思想新聞2001年6月1日号】【視点論点】
菅野英機・上武大学教授

《小泉新政権の経済政策》
小泉首相はその所信表明演説において、日本経済の再生を目指して、「小泉内閣の第一の仕事として、森内閣の下で取りまとめられた『緊急経済対策』を速やかに実行」するとし、「この経済対策は、従来の需要追加型の政策から、不良債権処理や資本市場の構造改革を重視する政策への舵取りを行うもの」であるとし、「自立型の経済をつくる」ことを目指して、「構造改革なくして景気回復はない」と主張しておられる。
ここには、私の観点からは、一つの是非とも実行してもらいたい方向と、一つの見過ごすことのできない賢明とは思われない政策とが同時に示されている。
《正しい方向について》
初めに、正しい方向について見ておきたい。それは、構造改革、規制緩和、行政改革、財政再建を思い切って断行し、無駄のないスリムな政府をつくり、民間経済の自立的な活力を元にした経済をつくることが大切であり、同時に長期には経済成長を高めることになるという点だ。また、政府の公共投資に頼る有効需要の拡大頼みの経済運営ではなくて、自立的な民間の消費需要や投資需要の拡大による景気の上昇こそが基本であるということだ。この点は、まことにその通りであり、思い切って断行してほしいものである。規制は原則撤廃し、どうしても必要な最小限度の規制を改めて課すぐらいのつもりで行ってちょうどよいと思われる。また、道路財源等の使い道が特定されている財源を今最も必要とされる都市整備などに使い道を拡大することや、国の行っている仕事を県や市町村に渡す地方分権の推進によって、無駄な支出を抑えることなどは思い切って行ってもらいたい。
《賢明とは思われない点について》
次に、賢明とは思われない点について見ておこう。有効需要(消費需要と投資需要の合計)の拡大なしに景気の回復はないということであり、不良債権の最終処理や資本市場の構造改革(株の持ち合いの解消など)や財政再建(来年度から国債の発行額を30兆円にすることなど)は、長期的に経済体質を改善する役割があり、重要な政策だが、短期的には景気を悪化させ銀行や企業の倒産を増加せしめ失業を増大させることになる。デフレ下のデフレ政策となり、「盲腸を治して人を死なせる」政策となりかねず、賢明な政治の取るべき政策とは思えない。善政はあくまでもバランスのとれた、全体を見据えた上での中庸にある。そのことを忘れては、元も子もないことになりかねないのである。
《政府のなすべきこと》
今、政府のなすべきことは、思い切った規制緩和、行政改革、地方分権と地球温暖化対策などをふまえた新エネルギー産業の育成、IT関連産業の一層の育成、文化やレジャー産業の育成のために、ヨーロッパ並みの余暇の増加などの思い切った政策(財政支出を伴わずに消費支出を拡大できる)を行い、新しい産業を育成することなどである。
また、地価(既にバブルの発生前を下回っている)や株価の必要以上の下落が不況を長引かせ、不良債権を生み出し続けている原因であるから、土地取引や二重課税の疑いのある株・有価証券の取り引きにかかる税の軽減ないし撤廃を行うべきであろう。物価の下落が、景気の足を引っ張っている最大の要因であるため、経済の体力を向上させ、自立的な活力を向上させるためにも、日銀による通貨の量的拡大の一層の増加によって3%程度の調整インフレを行い、日本経済の3%程度と思われる潜在成長力を引き出して名目で6%の経済成長軌道に乗せるなかで、不良債権の最終処理や構造改革、財政再建を同時進行で行えば、痛みを伴わずに必要な改革が容易に断行できるはずである。それが、賢明なバランスのとれた善政というべきものであると思われる。


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