この記事は2011年3月6日に投稿されました。
中国の2011年の国防費が前年実績比12・7%増の6011億元(約7兆5378億円)になる。3月4日、全国人民代表大会(全人代=国会)の李肇星報道官が明らかにした。一般の報道では「中国の国防費が2ケタの伸び率を示したのは2年ぶり」としているが、我々はそうした見解に立たない。昨年の1ケタ伸び(7・5%増)の中身は巧妙に細工されており、実質的には2ケタ伸びだったからである。したがって中国の国防費は「血の天安門事件」以来、1989年~2011年まで23年間2ケタの伸び率で大軍拡をしてきたと見るべきである。
最新兵器の開発・配備はすべて国防費外に偽装
2011年の中国国防費は前年に比べて676億元(約8477億円)の大幅増である。李報道官は「中国は一貫して国防費の規模を抑制している。中国の国防費は透明で、いわゆる隠し軍事費問題は存在しない」と述べ、「予算の増加分は軍事訓練や人材訓練費、兵士の生活改善に使われる。中国は平和を堅持し、防衛的な国防政策を取る」と強調した。だが、この言葉を真に受ける人はよほどのお人好しである。確かに国防費に軍関連施設の建設、訓練と人材育成の経費、将兵の給与など訓練と人件費が約3分2を占めている。しかし、「隠し軍事費」は存在しないどころか巨額にのぼる。もともと中国の国防費は粉飾されており、実際の国防支出は「公表額の2~3倍」(米国防総省)というのが国際社会の常識である。例えば、1兆8000億円と見込まれる空母建造費(2014年完成予定)は国防費に一切含まれておらず、船体や艦載機を電子部品ごとに分けて科学研究費など予算の別項目に入れられている。弾道ミサイル迎撃システムの開発費や米本土を射程に収めるICBM「東風31A」の開発・製造も別予算である。2010年1月に地上配備型の弾道ミサイル迎撃システムの技術実験を行ったが、これも国防予算から省かれている。さらに実戦配備に向けて準備する次世代ステルス戦闘機「殲(せん)20」の開発費も含まれていない。最新兵器の開発配備はすべて国防費の枠外と言ってよい。
「空天一体」戦略で一大軍事強国を目指す
このような中国共産党政権の大軍拡の狙いはいったい何なのか。言うまでもなく覇権を拡大するためだ。制海権と制空権、さらには「制天権」を拡大し、中国の思い通りに世界を動かそうと考えているのである。制海権を確保するために強大な外洋型海軍に欠かせない空母戦闘群を配備する。そして制空権と宇宙を制する「制天権」の確保を目指し、「空天一体」戦略の下に航空戦力と弾道ミサイル迎撃システムを整備しようとしている。国内総生産(GDP)が日本を抜いて世界第2位となった経済力を背景に、ロシアを追い抜き、米国を急追しようとする「軍事強国」を目指すのが中国共産党政権の思惑なのである。
「空天一体」戦略を完成させるために①精密攻撃能力強化に必要な情報化②遠方投入能力③海空軍のハイテク兵器④ミサイル迎撃システム―の4点に重点を置き巨額を投じているのである(これが国防予算の別枠だ)。今後、ミサイル早期警戒衛星を整備し、航空戦力でも米国のF16に匹敵する性能を持つとされる国産軽戦闘機「殲10」を大量配備し、加えて超音速巡航能力とレーダーに捕捉されにくいステルス性を備える第5世代戦闘機「殲20」の実戦配備を目指す。
米軍の戦力投入を阻む「接近阻止・領域拒否」戦略
米国防総省が2010年8月に発表した「中国に関する軍事・安全保障年次報告書」は中国人民解放軍の動向について次のように指摘している。中国軍は伝統的に台湾海峡有事を想定してきたが、「パワープロジェクション(戦力投射)能力を向上させるための投資」を続け、「台湾をはるかに越え、アジアでさまざまな軍事作戦を実行できる戦力を備える可能性」があり、「東シナ海、南シナ海と場合によってはインド洋や第2列島線を越えた海域の懸案に対処するため、作戦領域を広げる新たな基地や能力を開発している」。また中国軍は「核の不使用」政策を順守すると主張しているが、その原則をどう適用するかについて曖昧さがあり、さらに「前方展開能力の向上を続けており、東アジアの軍事的均衡を変える主たる要因」である。台湾に親中的な馬英九政権が発足して以降も中国の軍拡は衰えず、台湾対岸に配備した短距離弾道ミサイルは1050~1150基に上り(09年末)、「台湾海峡の軍事バランスは中国側に傾き続けている」のである。
また米軍の戦力投入を阻む「接近阻止・領域拒否能力」を一段と向上させている。「世界で最も積極的な弾道・巡航ミサイル開発計画」を推進しており、開発中の対艦弾道ミサイル(ASBM)は「空母を含め西太平洋の艦船を攻撃する能力を中国軍にもたらす」。これに加えて潜水艦の増強により中国沿岸から最大1000カイリ(1852㌔)離れた敵の艦船に対処できる能力を保有する見通しで、これら接近阻止兵器は米海軍の脅威になる。
