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ブッシュ大統領一般教書演説 波紋呼ぶ「悪の枢軸」発言

【思想新聞2002年2月15日 一面TOP】

テロ一掃と米・基本戦略の貫徹

金正日体制最大の危機到来か

 米国のアフガン軍事行動から4ヶ月が過ぎ、テロ一掃の戦いは新たな局面を迎えようとしている。ブッシュ米大統領は1月29日夜、米議会の上下両院合同会議で「一般教書演説」を行い、「戦時下」における米国の、今後一年間の施政方針を示した。昨年9月11日のテロ事件以後、初の全般的な政策表明として注目を集めていた大統領演説は、今後の米国の目標として「対テロ戦争の勝利」、「本土防衛の強化」、「景気回復」の三点を挙げた。

 さらに大統領は対テロ戦争に「勝利しつつある」と宣言はしつつも、アフガニスタンは第一段階に過ぎないと強調、テロ一掃の戦いは「始まったばかり」と述べ、米国民の結束を呼びかけた。その上で、「世界で最も破壊的な兵器を持つ最も危険な体制が我々を脅かし続けることを許容しない」として、核兵器または生物・化学兵器の開発疑惑をもたれている朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、イラク、イランの3カ国を挙げ、それら「悪の枢軸」も対テロ戦争の対象として見なければならないと語ったのである。世界は揺れた。

<主要なターゲットはイラク>

 このような具体的な国名を挙げての「悪の枢軸」発言は、一般教書演説の性格上、極めて異例なことであり、当然のことながら各方面から強い反応が出た。特に、「テロ事件」以後、米国の対テロ戦争に協力する姿勢を明確にし、「文明間の対話」(ハタミ大統領)にリーダーシップを発揮していたイランが「悪の枢軸」と名指しされたことは内外から注目された。

 国営イラン通信によれば、イランのハラジ外相は30日、「内政干渉」であると非難するとともに「演説は傲慢であり、中東の問題から目をそらし、パレスチナ人を抑圧するイスラエルを支え続ける為の世論形成を行っている」と批判。またハタミ大統領は「戦争を挑発する内容で、最も悪い点は、イラン国民を侮辱したことだ」と強く反発したのである。

 しかし、ブッシュ発言には根拠があった。1月4日、パレスチナ自治区に向かう武器密輸船をイスラエル軍が紅海上でだ捕した。ロケット弾約50トンが積まれていたが、それはすべてイラン製だったのである。さらにウサマ・ビンラディン率いる武装組織アル・カーイダの活動家がアフガニスタンからイランに越境している事実を米国はつかんでいたのである。

「悪の枢軸」三カ国の中で最も喫緊に対処すべきはイラクであると米国は考えている。イラクは1995年から国連の大量破壊兵器査察を拒否しており、安全保障理事会は昨年、査察拒否などを理由に湾岸戦争時から続いている制裁を継続する決議を採択している。

 テロ事件直後、イラクのサダム・フセイン大統領は事件を米国の「自業自得」と強調したのである。イラク国営通信によると、フセイン大統領は9月12日、同国の軍事顧問らとの会合でテロ事件に触れ、「米国は世界中で自らまいた種の報いを受けている」と述べ、パレスチナ問題をめぐるイスラエル寄りの姿勢やイラク空爆など米の中東政策が事件を引き起こしたとの見方を示した。そしてイラク国営テレビは、事件を「世紀の作戦」として賞賛する放送を繰り返したのである。

<北朝鮮最大の危機が来る?>

 最も激しく反応したのは北朝鮮であった。2月1日、外務省スポークスマンが声明を発表し、「悪の枢軸」発言は「我々に対する宣戦布告」であると述べ、「歴代の米大統領が政策演説で主権国家であるわが国に対し、直接的にこのような露骨な侵略脅威を加えたことはない」「米国が対話の仮面を投げ捨て、情勢を戦争の方に追い込んでいる」などと非難した。さらに「(軍事的)打撃の選択権は米国にだけあるのではない。米国の無謀な軍事的圧殺企図を絶対に容認しない」とし、戦争も辞さない意思を示したのである。

 米政権内では穏健派といわれるパウエル国務長官が「米国は北朝鮮との間に存在するいかなる問題も議論する姿勢であるし、いつ、どこで、だれとでも議題を決めずに会うことを北朝鮮に提案したが、北朝鮮がこれに応じていない」「ブッシュ大統領の発言を批判的にみるよりは、北朝鮮がこれまでやってきたことを批判的にみるべきだ」「住民は飢えているのに、指導者は豪華な暮らしをして、ミサイルを作るのは話しにならない」と強く訴えていることからも、米政権の決意を知ることができるだろう。一時的な戦術(たとえば選挙用発言)と捉えることはおろかであろう。

 テロやそれと連結しうる大量破壊兵器拡散の脅威をなんとしても除去するという強い意志が米国にはある。そして、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言は、明らかにレーガン元大統領の「悪の帝国」とソ連を呼んだことに通じているだろう。それは軍事攻撃による殲滅宣言を意味していたわけではなかった。ソ連の態度変更による共存の道を模索する為の「対話実現」にこそ真意があったのである。発言の過激さのみにとらわれてはいけない。

大統領発言の後、イラクは2月5日、国連アナン事務総長に対して「無条件の対話再開」を提案してきている。サダム・フセインには、対話を単なる時間稼ぎに利用した過去がある。今後の展開を見守りたい。

 ところで、この手法は北朝鮮に通じるだろうか。「北朝鮮はイラクではない」と文鮮明総裁はかつて警告した。(91年12月7日訪朝後、北京にて)主体思想による国民理論武装、儒教伝統による国家威信尊重の精神、世界でもっとも徹底した軍事国家体制、生き残りを国家の最優先事項とせざるを得ない国内外の環境など、外からは計り知れないものがある。

 北朝鮮の2002年は「祝賀の年」である。金総書記の「還暦」(2月16日)、金日成主席生誕90周年(4月15日)とつづく。しかし、裏腹に金正日総書記体制はこの数カ月以内に最大の危機を迎えることになるだろう。これまでも94年北朝鮮の核関連施設の査察をめぐり、一触即発の危機を迎えたことがあった。しかし、テロ一掃を目指す米国と国際社会の核兵器を含む「大量破壊兵器の拡散防止」の決意は、かつての比ではない。「米国は譲歩せず、時間の引き延ばし戦術も認めない。金総書記は最大の危機に直面している」。これまでの戦術は「(核開発カードを脅し材料に米国を交渉に引き出した戦争瀬戸際外交も)ブッシュ政権には通用しない」(李相禹・韓国、西江大教授)だろう。

 今月17日から6日間にわたり、ブッシュ大統領は日本、韓国、中国を訪問し、首脳会談を行う。北朝鮮問題は最重要課題の一つである。北朝鮮に対してブッシュ政権は、【1】これから数カ月間に弾道ミサイルの部品や技術の拡散を停止すること【2】今年の末をめどに核兵器に関して米朝枠組み合意(94年10月)が規定する国際原子力機関(IAEA)の査察受け入れ表明・・を求めることが明らかになっている。

 今、北朝鮮が米朝協議に応ずることは通常兵器の削減、軍事境界線に集結する軍の一部撤退など、受け入れがたい案件を議題とすることを認めることである。このハードルは極めて高い。日韓米の一層の結束を前提に、あらゆる知恵を絞って北朝鮮のハードル越えを結果として実現しなければならないのである。日本外交にとっても「正念場」である。

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