この記事は2011年2月16日に投稿されました。
北朝鮮の金正日総書記は2月16日、69歳の誕生日を迎えた。言うまでもなく来年2012年は古希(70歳)であり、同時に父・金日成主席の生誕100年、3男・金正恩副委員長の30歳の年でもある。それゆえに2012年は「強盛大国の大門を開く」とした記念的な年と位置づけている。つまり今日からの1年は北朝鮮にとってはまさに正念場の年となるわけである。当然、さまざまな攻勢を仕掛けてくるであろう。金日成主席の悲願は言うまでもなく、「南北統一」(赤化統一)であり、金正日総書記はそれを自らの目の黒いうちに実現しようと動くだろう。さらには金正恩後継体制を強固にしようとする。健康問題を抱える金正日総書記にとっては時間がないのである。昨年9月には共産国に例の見ない3代世襲を正当化するために党代表者会・党中央委員会総会を開き、金正恩氏を党軍事委副委員長に就け、後継体制作りをスタートさせた。だが、前途は多難である。経済破綻状況が続いており、とうてい「強盛大国」とは言いがたい状況にある。そこで対話攻勢を仕掛けて経済支援の糸口を見いだそうとする一方、韓国や米国に隙があれば赤化統一の野望を遂げようとする。また後継体制を磐石にするため核・ミサイル開発にひた走り、3度目の核実験もあり得る。昨年3月に韓国艦艇「天安」撃沈事件、そして11月に延坪島砲撃事件を引き起こしたが、こうした軍事挑発を繰り返す可能性がある。朝鮮半島情勢は危険水域に入ったと見ておくべきだ。
血縁・側近を党中枢に据える3代世襲体制
いま金正日総書記の最大の関心事は後継体制を磐石にすることだろう。すでに世襲正当化作業として昨年9月に党規約を1980年の党大会以来、30年ぶりに改正した。新たな党規約は序文で、初代金日成主席の「主体思想」創始を評価し、それを「発展させた」として2代目の金総書記の「軍事優先政治」(先軍政治)を称えた。その上で朝鮮労働党を「金正日同志を中心に組織思想的に強固に結合された労働階級と勤労人民大衆の核心部隊であり、前衛部隊」と規定し、党が「先軍政治を社会主義の基本政治方式として確立し、革命と建設を指導する」とした。金日成主席は神格化され誕生日は「太陽節」になっている。それを継承・発展させた金正日総書記は偉大な指導者であり、その「金日成の血統」の中に朝鮮労働党がある。そういう論理立てで金正恩副委員長を登場させたのである。だから、初めて公表した金正恩副委員長の写真は革命の聖地であり、金日成主席の遺体が安置されている錦繍山記念宮殿の前での金正日総書記との集合写真であった。
これまで金正日総書記は国防委員会を軸にして軍支配を行い、党は影が薄かったが、金正恩後継体制のために党が軍を指導するという金日成時代の路線に戻し、それを金正恩副委員長の権力基盤にしようとしている。そのために昨年9月に党代表者会・党中央委総会を開いたのだった。さらに3代世襲の正当化作業として、権力ポストを血縁者・側近で固めた。従来、長老たちが占め実質的に機能してこなかった党政治局を復活させ、そこに血縁・側近を配する党政治局・党中央軍事委員会人事を断行し、党指導体制を一新した。実妹・金慶喜党軽工業部長(64)を「大将」にしたうえで党中枢の政治局員に就け、その夫・張成沢氏(64=国防委副委員長、党行政部長)を党政治局員候補・党中央軍事委員に据えた。金慶喜・張成沢夫妻を金正恩氏の後見人としたのである。
実績作りへ軍事冒険主義に走る危険性
こうして昨年9月の朝鮮労働党代表者会・党中央委員会総会で金正恩「大将」「党軍事副委員長」を登場させ、10月10日の朝鮮労働党創建65周年の記念軍事パレードでお披露目し、それ以降、「神話」作りにいそしんできた。だが、29歳(今年1月)の金正恩副委員長には軍歴や実績が何ひとつない。そこから懸念されるのは、3代世襲を正当化する実績作りへ軍事冒険主義に走る危険性である。金正日総書記の場合、1973年に金日成主席の後継者として登場した後、75年に「3大革命赤旗獲得運動」や「100日戦闘」を始めて国内の基盤固めにいそしみ、さらに後継の正当性を証明しようと強硬姿勢を露わにした。朴正煕大統領暗殺未遂事件(74年8月)やラングーン爆弾テロ事件(83年10月)、大韓航空機爆破テロ事件(87年11月)など過激な実績作りを行った。
