思想新聞2004年1月15日号【ポスト・マルクスの群像】 1
マルクスが『共産党宣言』で「妖怪」と称した共産主義という「偶像」は、ベルリンの壁崩壊そしてソビエト帝国の終焉とともに潰え去ったかに見えました。確かに「受肉化した共産主義」と言える「体制共産主義」は敗北したのですが、驚くべきことにその「亡霊」と言える思想が今や、私たちがそれとは気づかぬうちに日本をはじめ世界を席巻しています。「文化共産主義」や「変形共産主義」とも呼べる、かつては「異端児」であったこの「もう一つの共産主義」について、思想家たちの考え方と流れを人物を中心に押さえていこうという新シリーズです。

[プロローグ・前編]
1848年にカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスが『共産党宣言』を著して156年。この『共産党宣言』の中でマルクスは、「一個の妖怪が今、ヨーロッパを徘徊している、共産主義という名の妖怪が…」と高らかに宣言し共産主義の旗を掲げましたが、ロシア革命以後70年にしてソ連帝国は崩壊し、マルクスの野望は潰えたかに見えました。またレーニンがロシア革命に成功し、ボルシェビズムによるソビエト政権を樹立して87年になります。
共産主義という名の「妖怪」を「近代科学」という衣装をまとわせて手なずけたのがマルクスだとすれば、レーニン及びスターリンはその妖怪を怪物フランケンシュタインのように血肉化した、と言えます。
確かに1989年ベルリンの壁が崩壊して以降、20世紀の世界を二分し、世界を席巻した共産主義国家は完全に敗北しました。国家体制を牛耳る「政治・経済としての共産主義」は、「終焉」を迎え、冷戦崩壊によって決定的な敗北が露わとなり、共産主義を奉ずる体制は次々と崩壊していきました。いまだ共産党の一党独裁を保つ国も、中国のようにマルクス・レーニン主義を捨て開放経済路線をひた走ることを余儀なくされています。
それでは共産主義的イデオロギーは、完全に消滅し去ったのでしょうか。政治的経済的理念としては、もはやその「使命」を終えて久しい、と言えます。
文化や社会的伝統を破壊する
この点については本紙前号(1月1日付)の「内外情勢の展望と16年度運動方針」での「共産主義の動向」の中で、「共産主義形態の変遷図」と共に、現在の共産主義の動きがどのようなものかについて概略的に言及しました。
そこでは共産主義形態を三つに時代区分しています。すなわち、①世界共産化を狙うインターナショナルなど国際組織中心の「国際共産主義」、②国家権力を奪取することにより共産主義国家樹立をめざす「国家共産主義」、③体制転覆よりもまず文化や社会的伝統(その最小単位が家庭と言えます)を断絶させる「文化共産主義」です。実はわが国において「男女共同参画社会」に隠され浸透しつつある「ジェンダーフリー」思想こそ、まさに「文化共産主義」にほかなならない、この点を押さえておく必要があります。
正統ではなく異端のマルクス主義
そこで今度は具体的に、上図(共産主義の系譜図)を見て大まかな流れを説明してみることにしましょう。図の左半分がこの「体制共産主義」、つまり国家や世界の体制を転覆して共産化をめざしたお馴染みの革命家・政治家たちになります。彼らは概ねマルクスとレーニンが敷いた「マルクス=レーニン主義」というレールをたどりました(ただし毛沢東の主導による「文化大革命」は結果的に「文化共産主義」に転化した例外と言えます)。これがいわゆる「正統派マルクス主義」というわけです。
これに対し、ドイツで社会民主党を立ち上げたベルンシュタインはエンゲルスの死後、修正マルクス主義を唱え、「正統派」と袂を分かつことになりました。
そこからローザ・ルクセンブルクらの思想を糾合し、ヨーロッパの共産主義、すなわち「ユーロ・コミュニズム」が、「正統派」とは異なった「もう一つの共産主義」として形成されていきます。いわばこれは「共産主義の異端児」と言えました。
これが図の右半分に当たる「文化共産主義」ということになります。
◆
この「新しい共産主義」に戦略的筋道を与えたのが、ハンガリー共産党のジョルジュ・ルカーチとイタリア共産党のアントニオ・グラムシでした。
ルカーチはまた、自ら設置した社会科学研究所がフランクフルト学派として「発展」していくことになります。この学派の考え方が哲学史上、それほど「主流」視されてはいません。
にもかかわらず、「文化共産主義」を考える上で非常に重要だと言えるのは、フロイト主義とマルクス主義を結びつけることによって、より「強力」な理論を打ち立てたからだと言えます。
このフランクフルト学派の考え方を更に「発展」させたのが、「構造主義・ポスト構造主義」に代表される「フランス現代思想」だと言えます。
一方、現象学派から実存主義ヒューマニズムが生まれ、マルクス主義と結びつきます。そしてボーヴォワールを起点とした20世紀的なフェミニズムが理論武装の過程でポストモダン思想に連結されます。
さらに、これに加えてN・チョムスキーやE・サイード、S・ジジェクら現在、論壇をにぎわす思想家らは、反「欧米中心主義」と「反グローバリズム」の旗を掲げることで、これらの思想を紛れもなく「継承」している、と言うことができるでしょう。
孫子の兵法に「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」とあるように、敵の陣容、背景をまず把握しておく必要があると言えます。


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