思想新聞2004年3月15日号【ニューススコープ】
北朝鮮問題を話し合い六カ国協議の第2回会議は北京で2月25日から4日間にわたって開催されたが、北朝鮮は「核カード」の温存を固執して原則論を主張し続け、結局、継続協議とそのための作業部会設置を決めただけに終わった。いわば大山鳴動してネズミ一匹だ。改めて北朝鮮が核開発を止める気のないことを浮き彫りにした。継続協議は、国際社会の制裁を恐れて対話を続けているポーズを取ったにすぎない。北朝鮮は米大統領選の行方を注視しているのだ。ブッシュ再選か、それともケリー民主党政権登場かを見定め、いつ「核カード」を切れば有利なのかを慎重に探っているのだ。日本は「圧力カード」を持ち拉致解決を含めて包括的解決を一貫して主張していくべきだ。
米大統領選の行方にらみ“時間稼ぎ”の継続合意
北朝鮮の核問題などを解決する六カ国協議は昨年八月、北京で開催された。南北二カ国と米国、日本、それに中国、ロシアが同じテーブルに着き、周辺五カ国はそろって北朝鮮に核放棄を求めた。
これに対して、北朝鮮は「核保有」を盾にし米国に「不可侵条約」を結ばせて「安全の保証」を取り付けようと試みた。北朝鮮の要求は米国が重油提供と食糧支援を拡大すれば核計画放棄を宣布、さらに米国が不可侵条約を締結し電力損出を補償すれば、核施設の査察を許容するというものだ。
つまり、北朝鮮は核放棄の口約束だけで米国から重油提供と食糧支援の実を受け取ろうという算段だった。これには米国がノーを突きつけ、結局、六カ国協議は暗礁に乗り上げた。
国際社会の包囲網さらに縮まる
それから半年経っての今回の第2回会議である。この間、中国の呉邦国・全人代委員長が十月に訪朝し、金正日総書記に米国側の「安全の保証」文書化案を示すなどして六カ国協議の再開を促し、金総書記もこれに原則合意。しかし、北朝鮮はあくまでも「核保有」を外交カードから手放そうとせず、高飛車の要求を繰り返してきた。
たとえば北朝鮮の核開発を受けて朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)が11月末、軽水炉建設事業の1年間停止を正式に決定すると、北朝鮮は「途方もない電力損出」として損害賠償を要求した。同事業は北朝鮮が核開発を行わない見返りとして始まったもので、北朝鮮自らが核開発を表明した以上、米国が重油提供を中断、そして建設事業を中止するのは当たり前のことだが、北朝鮮に聞く耳はなかった。
だが、国際情勢は北朝鮮に一段と厳しくなってきた。11月には北朝鮮とともに「ならず者国家」と米国に位置づけられて
きたイランが11月、ウラン濃縮の一時停止を表明、核施設への抜き打ち査察を可能にする追加議定書の調印にも同意。12月にはイラクでフセイン元大統領が拘束され、さらにリビアも核を含めた大量破壊兵器を全て廃棄することを米英に約束し、今年に入って実行した。
そればかりか、国際原子力機関(IAEA)はパキスタンの科学者カーン博士を元締めに世界各地にネットワークを形成している「核の闇市場」を2月までに暴き、北朝鮮が核ネットワークの一翼を担い核開発を行っている証拠を暴露した。国際社会の北朝鮮包囲網は一段と狭まってきたのだ。
そうした中で北朝鮮は六カ国協議再開を受け入れ、2月に北京で第2回会議が開催された。それだけに北朝鮮が核放棄の姿勢を打ち出すのではないかとの楽観的見通しも一部にはあった。会議初日の25日に北朝鮮代表の金柱寛外務次官は「原則を堅持しながらも柔軟姿勢を発揮する」と発言、これも楽観論に拍車をかけた。
「意見相違」に固執した北朝鮮
だが、協議が各論に入ると北朝鮮は原則論を振りかざすだけで柔軟姿勢を全く見せず、ホスト役の中国が各国に図って共同文書案をまとめたものの、北朝鮮が28日の土壇場になって突如、異論を唱え、「意見の相違が残っている」との一文を挿入することを迫り、その結果、共同文書とはできず、レベルの低い議長総括として発表するにとどまった。
議長総括は「協議を通じ相違は残っているものの、互いの立場に理解を示した」としたうえで、「六者は協議のプロセスを継続することに合意し、原則として、第3回協議を北京で04年第2・4半期末(6月末)までに開催する。全体会合の準備のため、作業部会の設置に合意した」という内容となった。
なぜ、北朝鮮が「意見相違」を突如、入れようとしたのか。それは本国指令にほかならず、そこに北朝鮮の金正日総書記の意図が読みとれる。
第一には、核廃棄の言質を取らせないためだ。協議では核問題について日韓米三国は「完全破棄」、中露は「朝鮮半島の非核化」を主張している。いずれも「非核化」であり、これに北朝鮮も従ったとの言質を取らせてはいけないという平壌の思惑がある。「意見相違」との一文を挿入することで、北朝鮮は核開発を行い得るとして「核カード」の温存を図ろうとしたのだ。
第二には、協議継続を六カ国が合意した以上、国際社会の制裁はあり得ず、したがってこれさえ取り付ければ北朝鮮にとって「安全の保証」を取り付けたも同然だからだ。だから協議は成功であり、それ以上の言質は一切必要なく「意見相違」を挿入し、平然と核開発の時間稼ぎを行う。それが北朝鮮の思惑だ。
もし六カ国協議が決裂し、協議の舞台が国連安保理に移れば、経済制裁決議案が提出され、それに中露が賛成すれば、北朝鮮は完全孤立化する。日本はすでに改正外国為替・貿易法(外為法)を成立させ、さらに北朝鮮船舶の入港を禁止する「特定船舶入港禁止法案」の成立を図ろうとしている。これが発動されれば、経済破綻は決定的となる。
しかし、協議継続としておけば、国連に制裁決議案を提案されることもないし、ましてや日本が制裁を発動することもない。だから、北朝鮮にとって最も望ましいのは中身のない協議継続にほかならない。このように見れば金正日総書記が協議継続を決め大いに満足していることが知れよう。
韓国総選挙にも北の思惑が働く
4月に韓国で総選挙が行われ、盧武鉉政権の政治基盤がはっきりするが、金総書記はそれを見定めようとしている。保守が敗退すれば、韓国を一層、北朝鮮寄りに利用できるからだ。そして、6月には米大統領選が佳境に入り、ブッシュ政権はそう簡単に動くわけにはいかなくなる。前回の大統領選の年には金総書記はクリントン政権を抱き込み、オルブライト国務長官の訪朝を実現させ、もう一押しで大統領訪朝を実現させるところだった。金総書記がそれを教訓にしていることは疑うまでもない。
だから、協議継続を「一定の成果」などと評価しているマスコミはよほどのお人好しである。このように狡猾な北朝鮮に対応するには、「圧力」を強化しておかねばならない。「圧力」のない外交交渉は「先軍政治」という力に依存する北朝鮮には通用しないのだ。
日本は北朝鮮の思惑を見据え、今国会で国民保護法案をはじめとする有事関連法案を一括成立させねばならない。さらに北朝鮮が恐れる「特定船舶入港禁止法案」を成立させ、いつでも圧力が現実として掛けられることを示しておかねばならない。そうした圧力があってこそ、拉致被害者を奪還できるのだ。


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