思想新聞2003年4月1日号【マスコミ論壇ウオッチング】
冷戦終結後、世界は平和に一歩も二歩も近づくはずだった。しかし、現実には、世界各地で人種の違いや宗教対立による紛争が相次ぎ、戦争はいまだに人類を放してくれていないことが明らかになった。
このような冷厳な事実をイラク戦争勃発に際して、日本のマスコミは視聴者に正しく伝えているとはいい難い。
というのも、国連でイラクの大量破壊兵器廃絶にむけて深刻な議論が行われているというニュースが、わが国では、神奈川県の帷子川に出没する通称“タマちゃん”の消息と同等に報じられる、この傾向はいわゆる「ワイドショー」といわれる社会情報系番組で顕著である。
民放各局の早朝番組、テレビ朝日の「やじうまプラス」やフジテレビの「めざましテレビ」といった番組は、皆同じように前日の内外の主要ニュースを紹介した後に、「芸能・エンターテーメント」のコーナーで芸能ネタを伝えるよう構成されており、国内政治や国際情勢といった硬派なテーマがスポーツや芸能といった話題と同じ番組で扱われることで、事の軽重が変わらない印象を視聴者に与えてしまうのである。
しかし、いかに視聴率稼ぎの話題として動物がかかせないとはいえ、消費者金融のCMのチワワと同様にワイドショーで、イラク問題と“タマちゃん”がおなじ番組の枠で報じられられれば、視聴者はこの二つのテーマの深刻さや違いを正しく判断できず、「その日の話題の一つ」として同じような重みをもつと考えることになってしまいかねない。
さらに驚いたことには、NHKの夜七時のニュースの畠山智之アナウンサーまでもがイラク問題で紛糾する国連安保理事会のニュースにつづいて、「“タマちゃん”」をめぐる諍いについて語りはじめるようになったのである。
その信頼性で評価を得てきたNHKのニュースまでもが、ワイドショー化していることを象徴した出来事だが、このような傾向がつづけば、日米安保と国連中心の国際協調主義の衝突といった困難な課題解決に向けて成熟した世論形成はさらに困難になってしまうのではないか。


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