国際勝共連合 機関紙 思想新聞は創刊56年 最新の主張はこちらから

中国で全人代開催

この記事は2015年3月30日に投稿されました。

「習氏一強体制」誇示は国内基盤の脆さの裏返しだ

中国の国会にあたる全国人民代表大会(全人代)が3月に開催された。中国がこれから1年間、どのような方向に向かうのかが決定される最も重要な会議である。
 そこで読み上げられる原稿は事前に入念に準備されており、それがそのまま数千人の代表団の圧倒的多数で承認される。議案が否決されたことは今まで一度もない。つまり全人代そのものは形式的な手続きに過ぎないのであって、そこで採択される議案の中身は、開幕ぎりぎりまで続く熾烈な権力闘争によってすでに決められているのである。むしろ習近平政権になってからは、習氏がいかに権力を牛耳っているかを誇示する場にすらなっている。
 習氏があえて強権ぶりを強調するのは、今の中国がそれだけ不安定な状況にあるということの裏返しでもある。習氏の政治基盤は今なお脆弱であり、何らかのきっかけで一気に崩壊する可能性を含んでいる。その習氏の不安を端的に示す例を2つあげてみよう。
 1つは報道統制である。全人代の期間中に開かれる記者会見には何百人という記者が詰めかける。だが、今回の全人代の記者会見で質問できたのは、当局が事前に指定した記者だけだった。もし批判的な報道が少しでもあれば、それが国民の中に渦巻く不満に火をつけ、権力闘争に利用されかねないからである。
 そしてもう1つは異常な警備体制だ。習氏は最近の行事で、一度配置した警護要員を信頼できず、5分前に数百人を総入れ替えしたことがあった。また全人代では、女性職員が習氏の前に湯呑を置くときですら、警護2人が厳しく監視した。その女性たちが突然習氏を襲撃するかもしれないと考えたのである。
 習氏がこれだけ敏感になるには理由がある。それだけ多くの政敵を強硬に葬り去ってきたのだ。習氏は「反腐敗運動」を掲げ、国民からも高い支持を得てきた。しかし逮捕された幹部には習氏が属する派閥(太子党)の人物は1人もいない。昨年1年間に更迭された人数は全国で55000人にも及び、この中には元最高幹部の周永康・元政治局常務委員も含まれる。これだけの強権をふるえば、いつ一大党内抗争が起きて習氏が失脚しても不思議ではないだろう。
 実は今回の全人代は、習氏の権限の強さを誇示するのとは裏腹に、「いかに習氏の政治基盤が脆弱であるか」をも同時に示すことになった。この具体的な内容について、以下の3つの観点から説明することにしよう。

経済成長鈍化を容認する「お手上げ」状態

まず第一に、経済の成長目標の引き下げである。全人代で李克強首相は、2015年の国内総生産(GDP)の成長目標を7.0%前後に設定した。これまで3年連続で7.5%前後だった成長目標を0.5%引き下げたのである。
 実は中国のGDPの2014年の成長率は7.4%であり(1月20日中国統計局発表)、1990年以来24年ぶりの低水準だった。国際通貨基金(IMF)は、今年の中国成長率が6.8%に低下し、さらに来年には6.3%になるとの見通しを示している。李首相は今年の7.0%の目標実現が「簡単ではない」と述べたが、妥当な発言であろう。
 「成長率7%」は、中国ではかなり深刻なレベルだ。中国では単純な人口増だけで毎年労働者が500万人程度増えており、高い経済成長率を維持できなければこの大半が失業者となる。昨年の中国の失業率は5.1%だが(同上)、これは一部の都市部だけの数字であり、農村部もあわせた総合的な失業率データは存在しない。実際の失業率は8〜9%程度と推測されており、毎年多くの大卒者が失業者となっている。低学歴者であればなおさらだ。今も中国全土では、1日平均500件の暴動が起きている。失業者がこれ以上増えれば暴動が拡大し、手が付けられなくなるだろう。そうなれば習氏の政敵が黙っていない。「習政権の経済政策は失敗した」といって、最高指導者から引き摺り下ろすのは必至である。
 しかし中国経済の成長鈍化は、もはや誰にも止められない。これまでは無理に経済成長を維持させてきたが、すでに地方政府の借金は限度を超えており、バブルの崩壊は目前だ。頼みの綱の海外からの投資も激減している。高騰する人件費などを背景に、日本からの投資額は昨年1年間で4割も減少した。
 そこで習政権が今回の全人代で打ち出したのが「新常態(ニューノーマル)」路線である。これは従来の「GDP至上路線」を捨てたことを意味している。李首相は「坂を登り峠を越える重要な段階」と説明したが、要は成長鈍化は止められない、もう「お手上げ」だということである。
 むしろ習政権は、すでに「いかに急激な失速をふせぐか」に視点を移している。日本に対しても昨年のような安倍政権批判は影をひそめ、投資の回復を期待しているようだ。

