思想新聞 1999年8月15日号 主張
北朝鮮のテポドン2号ミサイルの発射準備が取り沙汰されている中で、小渕首相は「いま直ちに有事法制化することは考えていない」(7月15日・自衛隊高級幹部会議)としている。今年版防衛白書は「法制が整備されることが望ましい」と述べているものの、具体的日程はまったく検討されていない。これはやはり「平和ボケ」と言うしかあるまい。
防衛出動しても動けない自衛隊
もし有事が発生した際、自衛隊に防衛出動が発令され、国民と国土の安全確保をめざして自衛隊が行動を起こす。だが、その行動をスムーズに行わせる法律や体制が整備されていない。
これまで再三指摘されてきたように、侵略してきた敵と戦うために陸上自衛隊の部隊が急行しようとしても、道路交通法に基づいて動かなけばならない。あるいは、陣地を構築しようにも私有地を使用する法的根拠がない。
拒まれれば、なすすべがなく立ち往生する。法整備がなく当然、政令も準備されておらず、せっかく自衛隊が防衛出動しても、混乱を重ねてその役割を果たすことができない事態が危惧されている。
さきの周辺事態法では、有事に対応する米軍への協力が40項目を越えた。それは防衛庁のみならず自治(自治体協力)、運輸(港湾・空港協力)、厚生(病院協力)などなど、すべての省庁が関わっており、そればかりか、もっとも重要なのが民間協力であることを見せつけた。
日本有事となれば、周辺有事とは比較にならない多くの分野で協力体制づくりが不可欠となる。そのための法整備、つまり有事立法について防衛庁が20年以上も前から検討しているにもかかわらず、歴代政権はそれを先送りにしてきた。
冷戦終焉後、地域紛争は逆に増加し、北東アジアもその例外ではなく、韓半島だけでなく台湾海峡においてもきな臭さが漂ってきた。昨年8月には北朝鮮がテポドン・ミサイルの発射実験を強行し、さらに今年3月には北朝鮮工作船の侵入事件があったばかりである。そしてテポドン2号の発射準備がうんぬんされているのだ。
これもまた防衛上の常識の部類に入るが、周辺有事は即、日本有事につながってくる。周辺事態における自衛隊の協力活動を「交戦区域と一線を画する地域」と限定してみたところで、空軍力やミサイル射程能力が格段に向上した現在、交戦区域は限定されず常に流動化する。
しかも、周辺有事に対応する米軍は日本に司令部(極東司令部=東京・横田)と拠点基地(横須賀・沖縄)を持っている。周辺有事が日本有事へと連動していく確率の方がはるかに高い。
そのことは北朝鮮のミサイル問題を見れば一目瞭然であろう。そんなときに小渕首相は有事法制化を政治テーマに考えていないというのだから、国民の不安がつのるのは当然だ。
スパイ防止法もタナ上げのまま
有事以前の問題も棚上げにされたままである。その第一は、スパイ防止法が未整備のままである。北朝鮮のミサイル部品の多くが日本製であると伝えられおり、スパイが暗躍しているとの指摘も少なくない。
第二には、自衛隊の領域警備への法整備である。不審船事件で不法侵入に対するザル状態が明白になったにもかかわらず、自衛隊に領域警備をさせないで「現行法の枠内」で対応するとしている。
安全保障の問題は国家の基本中の基本である。その基本をないがしろにして、政治が責任を果たしているとは到底いえない。日本有事への対応を急ぐべきだ。


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