思想新聞 2000年6月15日 主張
先の通常国会に憲法調査会が設置され、立法府で本格的な憲法論議が始まったことで、国民の間でも憲法論議が高まってきた。憲法論議は個人や家庭、国家のあり方や世界との関わり方などを根本的に問い直す絶好の機会である。
日本の将来を憂う改憲論か、それとも戦後体制を維持して日本を滅亡に追いやる護憲論か、憲法論議を通じてしっかりと見定めておきたい。
憲法委員会への発展が不可欠に
読売新聞の世論調査(今年3月)によると、国民の改憲賛成派は昨年に比べて7%増加し、初めて六割に達した。それも全世代で過半数を超え、護憲派はついに3割を切って27%に低落した。同調査の90年代の賛否の推移を見ると改正賛成派が上昇し、反対派が下降を辿っていることが明らかになっている。国民世論は改憲へと大きく動き出していることが明白である。
国会に初めて憲法調査会が設置され、今後、さらなる憲法論議が展開されれば、国民の改憲派は一層増加していくことになると期待される。
現行憲法が制定されて半世紀以上が経つが、この間、憲法改正の発議権(憲法九六条)を持つ国会に憲法論議の場がなかったことは憂うべきことであった。その結果、憲法改正を国民に問う「国民投票法」といった手続きの法律すら作られてこなかった。その意味で国会に憲法調査会が設置されたことは改憲への第一歩と評価できよう。
もちろん、調査会が今後、どう進んでいくか予断を許さない。それは調査会というのは文字どおり調査する会にすぎないからだ。本来、立法府は法律を作ることが使命で、憲法に関しても条文の改正案を立案するところに立法府の役割がある。
そもそも国会法では衆参両院に常任委員会および特別委員会を設けて、ここで議案を発議し案件の審議を進めることになっている。これに対して憲法調査会は「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う」とあるだけで発議権はなく、立法案などを審議することはできない。こうした壁をうち破るため憲法調査会を憲法委員会へと発展させねばならない。
憲法調査会での論議は当初、衆院では「地方自治」「基本的人権」「私学助成」の三つのテーマを先行議論、参院では「安全保障」「二院制」をテーマに据えることになっていたが、2月下旬の参考人聴取が始まると、「制定過程」をはじめさまざまな角度から論議が行われるようになった。タブーを設けないで論議が進められており、これは好ましい傾向だ。
いずれにしても我々は以下の点を改正の焦点として捉えるべきであると考えている。
第一には、天皇の元首の明確化である。現行憲法では元首の規定がなく、共産党のように天皇制反対の立場から「国の代表者は首相」と主張する勢力も存在する。この際、天皇が元首であると明確に規定すべきだ。
第二には、国防義務と自衛権の明示である。国を守ることは国民の義務と規定し、国連憲章に明示する集団的自衛権の保持・行使を明文化することによって国の安全と国際社会への責任姿勢を示す必要がある。
第三には、人権と義務を整合化させることだ。義務を軽視し権利氾濫によって「公共の福祉」が混乱している。
第四には、家族と伝統を重視することである。現行憲法は個人主義に貫かれており家族の規定がなく、今日の青少年の非行増大などさまざまな弊害をもたらしている。「家族の価値」を再定立させなくてはならない。
第五には、非常時態勢の確立である。現行憲法は非常事態宣言がないなど、世界で希な平和ボケ憲法といわれる。非常時態勢を明示しておかないと有事に対応できないし、先に小渕前首相が病に倒れた際にも少なからず混乱を招いた。
人間観、家庭観や国家観の確立必要
第六には、憲法裁判所を新設することだ。違憲審査権だけをもつ裁判所がないため、事件が起こらないと違憲審査ができず憲法判断を求める案件審議が形骸化している。
第七には、改正手続きの軟性化することだ。現行憲法は硬性憲法であるため解釈改憲がまかり通っており、時代に則した憲法に改正可能なように手続きの軟性化が必要となっている。
こうした改正点のほか、首相公選制の導入や私学助成問題、環境権・プライバシー権・知る権利など新しい権利の設定を行うのかどうかなど、多方面から論議を進めていくべきだろう。
とくに21世紀の日本のビジョン、「国がら」「国体」を憲法論議を通じて明確にしていくことが望ましい。憲法論議はいわゆる条文論議だけに終わらせるのではなく、それを通じて人間観や家庭観、国家観の確立へと発展させていくべきである。


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