思想新聞2002年7月15日【1面top】
安保、外交戦略の再構築を北朝鮮の「常套手段」を見抜け

6月29日に韓国西海岸の黄海で起きた北朝鮮と韓国艦艇の銃撃戦は、改めて北朝鮮の軍事的脅威を見せつけた。同銃撃戦は北朝鮮が2日前から準備しミサイル攻撃まで行おうとしていた計画的な軍事挑発だったことが判明している。この時期が米朝交渉再開の直前でもあり、韓国がサッカー・ワールドカップ(W杯)に沸き立っていたことなどから北朝鮮一流の「力による外交交渉」の一環とみて間違いない。折しもわが国は奄美大島沖で不審船の引き揚げ作業を進めている。北朝鮮の軍事的挑発の矛先が日本に向けられても不思議ではない。日韓米の安保協力態勢を強化しておかねばならない。
韓国国防省の声明によると、6月29日午前9時54分ころ、北朝鮮の警備艇2隻が黄海の北方限界線(NLL)を侵犯したため韓国軍の高速艇が出動して退却を警告したところ、北朝鮮の警備艇が先制奇襲射撃を行い、銃撃戦は北朝鮮警備艇がNLL北方に退くまで31分間、散発的に続いた。この銃撃戦で韓国側は高速艇一隻が沈没し兵士4人が死亡、1人が行方不明、18人が負傷する被害を受けた。北朝鮮側も警備艇 1隻が炎上した。
今回の銃撃戦を偶発的事件と捉えるわけにはいかない。銃撃戦直前の27、28両日にも北朝鮮警備艇がNLLを侵犯し、85ミリ砲の照準を韓国艇に合わせる射撃態勢を取り、事件2日前から北朝鮮側が攻撃準備をしていたことは明らかだからだ。
しかも、近くの北朝鮮海軍基地に停泊していた誘導弾艇のスティックス(STYX)ミサイルのレーダーを始動させ、ミサイル攻撃まで準備した。仮に韓国艇がミサイル攻撃を受け、これに韓国が艦対艦ミサイルや空軍機で応戦すれば、銃撃戦は局地戦に発展する可能性もあった。
用意周到な北朝鮮 局地戦まで念頭に
こうした本格的対応が北朝鮮の一部隊によってなされることは北朝鮮の国家体制からみてあり得ないことだ。金正日総書記も承知の上の用意周到な軍事的挑発であったと考えるべきである。
このような銃撃戦は99年6月以来で、しかも6月29日はW杯の閉幕前日、韓国とトルコの3位決定戦当日のことだ。こうした時期を狙って北朝鮮が軍事挑発を行った目的は何なのか。それを知るには前回の銃撃戦の教訓を十分に見据えておく必要がある。
同じ黄海の海域で99年6月に起きた銃撃戦では、その直前の5月に米国のペリー調整官が訪朝し6月末にもクリントン大統領に対北朝鮮報告書を提出する予定だった。これに対して北朝鮮は米国の北朝鮮政策の妥協を引き出すために、休戦協定に取り決めのない海上境界線の不備を突き、これを絶好の米朝直接交渉の材料にしようとしたとの見方が有力だった。
また当時は北京で南北次官級会議が開催される直前だった。同会議で韓国側は離散家族問題を提案する予定だったが、銃撃事件によって議題はNLL問題に集中し、結局、離散家族問題は棚上げされてしまった。
このように危機を自ら演出して外交交渉の材料に使おうとするのは、北朝鮮の常套手段である。96年2月に北朝鮮が起こした板門店の共同警備区域に重武装兵を投入する事件では、米国に平和暫定協定締結を呼びかける交渉材料に使おうとした。こうした北朝鮮の独特の思考方法を我々は十分に掌握しておかねばならない。
かつてクラウゼヴィッツは「戦争は他の手段を以てする政治の継続にほかならない」とのテーゼを提示したが、北朝鮮は軍事を最重視し、政治の延長としての戦争、そして戦争の手段としての外交という視点で金日成主義を構築してきたのだ。これが北朝鮮に貫かれている軍事的思考である。
現在、北朝鮮は首領(金日成・正日父子)、思想(主体思想)、軍隊(人民軍・先軍思想)、制度(ウリ式社会主義)の「四大第一主義」を打ち出し、今年を「苦難の行軍」時代と位置づけている。これは故・金日成主席の「四大軍事方針」(全人民武装化・全国土要塞化・全軍幹部化・全軍現代化=1962年決定)を継承した「先軍革命路線の結実」とされるものだ。
このような「先軍革命路線」から捉えれば今回の銃撃戦が偶発的でないことは明らかだ。金正日総書記の軍事戦略(すわなち外交戦略)の一環が銃撃戦なのである。
この北朝鮮にどう対応していくべきか。W杯閉幕式に訪日した金大中大統領と小泉首相は7月1日に日韓首脳会談を開き、銃撃戦に「冷静に対応」し「日韓米三国が緊密に連携し北朝鮮との対話の流れを維持することの重要性を確認」した。北朝鮮の軍事挑発に対抗するには「日韓米の結束」が何よりも重要なのだ。
日本への波及必至 日韓の防衛協力を
まず第一に必要なのは、日韓米のいわゆる軍事同盟化が不可欠であるということだ。
今回の銃撃戦は黄海で発生したが、これが日本近海だったらどうなのか。このことを日本は十分に考えておかねばならない。実際、98年12月には、北朝鮮の潜水艇が釜山近海の韓国領海に侵入し、韓国艦艇に追跡されてわが国領海に接近。領海のわずか 50キロの地点で韓国艦艇によって撃沈される緊急事態も発生している。
このとき、北朝鮮潜水艇が日本領海に逃げ込んでくれば、わが国はおのずから韓国軍と協力して対処せざるを得ない状況に追い込まれていた。また98年末には、北朝鮮兵士と見られる3人の遺体が福井県高浜町や島根県隠岐の海岸に相次いで漂着する事件も起こっている。韓半島と日本は一衣帯水であることを自覚すべきだ。
こうした事件を受けて99年1月に日韓防衛首脳会談が開催され、日韓の防衛当局間で潜水艇撃沈事件などの緊急事態が発生した際に対応するホットラインの設置など緊密連絡体制が新たに作られることになった。だが、その後の教科書問題などで日韓の防衛協力態勢づくりは進展をみていない。これではいけない。日韓米の軍事同盟化が焦眉の急といえる。
実際、奄美大島沖の不審船引揚げが大詰めを迎えているが、この不審船はミサイルまで保有する重武装船だったように、銃撃事件は決して他人事ではない。北朝鮮の軍事挑発の矛先はいつでも日本に向けられるのだ。
こうした共通認識のもとで日韓米が対北朝鮮外交の歩調を合わせておかねばならない。
米国は7月中にもケリー米国務次官補を訪朝させブッシュ政権下での初の米朝高官協議を行うことにしていた。今回の銃撃戦でケリー訪朝は延期されたが、北朝鮮が対米交渉材料として銃撃戦を起こした可能性は否定できないだろう。北朝鮮は韓国の頭越しで対米交渉を進めたり、あるいは逆に米国を出し抜くように南北会談を設定するなど、米韓離間策を駆使してきた。日朝交渉も日韓米離間の手段に使われかねない。いずれにしても日韓米の一体化を促進することが最大の北朝鮮政策なのである。


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