この記事は2011年3月7日に投稿されました。
米韓合同軍事演習を展開している韓国に対して北朝鮮のサイバー攻撃が続いている。3月4日には大統領府や外交通商省、国防省などの政府機関や韓国軍と在韓米軍、銀行など40カ所のウェブサイトが大量のデータを送り機能を停止させる「DDoS攻撃」(分散型サービス拒否)を受けたと報じられた。現在までに攻撃を受けたのは青瓦台、外交通商部、国家情報院、統一部、国会、警察庁、国防部、韓国軍合同参謀本部、在韓米軍など国家機関や軍関連機関、大手銀行や証券会社など金融機関、韓国鉄道公社、韓国水力原子力など広範囲に及んでいる。これによって一部の企業のサイトが接続不能になったが、サーバーダウンなどの被害報告はなかったという。政府機関の放送通信委員会は現在も関係機関に「サイバー危機注意警報」を発令している。
米韓合同軍事訓練を標的に誤爆を狙う
さらに北朝鮮は3月4日と6日、韓国の衛星利用測位システム(GPS)をかく乱する電波を発射し、ソウル首都圏の西・北部地域で受信障害が発生した。朝鮮日報(3月7日付)によると、開城や西海(黄海)沿岸の海州にある北朝鮮軍部隊からGPSをかく乱する電波を5-10分間隔で間欠的に発射したという。このため一部地域でGPSの受信障害が一時的に発生した。ソウル首都圏の一部地域では受信障害のため、GPSを活用した携帯電話の時計が狂ったり、通話の質が低下するといった問題が発生し、また首都圏にある軍の砲兵部隊の計測装置の一部にも一時的に障害が発生したことが分かった。昨年8月に米韓連合軍の定例合同軍事演習「乙支フリーダムガーディアン」の際、初めて北朝鮮はGPSをかく乱する電波を発射した。今回も、韓米合同軍事演習「キーリゾルブ」が2月28日から行われているため、これを狙ってGPSをかく乱する作戦に出た可能性が高いと情報当局は見ている。
同報道によると、北朝鮮は2000年代初めごろにロシアからGPSかく乱装置を輸入。最近、韓半島全域に相当する400キロ以内の範囲でGPS受信機の使用を妨害する24ワット級の装置をロシアから輸入したとしている。北朝鮮軍のGPSかく乱装置は主に米韓連合軍が保有する米国製の巡航ミサイル「トマホーク」や韓国製の巡航ミサイル、統合直接攻撃弾(JDAM)などを標的にしている。2003年のイラク戦争当時、イラク軍が出力4ワットのロシア製かく乱装置を使ってGPSで誘導される米国の統合直接攻撃弾(JDAM)に電波妨害を起こし、民間市場を誤爆させ、多くの民間人死傷者が発生した例がある。北朝鮮はこれを狙っているわけだ。
軍隊だけでなく重要インフラも攻撃対象になる恐怖
北朝鮮の対韓サイバー攻撃を踏まえ、サイバー攻撃の実態を見据えておく必要がある。サイバー攻撃とは、コンピュータ・ネットワークを通じて各国の防衛・治安をはじめ、各種のコンピュータ・システムに侵入し、データを破壊、改ざんなどして国家や社会の重要インフラを機能不全に陥れるテロ行為のことだ。サイバー攻撃が懸念されるのは自衛隊など各国の軍隊であるのはいうまでもないが、そのほか8つの重要インフラが危ない。それは①情報通信②電力システム③ガス・石油備蓄運搬④金融機関⑤運輸交通機関⑥水道供給システム⑦医療・警察・消防・救助など緊急サービス⑧政府活動の8分野で、いずれもコンピュータ管理されている。このデータが破壊、改ざんされると国民生活が破壊される。たとえば銀行や証券取引システムに侵入し、これを操作、かく乱すれば、たちどころに金融システムが崩壊し大混乱に陥る。2006年2月のライブドア事件では株売買が集中し東京市場が一時、閉鎖を余儀なくされたが、同様の破壊がサイバーテロによって行われる可能性がある。また航空管制システムのコンピュータ・システムに入り込みデータを改ざんすれば、大型民間航空機の衝突もあり得る。新幹線のコンピュータ・システムに入って速度を変更し、大事故を起こすことも考えられる。今年1月、JR東日本の新幹線が容量オーバーでダウンし、全線で運行が止まったが、こうした事態が人為的にもたらされる。ガス会社のシステムに侵入、ガス圧力を変えればバルブが故障して爆発、住宅地の炎上で都市破壊もあり得るのである。
重要インフラだけでなく、食品製造工場のコンピュータに侵入、情報を改ざんして添加物の量を変更すれば、それだけで大量殺人も可能になる。薬品会社では粉ミルクの製造過程にヒ素を加えれば意図的な「森永ヒ素事件」も起こせるのである。このようにサイバー攻撃はきわめて危険なのだ。
米国は「サイバー司令部」を設置し備えている
米国は2009年に国家サイバーセキュリティー・通信統合センターを設置しているが、米軍も本格的な対サイバー戦組織を2010年5月に設置している。米軍コンピュータ網の防衛を任務とする「サイバー司令部」で、ワシントン近郊のフォートミード陸軍基地に置いた。規模は約1000人で、とくに中国や国際テロ組織などを発信源とする不正アクセスから防衛機密の流出やサーバー攻撃を防ぐ。ゲーツ国防長官は「サイバー空間への依存度が高まる中、サイバー上の脆弱性に対処する」と述べている。2010年11月、米連邦議会の政策諮問機関「米中経済・安全保障調査委員会」は中国当局が米国などへのサイバー攻撃を組織的に行っている実態を明らかにした対中年次報告書を発表した。報告書は「中国政府や共産党、さらには民間の組織や個人がきわめて高度の方法で外国のシステムに侵入している」と指摘、昨年初めに発覚した米国大手ネット企業グーグル社に対するサイバー攻撃を紹介した。これは「オーロラ作戦」と呼ばれるサイバー攻撃で、米国の金融、化学、メディアなど計33企業のグーグル系電子メールに侵入、知的所有権を含む大量の秘密情報が中国側に盗まれた。また他人の銀行口座の情報を悪用するフィッシング・メール全体のうち3割近くが中国発で、その多くが中国政府への確実なリンクが認定されたという。こうした事態に対応するため米国は2010年秋、日本など12カ国とサイバーテロ対策訓練「サイバーストームⅢ」を実施した。訓練は米中枢のインフラ設備への大規模なサイバー攻撃を想定し、米政府の各省や州政府、民間企業のほか英国、フランス、ドイツ、日本、オーストラリアなどの同盟諸国、さらに中立国のスウェーデンとスイスも参加した。
日本のサイバー攻撃対策は貧弱すぎる
さらに米国防総省はサイバー攻撃に対応するため2月に「国家安全保障宇宙戦略」を発表している。これに対して日本の対サイバー戦は貧弱すぎる。防衛省は2010年度予算でサイバー攻撃対処対策費として約70憶円を計上し、「サイバー企画調整官」を統括とする準備室を設置したが、本格的な「サイバー防衛隊」はまだ設置していない。サイバー戦への対応でも後手だ。新たな戦争形態への対応を急がなければ国は守れない。
2011年3月7日


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