思想新聞 1999年3月5日号
「非核港湾条例」拡大を懸念
有事法制棚上げが混乱の一因
周辺有事の際の米軍による民間港や空港、病院の使用をめぐり、一部地方自治体の協力拒否が懸念されている。法案には、自治体の協力拒否に対して罰則規定がない。高知県が法案提出した「非核港湾条例」の全国拡大も危惧され、日米安保体制そのものに重大な支障を来す恐れもある。有事法制の棚上げという安保政策の欠陥が、こうした混乱に拍車をかけているようだ。

反安保、観念的平和論者が首長なら拒否
ガイドライン関連法案のうち、周辺事態法案第9条「国以外の者による協力等」では、「関係行政機関の長は、地方公共団体の長に対し、その有する権限の行使について必要な協力を求めることができる」(第1項)などと規定する。また政府・自民党は2月3日、自治体・民間協力の「想定項目例」をまとめた。それによると協力の内容は、「事態ごとに異なり、具体的に確定される性格のものではない」と前置きした上で、地方公共団体の管理する港湾や空港施設の使用許可や、人民及び物資輸送に関する地方公共団体・民間運送事業者の協力、公立・民間病院への患者受け入れ、地方公共団体による給水などを上げる。
今国会ではとりわけ、周辺事態に関する「地理的概念」の問題や「後方支援」のあり方について議論が交わされている。しかし日米防衛協力を支障なく行うには、こうした自治体の協力が不可欠であることは言うまでもない。
しかし同法案からも明らかなように、米軍に対する自治体の協力は、あくまで「要請」にすぎない。すなわち、かりに自治体がこれを「拒否」しても罰則はないのである。これによって、地方自治体の首長が反安保体制者や観念的平和論者である場合、こうした拒否行動に出ることも予想される。

非核港湾条例は反安保への動き
そうした反安保体制への策動の一例が、高知県の「非核港湾条例」だ。橋本大二郎知事は2月定例議会で、外国艦船が同県内に寄港する際、核兵器を搭載していないことを証明する「非核証明書」の提出を求める県港湾施設管理条例改正案などを提出した。同県議会では改正案に反対する自民党が過半数を占め、否決される見通しだが、こうした動きそのものが日米防衛協力に不安を与えるものだ。
今後は、同様の条例案提出や地方議会におけるガイドライン法案への反対決議、米軍への水供給を認めないなどの動きが全国的に拡大することが懸念される。
一方、政府は高知県に対して「国家の防衛や外交は国の責務である」(野中官房長官)として、地方公共団体の権能を逸脱していると批判した。かりに「非核港湾条例」が制定され、外務省に「非核証明書」提出が要請されても、発行には応じないという。
また自民党は全国の各都道府県連に対して、地方自治体の米軍協力に関するガイドライン関連法案の趣旨に理解と協力を求める文書を送付。政府も法案施行までに自治体協力のあり方を明記したマニュアルづくりを行う。その際、政府は協力要請に対して自治体は理由がない限り一般的に義務を負うとするとみられる。
あくまで「協力拒否」を主張する自治体に対して、政府には罰則など法的措置も辞さない姿勢が求められよう。
国の存立なくして地方自治あり得ず
ところで、政府に対して「いざ有事となれば反対する自治体はいないだろう、という楽観的姿勢があるのでは」と指摘する声もある。
例えば、政府のこうした防衛感覚はガイドライン関連法案にも指摘できる。国会では「後方支援」のあり方や「機雷除去は戦闘行為か」の扱い、「船舶検査における武器使用は正当防衛か」など、法案のあいまいさを野党側に批判されている。こうした政府の対応が自治体に不安を与えてきたことも否定できない。
自治体協力について混乱を生んでいる原因には、日本有事における法制化の棚上げがある。政府と地方自治体・民間との間における権利権限は、有事法制の法整備段階で調整されなければならない内容だからだ。欧米では、有事における緊急命令、戒厳令の規定を憲法・法律などで規定している。有事法制化に着手しないわが国の現状では、安全保障を全うしようとすること自体に無理がある。
政府は、国の存立なくして地方自治もあり得ないことを訴えると同時に、悠長に有事法制の検討を重ねているときではないと知るべきだ。


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