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正念場の日本外交 アジアに芽生える大国間の相剋

思想新聞2000年8月15日号 【視点論点】 

政治評論家
河 本 弘 氏

 小渕前内閣から引き継いだ沖縄サミットを無難にこなし、森首相をはじめ政府首脳はホッと一息ついたところ。だが、820億円もの予算をつぎ込んで沖縄に首脳国会談を設定した日本側の何を沖縄から世界に“発信”しようとしたのかという真意が相手に正確に伝わったかどうかはすこぶる疑問だ。それどころか、プーチン・ロシア大統領の初参加と鮮やかなパフォーマンスに、主役の座をすっかり奪われてしまった。そのプーチン氏の行動こそ、ロシアのアジアへの回帰と、そこから生じる大国間の新しい合従連衡を予告するものであった。端的に言えば、中国を味方につけ中ロ同盟を結成し米国の力を削ぎ、日米同盟に対抗しようという構図である。それをプーチン氏はサミットの場であからさまに意思表示したのである。
 ロシアは、前身のソ連が米国との冷戦に敗れてアジアから完全撤退した後、アジアでの発言権を自ら放棄してきた。冷戦時代は米国と対抗するだけでなく、同じ社会主義国である中国とも不和となり、敵対的な緊張関係が続いた。しかしソ連崩壊後は次第に関係正常化が図られ、優れた軍事技術の結晶である航空機や艦船、ロケットなど兵器の販売先として中国はロシアの最高の得意先となった。これは、軍の近代化によってアジアでの覇権を目指す中国の利害にもかなうことだった。
 たまたま米国は北朝鮮の長距離ミサイル開発の進展で、アラスカから米国北西部に至る米本土に到達の恐れが出たとし全米ミサイル防衛(NMD)計画の推進に乗り出した。そしてその障害となるABM制限条約(冷戦時代に弾道ミサイルを防衛するミサイル網を禁止するため米ソ間で調印)の制限緩和をロシアに求めてきた。だがロシアは、これを認めれば再び核軍拡を促進するとの理解の下に猛烈に反対。中国も米国の真の狙いは北朝鮮の長距離ミサイルからの防護ではなく、中国とロシアが大量に保有する大陸間弾道ミサイルを標的にしたものだと解釈し、ロシアに同調した。最近米国離れが目立つ独仏両国もNMDに批判的な姿勢を示す始末で、米国は孤立を余儀なくされている。
 プーチン大統領はサミットに臨む直前に北京と平壌を訪問して、江沢民中国国家主席と北朝鮮の金正日総書記と会談、事前に調整の上で沖縄へやってきた。そしてNMD反対の狼煙を挙げたのだ。この場合、わが国の対応が問題だった。NMDは米本土を敵ミサイルから防衛するミサイル網の設置であるが、わが国は同じ敵ミサイルの本土侵攻を防ぐため米国と共同で“戦域ミサイル防衛(TMD)”構想を推進している。NMD、TMDとも本来の趣旨は同じ防衛的なものだ。しかし森首相は、サミットの席上ダンマリを決め何の意思表示もしなかった。首相は中ロにこう言うべきだった。「反対する以上は、少なくとも自身が保有する膨大な数の大陸間弾道ミサイルの自発的な削減計画くらいは明示せよ」と。だが日本は曖昧な態度に終始した。
 こうしてプーチン大統領はNMD問題への強硬な態度をバネに、アジアにおけるロシアの発言権強化に成功した。そして、サミットには出席していないが、アジアで着々と勢力を伸張させている中国と組んで日米と張り合おうとの意図をむき出しにした。
 各国首脳は、プーチン氏の背景に中国の存在感をいやが上にも意識せざるを得なかったのである。
 その中国は過去12年間、毎年2ケタ増の国防費増強によって軍の近代化に猛進している。そして毛沢東が“人民の海”と言った人民解放軍の人海戦術を改め、人員を大幅に削減して浮かせた予算を、高速で航行距離の長い航空機や軍艦はじめミサイルなどの兵器と技術をロシアから購入するのに余念がない。この面ですでに中ロは切っても切れない関係にある。
 こういう大国間の動きにASEAN(東南アジア諸国連合)も敏感に反応する。それまで共産中国への警戒心から団結が保たれてきたASEANも、最近は中国に色目を使ったり、遠慮しがちな姿勢が目立ち、南シナ海への中国の露骨な“内海”化の行動にも目をつぶることが多くなった。中国はわが領土である尖閣列島の側近くに測量船を派遣するばかりか、日本列島の周囲に無遠慮に艦船を航行させ、無断で津軽海峡を横断するなど傍若無人の限りをつくしている。その中国にわが国は、それまで2兆数千億円のODA(政府開発資金)を供与し、しかも中国からは繰り返し「過去の侵略への反省」という歴史認識を迫られている。対中ODAの見直しこそ緊急の課題ではないか。
 一方のロシアは、エリツィン時代にはかなり友好関係が進展したが、プーチン氏に代わり急に北方領土返還は困難との姿勢を鮮明にし、領土問題を絡ませた平和条約の年内締結に難色を示すなど、エゴをむき出しにしてきたのだ。この中国とロシアが組むとアジアの将来はどうなるのか。まさに日本外交は正念場に差しかかっている。今こそ、日米関係の意義を再認識し、同盟の強化を図らねばならない。日本の生きる道はそこにしかない。

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