増加率が際立つ国防予算

次に国防費の増加である。
 全人代に合わせて公表された15年の国防予算は、前年比10.1%増の約16兆9千億円だった。国防費の2桁増は5年連続となり、日本の防衛費(5兆円弱)の約3.4倍となった。また、先ほど説明したように中国の経済成長率は7.4%と伸び悩んでいるから、国防費10%増がいかに際立っているかがよくわかる。
 だが周知のとおり、この増加した予算の中には多くの重要な軍事支出が含まれていない。たとえばロシアなどの外国からの装備購入費や空母建設に必要な研究開発費などは「科学技術予算」に組み込まれている。習政権は明らかに軍拡路線を突き進んでいるのである。
 この理由には大きく2つあるが、いずれも中国国内の政治事情によるものだ。1つ目は国民の共産党政権への期待を「経済成長」からそむけ、「強い中国」へとすり替えることにある。習氏の国家主席就任以来のスローガンは「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢」である。実は習氏は就任当時から、中国経済の停滞は避けられないことを熟知していた。それで国民の支持を得るために、あえて軍拡路線を強調することにしたのである。
 そしてもう一つの理由は政治基盤の確保である。習氏は派閥争いが激化する中で、軍部の強硬派を味方につける道を選んだ。国防費が増えれば、当然そこから軍の幹部が得る利権は大きくなる。逆に減れば離反する。以上の理由から習氏は、この軍拡路線を変えることはできないのである。
 これだけ不安定な習政権が、今のところ本気で戦争に打って出るとは考えにくい。しかし軍部がこれ以上力を持てば話は別だ。軍部が勝手に行動し、偶発的な衝突が起こればそこから戦争が始まる。日本としては、その戦意を打ち砕くだけの抑止力を確立させておく必要がある。

権力の一極集中

そして三つ目が「権力の一極集中」である。これまで中国では、最高幹部(=常務委員)数人による集団指導体制が敷かれてきた。しかし習氏は、党、国家、軍などのあらゆる分野の権力を自分のもとに集約した。特に大きかったのは、治安維持組織の権限を掌握するために「中央国家安全委員会」を創設し、自らその主席に就任したことである。その後習氏は「トラ(大物)もハエ(小物)もたたく」という「反腐敗運動」を徹底して推し進めた。政敵を次々に摘発し、国民もこれを支持している。習氏はこれで、権力闘争の勝利と国民からの支持という2つの成果を手にすることができたのである。
 しかし習氏のカリスマ化が進めば独裁者としての危険性が増すことは間違いない。中国はすでに集団指導体制から「習氏1強体制」と化した。その習氏は「中華民族の偉大な復興」を唱え、超大国アメリカと対等な立場に立つという野心を隠さない。その手始めとして、日本がほんの少しでも隙を見せれば、牙をむき出しにして襲い掛かってくるだろう。習氏の野心を打ち砕くための安全保障体制の充実が急がれている。

2015年3月30日

コメント

タイトルとURLをコピーしました