思想新聞2001年11月1日号】【ニューススコープ】
「スパイ防止」はテロ対策の柱
米・中枢同時テロに対するアフガニスタンへの軍事行動(米英による)が、去る10月7日始まった。3週間後の10月29日、ようやくわが国でテロ対策関連3法案が国会を通過、成立した。テロ対策三法案とは、米同時テロへの対応策として米軍などの後方支援を可能にする「テロ対策特別措置法案」、不審船にたいして威嚇射撃だけでなく、船体射撃も認める「海上保安庁法改正案」、そして「自衛隊法改正案」である。注目すべき「自衛隊法」の改正 一般人とテロリストを見分けることは極めて難しい。それゆえ、テロの実行を未然に防ぐことも極めて困難である。あの米国でさえ9月11日の悲劇を回避することができなかったのだ。軍事力以前の問題であり、それゆえテロ対策の要は「情報」とならざるをえない。テロリストに関する情報、テロリスト一掃のための共同対処情報などが生命線となってくる。
テロ対策三法において注目すべきは自衛隊法の改正である。自衛隊のあらたな任務に「警護出動」を追加するほか、【1】飛行場などの自衛隊施設警備のための武器使用を認める【2】武装工作員を鎮圧するために武器使用を認める【3】海上警備行動時の不審船に対する船体射撃を認める、そして【4】スパイ防止のため防衛上の秘密漏えいに対する罰則強化が盛られている。
自衛隊法改正案が衆議院に提出されたのが10月14日。朝日新聞が早速16日づけ社説で、「防衛秘密」にかかわる内容に噛み付いた。「この改正、ちょっと待て」と題して、法案には「知る権利にかかわる重大な条文」がふくまれており、そのため「防衛秘密条項は成立を急ぐべきではない。テロ対策とはきちんと分けて、徹底的に開かれた議論にさらすべきだ」というのだ。しかし、前述のように「テロ対策とはきちんと分けて」テロにかかわる防衛秘密を論議するようなことは不可能なのである。
改正法では、第96条2項を新設し、新たに「防衛秘密」の制度を導入している。防衛庁長官が「防衛上特に秘匿することが必要」なものを「防衛秘密」と指定するとし、対象として「自衛隊の運用」から「施設の設計」まで10項目を示している。さらに「防衛秘密を取り扱うことを業務としているもの、していたものが漏えい」した場合、5年以下の懲役、「防衛秘密漏えいの共謀、教唆、煽動」には3年以下の懲役の罰則を設けている。テロに対する基本的認識が不足 諸外国では国防機密を漏えいした場合、米国やフランス、ロシア、中国は最高刑が死刑、ドイツは無期懲役といった重罰で望んでいることと比較すると、今回の改正案は罰則が軽すぎるといえる。しかも、外国に通報する目的の探知、収集についての条項がないばかりか、外交機密を除外しており、国家機密の保全上、真に不充分である。
「テロ事件」の直後、集団的自衛権の発動を宣言したNATO諸国と比較するまでもなく、日本人は一般にテロへの理解が不足している。テロ攻撃の可能性に対して、自衛隊が国民とその財産を守る為に国内での警備を行うことにすら反対する声が出ている。「自衛隊が一般国民に銃を向けてはならない」などという感情的言葉が一部政治家、それも自民党の政治家から飛び出した。どこから誰が攻撃してくるかわからない、それがテロである。同じ人達によって、自衛隊が警備するにしても、国会、官邸、皇居はだめだとの主張もなされた。テロリストが日本の体制や社会に攻撃をかけるとしたら、これらの場所、その国の象徴ともいえるこれらの場所こそが、もっとも効果的な目標ではないだろうか。米国テロを見れば一目瞭然である。
前述したように、テロに対する認識が基本的に不足している。相手は国家ではなく、しかも外から宣戦布告して攻めてくるのではない。いつスリーパー(潜伏者)が動き出すかも知れないのである。まさに異次元の敵なのである。繰り返しとなるが、その対策の柱は「情報」となる。「スパイ天国」汚名返上への第一歩 スパイ防止法(国家秘密法)は1980年代初期以降、多くの国民が制定を求め、全地方議会の過半数が制定を求める意見書を採択したのである。これを受けて自民党は同法案を国会に上程したが、結局1985年廃案、未成立に終わった。朝日新聞をはじめとする一部メディアや社会(現社民)、共産党など左翼勢力は、成立阻止の一大キャンペーンを張ったのである。
