思想新聞1999年3月5日号 視点論点
21世紀は米中「文明の衝突」時代か
国際戦略評論家
村 上 薫
米国内で昨年浮上していた「日本悪玉・中国善玉」論に象徴される「米中蜜月時代」が、どうやら終焉を迎えつつあるようだ。
去る1月8日、米下院外交委員会で中国の人権活動家・魏京生氏らが出席して公聴会が開かれた。米中関係冷却化の最大原因である人権問題のうち、米国が最も非難しているのは新党を結成しようとした徐文立氏ら3人に懲役11~13年の長期刑が言い渡された事件だ。この面での摩擦は「主権在民」の米国と「主権在党」の中国とでは、政治の体制や価値観が根本から違うことを改めて鮮明にした。米国からの軍事技術漏洩問題は以前から指摘されていたが、中国ロケットによる米衛星打ち上げに伴う軍事技術漏洩疑惑を調査していた米下院の特別委員会(コックス委員長=共和党)は1月、「安全保障上、さらに深刻な問題があった」と結論づけた。報告書は中国人科学者による核弾頭設計に関する情報収集活動などを裏付けているとみられ、秘密部分の削除作業が終わって公表されれば、議会で大きな波乱を呼ぶことは必至だ。
すでに米政府は対中輸出規制を強める方針を決めており、ビジネス界でも中国向けのハイテク取引を自粛する動きが出始めている。
昨年の米中首脳会談で、中国は米国の要請に応えて、国際的なミサイル輸出規制の枠組みであるミサイル関連技術輸出規制(MTCR)への加盟を「積極的に検討する」と約束した。だが、北朝鮮のテポドン発射をきっかけに、米国が戦域ミサイル防衛(TMD)の日米共同研究に乗り出したことが中国を刺激し、MTCR加盟の可能性は遠のいている。
米中両国は1979年1月1日に国交を樹立した。今年は米中国交正常化20周年に当たる。以来、日本の外交政策専門家たちは、ワシントンと北京の親密な関係が日本の利益を損なうかもしれない、という懸念を絶えず抱いてきた。ただしこれまでは、そうした懸念は殆ど根拠のないものだった。ところが昨年6月から7月にかけてのクリントン大統領の訪中によって、日本は大きなショックを受けた。9日間という長期にわたる訪中で、同盟国である日本に立ち寄らず、北京で江沢民国家主席と調子を合わせて日本を批判した。さらに二つの中国反対、台湾独立反対、台湾が国家として国際機関に加盟することに反対、という三つの「NO」を軽々しく繰り返した。
これに先立ち一昨年秋、江沢民主席が訪米した時、まず訪れたのはハワイの真珠湾だった。「米中両国はかつて日本軍国主義と戦った同志」と米中関係の緊密な発展をうたい上げた。中国が米国に伝えようとしたメッセージの意図は明らかだ。日本との安保強化を図ろうとする米国を強く牽制し、日米間にくさびを打ち込もうというのである。
中国はやがて超大国をめざして動き出そうとしている。そのため89年以降、年間15%もの伸び率で海、空軍、ミサイル核戦力の強化に努めている。香港返還に続いて今年暮れにマカオ返還を達成する中国にとって、21世紀の課題は台湾統一だ。そのため武力によってでも台湾を支配下に置くとともに、海底油田のある南シナ海の制海権を確保することを狙っている。
だが、「三つのNO」を公言したクリントン大統領に対し、「台湾を中国に売り渡すもの」と議会の反発はものすごく、現在のワシントンの空気としては大統領訪中時の中国熱がきれいに冷めてしまっている。中国経済に対する期待も、今では失望に変わりつつある。
中国はこれまで米国による投資の恩恵を受け続けてきたが、中国に進出している米企業の報告によると、中国は軍拡の助けとなるハイテク技術の移転を要求して、これらの米企業に圧力を強めており、一方で米企業の利益は減少し、経費は増大しているという。中国市場のアメリカニゼーションははかない夢に終わる可能性が高いのだ。
このような状況下、米中関係悪化を修復するため4月に朱鎔基首相が初訪米する計画だ。天安門事件にかかわった経歴がなく、「ミスター経済改革」と呼ばれる朱首相は米国でも注目されている。98年の中国訪問で「戦略的パートナーシップ」をうたい上げたクリントン大統領は、オルブライト国務長官やコーエン国防長官ら5人もの閣僚を派遣、朱首相訪米を成功させるための事前協議を行わせようとしている。
だが、安全保障、人権問題などで米議会を中心に厳しい対中姿勢を求める声が高まっており、米経済界が抱いていた中国経済へのバラ色の期待も色あせつつある。朱首相にとっては逆風の訪米となりそうだ。
特に来年は米大統領選挙の年である。「中国は脅威なり」「来るべきアメリカとの衝突」のネオ・ナショナリズムの議論が高まりつつあるだけに、21世紀はハンチントン教授の言うように、米中両大国の「文明の衝突」時代に入るかも知れない。


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