マラッカ海峡を完全制覇し南シナ海を内海化する
中国の接近阻止戦略には2つのポイントがある。第1には南シナ海を握ること、第2には台湾を武力統一することである。この2つは言うまでもなく連動している。海南島に弾道ミサイル搭載可能な原子力潜水艦の基地を建設中で、同基地はすでに基本的に完成している。基地には地下施設があり、国際シーレーン(海上交通路)に直接のアクセスを確保し、南シナ海に潜水艦を隠密に出撃させる潜在力を持たせるのが狙いである。中国は南シナ海を台湾やチベットと並ぶ「核心的利益」と位置づけ、海南島を重要戦略拠点にしている。空軍が空中給油能力を備えることにより、南シナ海での空軍の作戦が可能になるほか、高度な駆逐艦や潜水艦の配備で「第2列島線」を越えた海上の作戦も可能になる(中国の海洋戦略については「今日の視点」3月4日付参照)。
中国はすでに射程1500キロの地上発射型対艦弾道ミサイルを開発しているが、これを海南島の海軍基地に配備する。同基地を起点にすると、ほぼ1500キロ先にマラッカ海峡があることに注目しなければならない。対艦弾道ミサイル配備により、中国~台湾~フィリピン~ブルネイ~マレーシア~インドネシア~ベトナムに囲まれた南シナ海は、西の玄関口・マラッカ海峡近海をはじめ大部分が射程内となるばかりか、移動式なので配備場所によってはマラッカ海峡を含めた、その外周までもカバーできる。同海峡は米軍にとっても台湾有事や朝鮮半島の有事の際、インド洋側から南シナ海、太平洋に入る戦略レベルの要衝である。中国が1995~96年の台湾総統選に際してミサイル演習で威嚇したが、米海軍は太平洋艦隊の空母戦闘群(現打撃群)とペルシャ湾に展開中だった空母とその護衛艦隊を台湾海峡に急派し、武威を示し中国の威嚇を押さえ込んだ。中国はこの軍事上のトラウマゆえに対艦弾道ミサイルを開発したのである。マラッカ海峡の年間通過船舶数は5万隻を超え、特に日本への原油の80%がここを通る。日本の生命線となるシーレーンまで中国は支配下に置こうとしているのである。
台湾の武力統一を目指して軍を警察に偽装転換
接近阻止戦略の最大の狙いは台湾の武力統一にある。すでに中国は着々と手を打ってきた。2005年3月の全人代では台湾の独立を阻止するためと称して武力行使を合法化する「反国家分裂法」を制定し、武力侵攻の法的根拠を作り上げた。そして2010年の全人代では「国防動員法」を作り、同年7月1日に施行した。中国側の説明によると、同法は「国防法」を補完するもので、戦争や自然災害など有事における人員や物資の動員を法制化し、危機の対処や戦争の抑止・勝利に向けて軍の運用能力を向上させるのが狙いという。「国家の主権」「統一」「領土保全」「安全」が脅かされる場合を想定し、会社(中国進出の日本企業も対象だ!)や個人に政府による民間物資徴用に応じることを義務づけるほか、「国防勤務」に当たらせるため18~60歳の男性と18~55歳の女性を動員する。愛国教育など国防意識の向上も規定している。
台湾では陳水扁前政権時代に中国が「上陸戦」に武装警察(武警)を投入する「斬首(ざんしゅ)戦」を警戒していた。「中国軍に代わって武警がパラシュートで台湾に上陸し、陳総統の首を取りに来る」というもので、台湾軍は軍事演習でも斬首戦に対応する訓練を行ってきた。中国は台湾を国内問題と強弁しており、それで国内の治安維持や国境防衛などを担う武警を台湾侵攻に使って、武力統一を正当化する魂胆なのである。武警は暴動鎮圧用の火器や装甲車など陸軍並みの装備を持っており、チベットやウイグルで民衆を弾圧した実績を持つ。武警を充実させるため、すでに1996年に陸軍の14歩兵師団を武警に配属し、武警機動師団に転換した。軍が警察に偽装し人民を弾圧するわけだ。中国軍が接近阻止戦略で米軍の動きを封じれば、次に軍が台湾上陸を敢行、その作戦が成功すれば都市戦に適した武警機動師団が投入し、国内問題として武力統一するつもりなのである。
憲法を改正し自衛力を向上させるときだ
そうなれば南シナ海で海南島が「不沈空母」となって同地域を制するように、東シナ海と西太平洋では台湾が「不沈空母」となって覇権を確立する。そのとき日本は共産中国の支配下に置かれる。こんな悪夢を招かないために日米同盟を深化させ、憲法を改正してしかるべき自衛力を整備しなければならない。
2011年3月6日


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