だが、冷戦終焉後も「漏えい事件」が続発した。98年、防衛庁の装備品納入をめぐる背任事件の一環として航空自衛隊バッジシステム(自動防空警戒管制システム)の秘密情報漏えい事件がおき、昨年には海上自衛隊元3佐がロシア駐在武官に秘密情報を漏えい。今年、懲役10カ月の実刑判決を受けている。
国際テロとの戦いには、国際的反テロネットワーク構築が不可欠であり、その柱はテロ情報の共有、共同対処である。「スパイ天国日本」という現状を放置できない。ともあれ、この度の自衛隊法改正は汚名返上の第一歩であるといえよう。
□国家秘密法案と今回の自衛隊法改正案の比較
| ▼国家秘密法案(1985年廃案) | ▼自衛隊法改正案 | |
| 秘密の定義 | □国家秘密=防衛秘密と外交秘密 □別表の事項・文書・図が・物件で、「わが国の防衛上秘匿することを要」し、「公になっていない」もの | □防衛秘密 □防衛庁長官が指定 □別表の事項で、「公になっていない」ものののうち、「我が国の防衛上特に秘匿することが必要」なもの |
| 秘密に関する事項 | 1、防衛態勢など 態勢などの構想、計画、実施状況、自衛隊の部隊編成・装備・任務・配備・行動など 2、自衛隊の装備品・資材・艦船、航空機、武器、弾薬などの構造・性能・技術・数量など 3、外交 外交方針、交渉内容、外国情報、暗号 | 1、自衛隊の運用、または運用に関する見積もり、計画、研究 2、電波情報、画像情報など 3、情報の収集整理、能力 4、防衛力整備の見積もり、計画、研究 5、武器、弾薬、航空機など(船舶を含む)の種類、数量 6、通信網の構、通信方法 7、暗号 8、武器・弾薬、航空機などの仕様、性能、使用方法(以下略) |
| 取り締まり対象と罰則 | □外国に通報する目的で国家秘密を探知・収集(死刑~二年以上の有期懲役) □国家秘密を取り扱うことを業務とするもの、していたものが漏えい(10年以下の懲役) □国家秘密漏えいの教唆、煽動(五年以下の懲役) | □外国に通報する目的の探知、収集についての条項なし □防衛秘密を取り扱うことを業務とする者、していた者が漏えい(五年以下の懲役) □防衛秘密漏えいの共謀、教唆、煽動(三年以下の懲役) |
□別表の事項・文書・図が・物件で、「わが国の防衛上秘匿することを要」し、「公になっていない」もの□防衛秘密□防衛庁長官が指定□別表の事項で、「公になっていない」ものののうち、「我が国の防衛上特に秘匿することが必要」なもの秘密に関する事項1、防衛態勢など 態勢などの構想、計画、実施状況、自衛隊の部隊編成・装備・任務・配備・行動など2、自衛隊の装備品・資材・艦船、航空機、武器、弾薬などの構造・性能・技術・数量など3、外交 外交方針、交渉内容、外国情報、暗号1、自衛隊の運用、または運用に関する見積もり、計画、研究2、電波情報、画像情報など3、情報の収集整理、能力4、防衛力整備の見積もり、計画、研究5、武器、弾薬、航空機など(船舶を含む)の種類、数量6、通信網の構、通信方法7、暗号8、武器・弾薬、航空機などの仕様、性能、使用方法(以下略)取り締まり対象と罰則□外国に通報する目的で国家秘密を探知・収集(死刑~二年以上の有期懲役)□国家秘密を取り扱うことを業務とするもの、していたものが漏えい(10年以下の懲役)□国家秘密漏えいの教唆、煽動(五年以下の懲役)□外国に通報する目的の探知、収集についての条項なし□防衛秘密を取り扱うことを業務とする者、していた者が漏えい(五年以下の懲役)□防衛秘密漏えいの共謀、教唆、煽動(三年以下の懲役)


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