こうした後継体制時代の金正日総書記の歩んだ道を金正恩副委員長がなぞるとすれば、まず国内では基盤作りに「100日戦闘」といった忠誠運動を展開するだろう。最近、公開処刑が増えていると伝えられるが、それは忠誠運動の一環と見てまちがいない。反対派とおぼしき党幹部の粛清も予想される。同時にさまざまな軍事的挑発を試みるだろう。「大将」としての実績作りに延坪島攻撃といった過激な行動を繰り返す恐れが強い。
「体制保証」と「経済援助」へ対話攻勢も
さらに「強盛大国の大門を開く」ために「体制保証」と「経済援助」を求めて米朝直接交渉を狙ってくるだろう。北朝鮮は湾岸戦争・イラク戦争のような米軍の攻撃による政権(金王朝)崩壊を最も恐れてきた。南北間には韓国動乱の休戦協定があるのみで未だ戦時下にあるからだ。そこで休戦協定に代わる新たな平和協定(条約)を結び、米国が北朝鮮の体制を保証する。それが金正日総書記の思惑である。すでに2007年10月の南北首脳会談で、休戦協定を平和協定に転換し恒久的な終戦を宣言するため3カ国ないし4カ国(南北米中)の首脳会談を朝鮮半島地域で開催する考えを示している。平和協定をテコに米朝・日朝国交へと繋げれば、莫大な経済援助(日朝国交による賠償金も)が手に入り「強盛大国」に道が開ける。そういう算段で米朝交渉を求めてくるだろう。むろんこれは北朝鮮の思い違いである。北朝鮮は1992年の南北非核化宣言を破り、核拡散防止条約(NPT)を脱退して核開発を進め、06年には核実験を実施した。07年2月の6カ国協議で核放棄共同文書が採択され、非核化ロードマップが作成されたが、それもことごとく破り09年には2度目の核実験を強行し国際社会から制裁を受けてきた。新たな平和協定を結ぶにしても、まず核開発を止めよというのが国際社会の一致した見解である。
「2020年に先進国への展望」という奇怪な計画
だが、北朝鮮は米国を直接交渉に引きずり出そうと、昨年9月の党代表者会議以降、強硬路線を見せ付けてきた。11月に訪朝した米国のプリチャード元朝鮮半島和平担当特使に「寧辺に100メガ・ワット級の実験用軽水炉を建設中」と自ら証し、さらに寧辺を訪問した米国の核専門家ヘッカー元ロスアラモス国立研究所長(スタンフォード大教授)を新設のウラン濃縮施設に案内し、「2000基の遠心分離器が既に稼働中」と説明、従来のプルトニウム型に加え、ウラン型核兵器の開発を誇示した。わざわざ情報を公開するのは米国を揺さぶり直接対話に引きずり出そうとしているからだ。こうした動きを受け昨年11月、ボズワース米政府特別代表(北朝鮮担当)が韓日両国を訪問、6か国協議再開の見通しについて「(ウラン濃縮)活動が進行中で、北朝鮮が再度の核実験やミサイル実験を行う可能性がある現時点では交渉再開は考えない」と発言、さらに中国側と会談するため北京に入った、まさにその日すなわち11月23日に北朝鮮は延坪島を砲撃したのである。
攻撃と対話の弁証法。これが北朝鮮の戦術である。対話を促すために攻撃し、攻撃の機会をつくるために対話する。この戦術を駆使して2012年を目指す。だが、2012年に「強盛大国の開門」は困難である。そうしたことも意識してか、北朝鮮は1月15日に約20年ぶりとなる長期経済開発計画を発表した。それは「2020年に先進国の水準に達する確固とした展望が開けた」(朝鮮通信)という「国家経済開発10カ年戦略計画」である。インフラ整備や農業、電力、地域開発などをあげているが、その中身は一切明らかにしていない。おそらく2012年に「強盛大国」と実感させる実績をあげられなかったことを想定して、その延長路程として計画をぶち上げたのだろう。
いずれにしても2012年に向けて韓半島情勢は危険水域に入ると考えておかねばならない。我々としては日韓米の同盟強化を最重要視すべきである。
2011年2月16日


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