思想新聞2001年9月1日号 1面
日米同盟強化、国際貢献に「聖域なき改革」を

「聖域なき構造改革」を掲げる小泉首相の一連の改革は臨時国会を開く9月が正念場になる。株価低迷、高失業率のなかで改革への圧力は強まっており、小泉首相は経済再生へ
不退転の決意を披瀝している。だが、日本に課せられた構造改革は単に経済面だけではないはずだ。日米同盟を世界戦略の主軸に置こうとする米国は集団的自衛権問題をはじめ防衛政策での日本の抜本的改革を期待している。国策の基本となる安保政策で国家としての「骨太方針」の確立が不可欠となっている。
9月の臨時国会開催を控え、小泉改革はいよいよ待ったなしとなる。小泉首相が「経済改革、財政改革が重点になる」と述べているように、「聖域なき構造改革」は特殊法人改革などを柱にそれに伴う雇用対策といった経済・財政政策が主要な課題となっている。
しかし、ここで念頭に置かなければならないのは、改革の錦の御旗のもとで国家の基本となる安保政策がないがしろにされてはならないという点だ。小泉首相の掲げる「聖域なき構造改革」の中には当初、憲法や安保も入っていたが、7月の参院選では憲法・安保論議がトーンダウンし、それ以降は「経済改革」に絞られてきた嫌いが強い。これでは本来の「聖域なき構造改革」とは言いがたい。
とりわけ安保政策では喫緊の改革を要する課題が山積しているだけに、小泉首相の勇断が期待される。その最たるものが集団的自衛権問題だ。小泉首相は五月の首相就任記者会見で「(従来の政府は集団的自衛権の)権利があるが、行使できないという解釈だが、今後、あらゆる事態について研究していく必要があるのではないか」と述べ、集団的自衛権行使に意欲的姿勢を示した。
だが、日本を取り巻く情勢はすでに「研究」から「行動」へと移さざるを得ない状況に来ている。周辺事態法に基づいて日米協力を進める際、小泉首相が述べているように日本が看過していておれない事態が予想されるからだ。現代の戦争は、周辺事態がいつの間にか日本有事にエスカレートしてくる可能性が高く、その際、どこで米軍を支援するのか、明確な線引きは難しい。だから、日本の有事問題は即、集団的自衛権問題となる。
昨年9月、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の運用に欠かせない日米間の「調整メカニズム」がようやく設置された。同メカニズムは有事の際の事実上の司令部となる「日米共同調整所」などを設けるもので、これによって日米同盟がより一層、固められることになった。だが、肝心の日本側に有事法制が存在しない矛盾が浮き彫りになってきている。
現在の日本では有事が発生し自衛隊に防衛出動が発令されても、その行動をスムーズに行わせる法律が整備されていない驚くべき怠慢な事態が放置されている。再三指摘されてきたように、侵略してきた敵と戦うために陸上自衛隊の部隊が急行しようとしても道路交通法の制約を受け、あるいは陣地を構築するにも私有地を使用する法的根拠が何ら存在せず、拒まれれば、なすすべもなく立ち往生しかねない。それが有事法制なき日本の現実である。
周辺事態法では、周辺有事に対応する米軍への協力が40項目以上にわたっており、防衛庁のみならず総務(自治体協力)、国土交通(港湾・空港協力)、厚生労働(病院協力)などすべての省庁に日米協力が及ぶばかりか、民間協力も不可欠とされている。これが日本有事ともなると、周辺有事とは比較にならない多くの分野で協力態勢づくりが必要になり、有事立法の制定が欠かせない。
小泉首相はかねてから「治にいて乱を忘れず」が政治の要諦だとする。だから、有事法制なき日本の現実を十分に認識しているはずだろう。有事法制について防衛庁は福田内閣の77年に研究に着手し、鈴木内閣の81年に防衛庁所管の法令をまとめ、中曽根内閣の84年に防衛庁以外の省庁所管の法令に関する研究結果(自衛隊法や道路法、河川法、森林法の改正など)をまとめている。
ところがそれ以来、法整備の研究ばかりで、具体的な有事立法案が国民に提示されたことはまったくない。歴代内閣はことごとく立法化を先送りしてきたのだ。小泉首相が「聖域なき改革」を掲げる以上、先送りすることは許されまい。そこで小泉内閣は11月下旬にも政府としての有事法制に関する基本方針を与党に提示し、来年一月からの通常国会に上程したい意向である。
6月の日米首脳会談では日米同盟の強化がうたわれた。それを具体化するために、ブッシュ米政権は日本に対して集団的自衛権行使やミサイル防衛網、有事法整備、スパイ防止法制定などを暗に求めている。その意向に答えるためにも小泉首相は防衛政策での「聖域なき構造改革」に踏み込まなくてならない。
たとえば、スパイ防止法については昨年、海上自衛隊三佐のロシア・スパイ事件が発覚し、「スパイ天国・日本」を改めて露呈させたことで米国は神経質になっている。同事件ではロシア武官は米軍情報を入手しようとしていた。スパイ防止法がなく、極秘情報を流しても三佐は自衛隊法違反で最高刑が懲役3年以下という軽犯罪並みの扱いですまされた。これでは米軍はうかつに日本に機密情報を流せない。日米協力の柱になる「調整メカニズム」は日米の情報交換の場でもあり、スパイ活動に甘い日本に米国が危惧するのは当然のことだろう。
さらに小泉内閣は国連平和維持活動(PKO)の改革が迫られている。国連平和維持軍(PKF)本体業務への参加凍結解除とPKO参加五原則の見直しが焦眉の急となっているからだ。八月に東南アジア諸国を歴訪した自民党の山崎拓幹事長はジャカルタでの記者会見で「インドネシア側の協力も得て、PKO活動に積極的な貢献ができないか道を探っていきたい」と述べ、臨時国会でのPKO協力法改正に強い意欲を示した。
東ティモールではいまだ政情不安が続いており、安保理からは日本の要員派遣が望まれている。だが、現状のPKO協力法のままでは要員派遣はおぼつかない。PKO参加五原則、つまり「停戦合意の必要」や「一時中断」「派遣終了」「武器の使用限定」などは国連が決めている派遣基準と乖離した日本だけに通じる身勝手な原則にしかすぎない。五原則を撤廃し、PKOの中核となるPKF本体業務への参加凍結を解除しなければ国際貢献は果たせないといえる。
こうした現実を見据えて小泉首相は国際貢献の「聖域」にメスを入れなくてはならない。とりわけ「武器の使用限定」をはずなさいと国連が定める活動基準を満たさない。山崎幹事長はこの改正に意欲的で、自民党としては11月中旬にもPKO改正法案を臨時国会に上程したい考えだ。
小泉首相が本気で「新世紀維新」の実行を考えるなら、安保政策でこそ真価が問われているといえよう。


コメント