思想新聞 1999年5月15日号 主張
日米防衛協力の指針(ガイドライン)関連法案が衆院を通過、参院での議論を経て6月に成立する見通しである。これによって、わが国の安全保障体制の「空白」が埋められ、より現実的な対応が可能となる。そうした中で、さきほど情報公開法が成立、平成13年に施行されることが決まったが、情報公開とは裏表の関係にある防衛秘密の保護に関する法整備はまったく行われていない。
何がなんでも情報公開か?
民主国家において、国民が国の政治について広範で正確な情報を得ることは、政治への正しい判断と選択ができる前提条件であろう。その意味で情報公開法の制定は、国民の知る権利を保障し「開かれた行政」を目指す第一歩として歓迎されよう。
しかし、何がなんでも情報公開というわけではない。今国会で制定された情報公開法は、政府の行政文書の原則公開を義務づける一方で、特定の個人を識別できたり個人の権利を害する恐れがあるものは非公開にし、また外交、防衛、捜査などに関する情報についても関係省庁のトップの判断で非公開にできるとしている。
つまり、個人のプライバシーの侵害や国家の安全を損なう情報についてはそれを保護しようとしており、これもまた民主国家としては当然の措置といえる。だが、情報公開について法整備しながら、情報保護については法律でこれを定めないのは、明らかに片手落ちではないだろうか。
とりわけ、国の安全に関する防衛秘密については、国家としてこれを守る明確な意志を表明し、これに反して防衛秘密を外国に通報するスパイ行為に対して厳罰で臨む法律、すなわちスパイ防止法を整備しておかねばならない。
情報公開法は国家の存立を前提として情報を公開するものだが、スパイ防止法は国家の存立そのものを守る法制度であり、したがって本来、スパイ防止法が制定されている、その前提の上に情報公開法がつくられてしかるべきである。
世界では情報公開法を定めていない国はあっても、名称はともあれ防衛秘密を保護しスパイ行為を防止する法制度を持たない国家は一国たりとも存在しない。それは国家の生存に関わる基本的な法制度だからだ。
むろん、このことは日本政府・自民党も先刻承知しており、昭和60年には「防衛秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律」案を国会に提出したが、結局、審議未了で廃案になり、東西冷戦の終焉によって、いつしか忘れられてきた経緯がある。
しかし、ガイドライン関連法案がそうであるように、わが国の平和と安全を守る基本的な法整備が今ほど急がれるときはない。
北朝鮮のスパイ工作も野放しに
実際、先の不審船事件では北朝鮮の対日スパイ工作があらわになったが、「日本にはスパイ防止法がないから安心して潜入できる」との亡命工作員の証言もある。北朝鮮のミサイル開発に日本の技術者が関わっていたり、韓国への侵入用の潜水用具に日本の製品や技術が利用されており、これらも北朝鮮の対日スパイ工作の「成果」とされる。
また、北朝鮮のミサイル脅威からわが国の安全を守るために「情報衛星」を保有することになったが、情報は収集、分析、保護の三つのレベルで体制を整備してこそ生かされる性質のものである。このことは軍事的常識とされている。
こうして見れば、あらゆる面からスパイ防止法の早期制定が望まれる。少なくとも情報公開法が施行される平成13年の前に法整備しておくべきである。


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