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地方自治法改正案 住民投票制の導入に断固反対

この記事は2011年3月1日に投稿されました。

総務省が地方自治法改正案の内容を固めたと伝えられる。改正案の中には一部の住民投票の結果に法的拘束力を持たせる制度の創設も含まれているという。これは片山総務相が主導したもので、直接民主制的な手法の充実を目的にしているとされる(読売新聞2月22日付)。だが、住民投票制の導入は地方自治を歪め、左翼勢力の策動を許しかねない。地方自治法改正案のうち住民投票制の導入については断固反対する。

改正の中身については是々非々で臨む

読売新聞によると、地方自治法改正案は首長の専決処分の対象から副知事・副市町村長の選任を外し、議会が専決処分を不承認とした場合、条例・予算上の是正措置も首長に義務づけ、首長が議会を招集しない時は、代わって議長が招集できるようにするという。これは前阿久根市長の独善的な“暴走”を止められなかった教訓を踏まえた法改正だという。また首長解職や議会解散の直接請求制度に関しては有権者16万人超の都市における住民投票の実施に必要な署名数を引き下げ、住民投票の要件を緩和。政令市の署名収集期間も、都道府県並みに延長する方向で調整するとしている。これは名古屋市議会の解散請求運動において署名集めのハードルが高すぎることが問題となり、混乱も招いたことを踏まえての要件緩和だという。さらに自治体が国などの是正要求に従わない場合、国が自治体を提訴できるようにする制度も導入するとしている。これは東京都国立市と福島県矢祭町が住民基本台帳ネットワークへの参加を拒否していることなどを念頭に置いたものだという。
 このような改正点について是々非々で臨まねばならない。阿久根前市長が議会を招集せず専決処分を乱発する行為は確かに異様だった。地方自治法では専決処分は議会を召集する余裕のない緊急時を想定しており、前市長のケースは法の精神から大きく逸脱していたからだ。法改正はそれを是正するもので認められる。しかし、解職や解散の直接請求制度の改正は慎重に検討しなければならない。リコールは地方自治特有の制度で、あくまでも住民の直接民主制を体現するものである。想定されているのは汚職などによって首長や議員が品格をはなはだしく汚した場合などである。ところが名古屋市の場合は、河村市長自らが議会のリコールを求めるという法の想定外の行動をとった。首長が直接、議会と対決する手段としてリコールを使うのは二元代表制を否定するものである。たとえ市長派住民によるリコールでも市長自らが音頭をとって行うのは、地方自治の本旨から逸脱する異様な行動だったと言わざるを得ない。リコール請求のハードルを下げることで、そうした逸脱行為を是認するようなことがあってはならない。

限定された住民投票制でも許してはならない

地方自治法改正案の中で断固として認めることができないのは、住民投票制の導入である。片山総務大臣がとなえているのは、一部の住民投票の結果に法的拘束力を持たせる制度を創設するというもので、拘束力を持つ住民投票の対象は文化会館など「大規模な公の施設」に限定されるとしている。だが、「大規模な公の施設」だけであっても直接賛否を問い、それに法的拘束力を持たせるのは異様である。読売新聞は「複雑な要素を総合判断する必要がある政策について、『条件付き賛成』といった柔軟な解決策を排除する恐れがある」(前傾)と指摘しているが、そうした危惧がもたれるのは当然のことだ。恣意的に一部情報だけが流されて住民投票という「お墨付き」を得ようとしたり、マスコミが情報操作して住民意識をコントロールしたりする事態も予想される。議事機関(議会)において客観的議論を深めていくという本来の地方自治の本旨も歪められかねない。国や民間が建設する米軍施設や原子力発電所のほか自治体の廃棄物処理場などは対象としない方針としているが、これも怪しい。当初は「大規模な公の施設」に限ると敷居を下げておいて、次に住民投票の対象を広げていく条件闘争的な色彩が読み取れるからである。地方自治法の中に住民投票を位置づけること事態が将来に禍根を残しかねない。
 もともと民主党政権は住民投票法を「地域主権革命」の第一歩と位置づけてきた。実際2000年には衆院に提出したこともある(廃案に)。2009年の「政策INDEX」には盛り込んでいたが、マニフェストでは外した。ところが鳩山前政権下において住民投票法案の策定作業に入ったと一部新聞で報じられた(毎日新聞10年1月31日付)。それによれば、すべての地方自治体に住民投票条例の制定を義務付けるほか、人口に応じた一定の有権者の署名により、住民投票の実施を自治体に義務付けるとしていた。投票結果に法的拘束力を持たせるか、それとも自治体の尊重義務にするかは当時、検討中とされ、また条例の制定・改廃についての住民投票では議会の同意を得た場合、結果に拘束力を持たせることも検討課題になっていると報じられた。こうした経緯から、民主党は住民投票法を制定し、何でもいつでも住民投票に掛ける道を開こうと策動していたことは紛れも事実である。こうした前科を見逃すわけには行かない。

