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北朝鮮三代世襲の行方 〜金正恩の北朝鮮〜

「世界思想」2010年12月号より掲載─詳細は「世界思想」を参照ください

北朝鮮の金正日総書記の後継体制が姿を見せた。若干27歳の3男・金正恩氏が朝鮮人民軍の「大将」となり、いきなり党軍事委員会の副委員長に就任した。これで3代世襲がほぼ決まった。どうやら中国もこれを容認したようだ。金正恩は世襲の正当性を強調しようと軍事冒険主義に走り、中国は「体制保障」の代わりに北朝鮮を植民地にしようと蠢く。北東アジアの危機は深化する。

後継体制は「一族支配」

まさに「若大将」の登場である。朝鮮労働党代表者会が開かれる前日の今年9月27日、金正日総書記は3男・金正恩氏と実妹・金慶喜党軽工業部長(64)ら6人に「大将」の軍称号賦与の命令を下した。朝鮮人民軍の最高位は大元帥(故・金日成主席のみ)で、大将は元帥(金正日金書記と李乙雪氏の2人)、次帥に次ぐ第4位だ。今回の人事で次師が8人、大将が26人と膨れ上がった。
 軍歴がまったくと言ってない20歳代の若者と60歳代の女性が血縁だけを根拠にして、いきなり大将になる。そこに金正恩後継体制の異様さが表れている。
 9月28日に開催された党代表者会・党中央委員会総会は、共産国に例の見ない3代世襲を正当化するために開かれた。党代表者会の開催は、1966年以来44年ぶり、党中央委の選挙は30年ぶりのことである

党規約を改正し金氏血統主義へ

世襲正当化作業の第1は、党親約を1980年の党大会以来、30年ぶりに改正したことだ。新たな党規約は序文で、初代金日成主席の「主体思想」創始を評価し、それを「発展させた」として2代目の金総書記の「軍事優先政治」(先軍政治)を称える。
 その上で朝鮮労働党を「金正日同志を中心に組織思想的に強固に結合された労働階級と勤労人民大衆の核心部隊であり、前衛部隊」と規定し、党が「先軍政治を社会主義の基本政治方式として確立し、革命と建設を指導する」とした(読売新聞10月9日付)。
 すでに金日成主席は神格化され誕生日は「太陽節」になっている。それを継承・発展させた金正日総書記は偉大な指導者であり、その「金日成の血統」の中に朝鮮労働党がある。そういう論理立てで金正恩副委員長を登場させた。だから、初めて公表した金正恩副委員長の写真は革命の聖地であり、金日成主席の遺体が安置されている錦繍山記念宮殿の前での金正日総書記との集合写真だったのである。
 これまで金正日総書記は国防委員会を軸にして軍支配を行い、党は影が薄かった。ところが今回、党が軍を指導するという金日成時代の路線に戻し、それを金正恩氏の権力基盤にしようとする方針を打ち出した。そのために党代表者会・党中央委総会を開いた。
 3代世襲の正当化作業の第2は、権力ポストを血縁者・側近で固めたことだ。従来、長老たちが占め実質的に機能してこなかった党政治局を復活させ、そこに血縁・側近を配する党政治局・党中央軍事委員会人事を断行し、党指導体制を一新した。

軍事冒険主義を踏襲し危機深化

では、金正恩後継体制は何を目指すのか。党規約で「朝鮮労働党は先軍政治を社会主義の基本政治方式として確立し、革命と建設を指導する」と強調した以上、金正恩氏は軍を使って世襲正当化の実績を上げようとするのは必至である。
 金正日総書記の場合、1973年に党中央委員会書記に選出されたが、表舞台に登場したのは7年後の80年の第6回党大会、38歳の時だった。さらに権限委譲は1992年、国防委員会委員長に選出されることによって実現した。その20年の間に韓国や日本にテロ工作、拉致など過激な実績作りを行った。
 例えば、在日韓国人を使った朴正熙大統領暗殺未遂事件(同夫人死亡=74年8月)やラングーン爆弾テロ事件(83年10月)、大韓航空機爆破テロ事件(87年11月)などがそれである。また日本人拉致事件も引き起こした張本人も金正日総書記だ。
 金正日総書記の実績作りが今日の先軍政治につながっている。とすれば、金正恩副委員長がこれを踏襲するのは日に見えていよう。しかも、わずか27歳である。金正日総書記が08年8月に脳梗塞で倒れ、健康問題を抱えているから、3男・金正恩氏を早く登場させざるを得なかったからだ。
 実績作りを焦っているのは、10月10日の朝鮮労働党創建65周年の記念軍事パレードにおいて金正日総書記とともにひな壇に並んで閲兵し、後継者であることを内外にアピールしたことから知れる。
 だが、金正恩氏は大将、党軍事委副委員長になったといっても、何ら軍歴も実績もない。それだけに金正恩氏やその側近たちは、3代世襲を正当化する実績作りを急ぎたくなる。そこから軍事冒険主義の危険性が高まる。ここに金正恩後継体制の危うさが秘められている。
 北朝鮮は金日成主席の生誕100年となる2012年に「強盛大国の大門を開く」として先軍政治を強めている。党創建65周年の記念軍事パレードで中距離弾道ミサイル「ムスダン」と見られる新型ミサイルなどを見せびらかしたように、核・ミサイル開発や核実験も予想される。
 2012年はすなわち金日成主席の生誕100周年、金正日総書記70歳、金正恩副委員長30歳の年でもある。それを目指し3代世襲を正当化し金正恩後継体制を構築する。20歳代で「大将」となった金正恩副委員長は「先軍政治」を継承しようと父・金正日総書記と同様の過激な行動に打って出てくれば、北東アジアの危機が深化するのは避けられない。

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