大物工作員キム・ユーチョルという人物が直接関与している。当時、西側情報機関はキム工作員を常時マーク、83年7月にコペンハーゲンのカストロップ空港でキム工作員と有本さんの写真を撮影している。
政府は八尾証人の証言を得て拉致事件の徹底解明に当たり、北朝鮮に対して拉致事件の解決(日本人解放)を迫っていかねばならないだろう。
第2には7件10人の拉致事件が日本国内で起こっていることを見逃してはならないことだ。なぜこのような拉致が主権国家である日本の国内で易々と許したのか政府はその真相究明にも当たらねばならない。
我々が一貫して主張しているように、スパイ防止法なき日本は「スパイ天国」として拉致をはじめとするスパイ工作員の徘徊を結果として許してきたのである。北朝鮮工作員はかねがね「日本にはスパイ防止法がないから安心して潜入できる」(亡命工作員の証言)とうそぶき、平然と潜入を繰り返してきた。たびたび起こる不審船事件はまさにその証である。
スパイ工作は何も冷戦時代に限った話ではない。現に冷戦後もスパイ事件が多発しており、2000年秋に起こった海上自衛隊三佐によるロシア・スパイ事件では米海軍艦船の攻撃システムが漏えいしたとされ、日米防衛協力に陰を落とした。
98年夏の北朝鮮のミサイル発射問題では、米国は日本の機密保護体制が不十分で米軍情報が北朝鮮に筒抜けになることを警戒して情報提供をしぶったとされる。その北朝鮮のミサイル開発に日本の技術者が関わっていたり、韓国への侵入用の潜水艦用具に日本の製品や技術が利用されており、これらは北朝鮮の対日スパイ工作の「成果」とされている。
鈴木宗男衆院議員の証人喚問で同氏が北方領土放棄論を外務省に働きかけていた事実が発覚したが、90年代半ばから外務省内で急速に台頭した「二島先行返還論」にはロシア工作員が動いていなかったのか、新たな疑念も生じている。
たとえば鈴木氏と組んでロシア外交を牛耳ってきた外務省の佐藤優前主任分析官は学生時代に黒ヘルの過激派学生として活動し金日成主義を崇拝していたといわれる(世界日報3月6、7日)。同氏は思想転向しているのか、それとも思想的確信犯として入省したのか、真相は不明のままである。鈴木氏は警察庁に対して旧KGBの情報将校であるロシア外交官の監視を中止するよう要求していたと報じられている(読売三月八日)。
今回の鈴木問題では外務省の「秘」情報が簡単に流れ出ているが、はたしてこれでいいのだろうか。むろん、国家行政に対する情報公開は国民が国の政治について広範かつ正確な情報を得て正しい判断と選択ができる前提条件であり、民主国家において必要不可欠なことである。しかしその一方で、個人のプライバシーの侵害や国家の安全を損なう情報についてはそれを保護するのも、国民の生命と財産に責任をもつ民主国家として当然のことである。
すでに情報公開法が制定され、さらに今国会では個人情報保護法が制定されようとしているのに、国の機密保護についてのみ棚上げされているのは、国家の安全保障上、きわめて由々しき事態と言わざるを得ない。
とまれ拉致事件の再発を阻止するには、拉致されない日本の国づくりが不可欠であり、それにはスパイ防止法制定が必要であることを強く訴えたい。


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