原発反対・米軍基地反対の住民投票で弊害の前科

住民投票を法制化して自治体に持ち込むのは、憲法が定めた議会制民主主義と地方自治を根底から破壊する、恐るべき「革命法」「内乱幇助(ほうじょ)法」と言わざるを得ない。これまで文化共産主義勢力が「真の住民自治」と称して各地で住民投票条例の制定を要求してきたが、住民投票法はこれを法制化して全国的に押し付けることになるからである。論より証拠。過去の住民投票を見てみよう。
 新潟県巻町は1996年8月、東北電力の原子力発電所建設の是非を問う住民投票を行い、原発反対票が6割を占めたことから原発建設を拒否した。結局、東北電力は2004年2月、住民の合意が得られず原子炉予定地が反対派に渡ったことを理由に巻原子力発電所の原子炉設置許可申請を取り下げ、原発建設は完全に中止に追い込まれた。東北電力は法律によって需要のピーク時の発電施設を確保することを義務付けられており、巻原発建設計画もそれに基づくものだった。これは国策のエネルギー政策が一部地域の住民投票で潰された典型例と言える。
 また沖縄県は1996年9月、「米軍基地の整理・縮小」と「日米地位協定の見直し」について住民投票を行った。当時は革新県政で、県民に支持されやすい内容で住民投票を行い、これを反米・反基地闘争に利用したのだった。同じく反米闘争の一環として山口県岩国市は2006年3月、岩国基地への米空母艦船機移転に対して住民投票を行い、反対が過半数を越えた。同移転は日米両政府が2005年秋、米海軍厚木基地(神奈川県)の空母艦載機を岩国基地に移転する合意に基づくもので、普天間飛行場をキャンプ・シュアブ沿岸部に移転するのと同じく市街地の基地問題の解消を図るためだった。
 いずれの住民投票も住民の不安を煽り、また全国から反原発や反米の闘争集団を結集させて反対世論へと誘導したものである。もちろん移転反対を表明したとしても法的拘束力はない。だが、国への圧力となり、前述のように原発建設は中止に追い込まれた。米軍基地移転にもさまざまな障害をもたらした。岩国市では2008年春の市長選で反基地派の現職市長が落選、その後、基地移転は順調に進んでいるが、住民投票によって国政も市政も歪められた事実は消えない。
このようにエネルギーや安全保障という国家・国民全体の生存に関わる施策が一地域の住民投票で「否定」されるのが過去の住民投票の悪しき先例である。こんな住民投票がいつでも可能な仕組みを作るのは、地方の“反乱”を容認し、国民全体の利益を損なうのは明白なことである。

議会制民主主義を否定する憲法違反の住民投票

地方自治は国策と深く関わっている。それを一部地域の住民投票で国政に影響を与えようとするのは、憲法の精神から大きく逸脱している。憲法前文は冒頭に「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」とあるように、わが国は間接民主制を基本に置き、国会を最高機関に据えている。住民投票がまかり通れば、国民が選ぶ議員によって立法機関を構成する間接民主主義は機能しなくなる。だから住民投票至上主義は民主主義を装った「民主主義の破壊」思想と言うほかないのである。
 また憲法94条は地方議会に認めている条例制定権を「法律の範囲内で」と明記しており、条例はあくまでも国の施策の中のことだ。このことは地方自治体が国から独立した存在でないことを示している。それで地方自治法は条例の内容を「その区域における、国の事務に属しないもの」と限定している。わが国の法体系で住民投票が認められているのは「特定地方自治体へ適用する特別法の制定」と前述のリコール請求の特別措置の場合だけである。憲法95条は「特別法の住民投票」について明示しているが、これは都道府県や市町村のうち特定の自治体だけに適用される法律を制定する場合、その自治体の住民投票で過半数の同意を得なければならないと規定しているものだ。これは「特定地方自治体へ適用する特別法の制定」であって一般的な住民投票について述べたものではない。過去に95条に該当したのは、広島平和都市建設法や長崎国際文化都市建設法(いずれも1949年)、首都建設法(1950年)などで、原爆被害からの復興など特定の地域にのみ適用する法律を制定する際、住民投票で賛否を問う必要があるとされたからである。

地方議会が決める非常設型の住民投票で十分

これとは別に憲法改正のための国民投票規定があり(96条)、これに基づいて2007年に憲法改正手続法(マスコミは国民投票法と呼称)が制定された。国会では一部政党が憲法以外のさまざまな賛否も国民に問えるようにすべきと主張したが、憲法は憲法改正の重要性にかんがみて改正の賛否にのみ国民投票を規定しており、これを一般的施策にまで広げようとするのは国民投票の乱用として退けられた経緯がある。だから、地域にあってどうしても住民投票で住民の賛否を問いたい事案が生じたときは、例えば市町村合併の民意を問おうとすれば、議会で「○○合併を問う住民投票条例」といった個別の住民投票条例を制定すればよいだけの話である(これを非常設型の住民投票制と呼ぶ=これには法的拘束力はない)。それをいつでも住民投票ができるようにするのは(これが常設型の住民投票制)、憲法の地方自治の本旨を踏みにじっていると言うほかない。このような違憲的な住民投票法を制定すれば、わが国の各地で「内乱」が起こり、国家解体へと向かうことになる。
 以上の理由で我々は地方自治法改正であれ住民投票法であれ、また一部施策に限定しようがしまいが、いずれの場合においても住民投票制度の導入には反対するものである。

2011年3月1日

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