この記事は2011年11月3日に投稿されました。
野田首相は10月31日、首相官邸でベトナムのズン首相と会談し、日本から安全性の高い原発の輸出を行う方針を確認した。
ベトナムへの原発輸出は、韓国やフランスも受注を目指していたが、昨年10月に日本の受注が決まっていた。しかし、東京電力福島第一原発の事故後、菅前首相が「脱原発」や原発輸出の見直しに言及したため、両国間が混乱していた。
日本政府は今回、共同声明に「日本は世界最高水準の安全性を有する技術を提供する意思を表明した」と明記し、原子力協力の共同文書では、原発事故の「徹底的な検証から得られる経験と教訓」を両国で共有するとした。
野田政権で原発施策が再スタート
前首相が混乱させた原発政策が、ようやく軌道修正されて再スタートしようとしている。もちろん事故からの経験と教訓を検証することは非常に重要だが、野田政権にはそれと同時に原発政策を力強く進めてもらいたい。
そもそも問題を複雑にしたのは、事故後の菅前首相の唐突な発言である。5月6日夜、予定外の記者会見を開いた前首相は、中部電力に対し、静岡県御前崎市にある浜岡原発の全面停止を求めた。さらに前首相は7月13日、「将来的に原発に依存しない社会を目指す」と、脱原発宣言へと突き進んだが、これらはいずれも閣議了解を得たものではない、前首相の個人プレーだったのである。元市民運動家の前首相ならではの発言ともいえるが、これらの発言がもたらす影響は国家レベルでは甚大である。なぜなら原発政策は、単なるエネルギー政策ではなく、国家の経済政策であり、科学技術政策でもあり、さらに安全保障政策でもあるからである。
福島第一原発事故の原因は、今なお検証されている最中だが、その中で、今回の事故のもっとも大きな原因が、技術的な問題以上に人為的なものにある可能性が指摘されている。たとえば福島第一原発には、1号機に非常用復水器(IC=アイソレーションコンデンサー)と呼ばれる強力な冷却系があった。これは、全交流電源が喪失したとしても緊急的に炉心の燃料を冷却させられる装置であり、原発を事故から守る「五重の砦」のまさに最後の砦だった。しかし事故当時、これを現場の運転員が意図的に停止させており、しかもその措置を責任者である吉田所長が把握していなかったのである。当然、吉田所長は、燃料を冷却させるための適切な指示を出すことができず、吉田所長はこれを「大きな失敗だった」と言っている。もしICが停止していなかったなら、1号機の水素爆発はなかったはずであり、1号機の爆発がなかったならば、2号機、3号機の事故の収束もより容易であったはずである。
運転員がICを停止させた理由は二転三転しており、大事故の原因の一つが人為的ミスだった可能性も高い。もし吉田所長がICの停止を把握しており、それを作動させていれば、今回のような大事故にはいたらなかっただろうというのである。このように、今回の事故が大きな被害をもたらした理由には、緊急事態に対処するマニュアルが用意されていなかったなど、人為的な欠陥が明らかになってきている。
さらに言えば、日本の原発のプラント技術は世界最高のレベルにある。原発のタービンを作ることができる技術は、今のところロシアと日本以外にない。また、圧力容器も日本の技術が最高であることは間違いない。つまり今回の事故は、技術力の問題ではなく、適切な管理を怠ったために、起こるべくして起きた事故ともいえる。また、この日本だけがもつ技術を、世界の多くの国々が必要としているということでもある。
エネルギー施策と安全保障面での課題
もし日本が原発をやめたとすれば、そのエネルギーはどのように生み出すのだろうか。
今の日本では、エネルギーの3割弱を原発で、6割強を火力でまかなっている。火力発電の燃料となる石油は、ほとんどが中東から輸入しており、日本まで運ぶ間にはマラッカ海峡や台湾海峡、バシー海峡などの緊張度の高い海を通らなければならない。もしエネルギーのほとんどを火力発電に頼れば、レアアースを中国が差し止めたときのことを考えればわかるように、日本の外交は非常に弱い立場におかれることになるだろう。
では、太陽光発電や風力発電などの、自然エネルギーはどうだろうか。太陽光発電は、コストが非常に高く、太陽光発電の先進国のドイツでも、これまで数十兆円のお金を投資しながら発電量はわずか0.5%にしかなっていない。ドイツ国内でも、このコストの高さは頻繁に批判されている。風力発電も、ヨーロッパと違って台風の多い日本では、台風が通過するたびに停止する可能性があり、その際のエネルギー不足をどうやって補うかを考えなければならない。
もう一つ重要なことは、原発を維持するということは、核兵器を作ろうと思えば一定期間のうちに作れるという「核の潜在的抑止力」でもあるということである。核兵器をつくるには、膨大な設備や技術が必要であり、原発を止めれば、その技術の蓄積をすべて放棄するということにもなる。核拡散防止条約(NPT)では、米国、ロシア、中国、英国、フランスのみに核保有が正式に認められている。日本に「核の潜在的抑止力」までなくなれば、さらに日本の安全保障は不利な立場に立たされることになるだろう。
今回のベトナムへの原発の輸出は、日本の原発政策の再出発ともいえる。野田政権は、原発の安全性については十分な検証をしつつも、さらなる原発政策を推し進めてもらいたい。
2012年11月3日


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