思想新聞 1999年6月5日号
「公共財」アジア安保に貢献 北の対中・ロ接近に警戒必要技術流出にスパイ防止法制定急げ

対北朝鮮政策の見直しを検討している米国のウィリアム・ペリー政策調整官(前国防長官)は、5月25日から4日間に及ぶ北朝鮮訪問を終えた。今後、報告書がクリントン大統領に提出される。日本が米・韓との緊密な連携をはかり北東アジアの安定に寄与するためには、ガイドライン法案成立につづいて領域警備に関する法改正はもちろん、有事法制化を実現しなければならない。
ペリー調整官は訪朝を終えた5月28日、韓国ソウルで日韓との高官協議を行い、今後の対北朝鮮政策について協議した。会談後の記者会見でペリー氏は、北朝鮮指導部に核やミサイル開発に関する「日米韓の断固とした懸念」を伝えるという当初の目的を達成したと述べた。同氏は今後2~3週間以内に新たな対北朝鮮政策に関する報告書をまとめ、クリントン大統領に提出する。
ペリー氏が描く基本的考えとは、北朝鮮に対し日米韓が求める「対話」に応じなければ「厳しい措置」で対処するという両面からのアプローチだ。まず、北朝鮮側に最優先問題として核やミサイルの開発中止を求める。これに北が前向きな姿勢で応じるなら、日米韓は南北対話促進や経済援助、日朝関係正常化に取り組む。逆に、あくまで核・ミサイル開発を続け要求に応じないなら、経済援助停止などで臨むという内容になるとみられる。

ただ、日本にとって「日本人拉致事件の解決」という重要案件がある。これがどこまで踏み込まれた報告書となるか。韓国についても、91年に合意された南北対話促進を見据えており、今回の政策見直しを「新たな敵視政策」と警戒する北朝鮮の強硬姿勢を避けたい。米国は韓国の対北朝鮮交流・拡大をはかる「太陽政策」を支持しており、日米韓にはそれぞれ微妙な温度差があるのも事実だ。
それでも日米韓が緊密な連携をはかり、北朝鮮に対応しなければならない。北朝鮮は昨年9月、金正日が国防委員長に就任。その後「強盛大国」という新たな国家目標を掲げ、昨年末には「主体朝鮮」と書かれたミサイル3基が東京、ワシントン、ソウルと書かれた飛行機に照準をあわせた「ミサイル・ポスター」まで作成している。さらに今年早々には、地下核施設の存在が浮上、「査察」をめぐって米朝交渉が難航した。

このように北朝鮮の基本戦略とは、「核・ミサイル」カードをちらつかせながら交渉を延々と続けて、経済・食糧援助を引きだす。この間、金正日体制を維持強化しつつ、米国を射程に入れる弾道ミサイルと核弾頭を保有することだ。
こうした北朝鮮の政治的揺さぶりに対して、日本は残念ながら翻弄されてきた。実際、今年3月の工作船事件でも「日本側のでっち上げ」で収束してしまっている。だからこそ、北東アジアの安保機構は米国を機軸に形成されている事実からも、日米韓3国の防衛協力体制の構築が急がれよう。日米には安保条約、米韓には相互防衛条約があるものの、日韓には基本条約が存在するだけで、安保協力に関する条約は存在しない。
日米安保体制は「アジアの公共財」(岡崎久彦元駐タイ大使)だが、これに韓国を加えた連携がさらなる安定に貢献しよう。これにより北朝鮮の対中国・ロシア接近に対しても十分な対応が整う。 そのためにも、まず日本は防衛体制の整備が急がれる。課題は多いものの、ガイドライン法案は成立した。次は有事法制化も急がれる。
同時に看過できないのが、日本からの北朝鮮への技術流出。昨年12月に韓国領内に侵入した北朝鮮潜水艇が同国海軍によって撃沈されたが、この潜水艇の全装備品の約2割が日本製だった。また昨年9月には、航空自衛隊のバッジ(自動防空警戒管制)システムに関する文書がNEC(日本電気)府中事業所からコピーされ、フィリピンで売却されかかった事件も起こっている。
これでは防衛機密の保護がお粗末極まりない。、米中間で核スパイ事件が起こっている折、わが国でも早急なスパイ防止法の制定が待たれる。
ペリー調整官 会見要旨
- 姜錫柱第一外務次官との協議では、北朝鮮のミサイル・核計画に対する米国と同盟国の懸念や、朝鮮半島北東アジア地域の平和、安全保障問題など広範囲な重要課題を取り上げた。
- 5月26日に金永南・最高人民会議常任委員長に会い、金正日労働党総書記にあてたクリントン大統領の親書を手渡した。また、訪問期間中、金大中韓国大統領と日本の小渕恵三首相のメッセージを伝達。
- 金正日総書記には会わなかったが、当初の目標は、同総書記と直接的つながりのある高官らと関係をつくり、米国と同盟国の見解と懸念を伝えること。その目標は、達成されたと確信している。
- 北朝鮮側は核合意、ミサイル協議、4者協議などを維持する意向を強調した。
- もう一つの目標は、米国と同盟国のミサイルや核計画に対する懸念が取り上げられるプロセスの一環として、米朝の関係や協力の大幅拡大の可能性を探ることだった。
- 現時点で、これに対する明確な回答がなくても、驚くに値しない。北朝鮮がこうした提案を検討するには、時間がかかるだろうし、米国にとっても今回の訪朝を評価するには、もう少し時間が必要だ。


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