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中国にあふれる脱北者たち 背後には夥しい難民の群れ

思想新聞2002年10月1日号【視点論点】

山梨学院大学教授 宮塚 利雄 

 中国・瀋陽は、北朝鮮の領事館があり北の情報を入手するのには格好の場所だ。中国には北朝鮮からの脱出者が数万から10万人前後いる。中国と北朝鮮の国境付近を歩いてよく会った。商売人もいるが、ほとんどは食べ物がなくて逃げるケース。
 この国境千400キロを車で踏破した。国境を結ぶのは橋だが、一カ所だけ白頭山の麓にある双目峰が陸路だ。ここの国境警備所を直接見た外国人は私だけだと言われた。中国側で国境警備に当たる兵士は、ほとんどが朝鮮族。彼らは「逃亡者を見つけると捕えて送り返すが、見つからずに逃げた人は知らないふりをする」。ある兵士は、その部署だけでも既に 2千人以上送り返したという。

  食糧難で逃亡

 国境付近にある北の市場には中国と韓国の商品が溢れる。中国人も北に入って商売し、北では韓国製品は質が良いと人気がある。中国に出て来るには、合法と非合法の両方あり、上流は川幅が狭く浅いので歩いて渡ることができる。昨年行って驚いたのは、夜になると両岸から小さな舟が出て魚を捕っていた。国境線は川の真ん中にあるが、暗くなると区別がつかず、暗黙の了解で両国の舟が入り乱れ漁をする。国境線警備も厳しくないところがあり、特に北朝鮮は韓国との軍事境界線の警備があるので、中国との国境線は手薄になりがち。
 北の人々は中国に行けば物が豊かにあることを知っている。白頭山の近くに国境を挟んで中国の長白市と北朝鮮の恵山市があるが、夜になると両者の違いは歴然。恵山は真っ暗だが、長白はネオンサインが明るく輝いている。両市の間には地図に載っていない幅一メートルほどの幻の橋があり、自由に行き来できる。
 現在、中国には約208万人の朝鮮族がいて、海外のコリアン社会としては最大。延辺朝鮮族自治州の州都である延吉は韓国の地方都市の感じで、看板はハングルと漢字で書かれている。昔から自由に往来していたので、中朝国境に住んでいる人たちにとり川向こうは隣村だ。昔は国境を越えても罰せられることはなかったが、 90年代のソ連・東欧の崩壊に伴い北の経済が悪化し食糧事情が悪くなると、中国へ逃亡する人が出てきたので厳しくなった。
 それは92年8月に中国と韓国が国交正常化し、93年ころから多くの韓国人が来るようになってからだ。舟で北朝鮮側に近づき、食べ物やタバコを投げて渡すような韓国人が出てきた。それを喜ぶ北の人もいたので、取り締まるようになった。 95年ころからは食糧難で逃げる人が増えた。

  交渉に応じる時期

 食糧支援は、本当に困っている人たちに届かないので効果がない。地域によっては国連の担当者が入れず、どう配られているか分からない。きちんとモニタリングできないところに食糧を支援するべきでない。国連機関などの食糧支援も焼け石に水。最近の報告によると、新生児の平均体重は 2500グラム以下で、5歳以下の幼児の40%が栄養失調。その子らが成人する十数年後に大きな影響が出るのは確実だろう。
 しかし北はしたたかで、いざとなれば韓国や日本から援助が来ると見越している。農業改革には外国の援助が必要だが、今の体制のままでは不可能。
 北朝鮮の底力はマスゲームを見ると分かる。やろうと思えばできる国。大々的なアリラン祭は、まだ余裕があるからできる。記念日には建物や記念碑を造っている。本当に余裕がなくなると、経済援助を引き出すために日朝国交正常化交渉に応じるだろう。
 日本は北から魚介類を大量に買っており、それに紛れ密入国者も増えるだろう。不審船は覚醒剤の運搬や要員の交代に使われていると見られる。中朝国境付近のカーバイト工場では覚せい剤を製造している疑いがある。偽札印刷やマネーロンダリング(資金洗浄)などもやっている恐れがあり、日朝交渉を進めても、一方では厳しい対応が必要だ。(取材・協力=世界思想、構成・文責=編集部)

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