この記事は2011年1月13日に投稿されました。
政府は国家公務員に労働基本権を与え、労使交渉で勤務時間を決めるなどとする公務員制度改革案を1月中にも取りまとめる。なぜ労働基本権を付与するのかというと、民主党の公約である「国家公務員総人件費の2割削減」を実現するために必要なのだという。2割削減するには人事院勧告を超える給料カットが避けられず、それを労働基本権が制約されている現状で実行すれば、憲法違反として訴訟を起こされるリスクがあり、公務員労組の反発が必至だからだという。それで人件費の大幅削減には「民間準拠」を原則に給与を決める人事院勧告を廃止し、労使交渉によって人件費を決定する新制度に導入が必要というわけだ。
笑止千万である。公務員労組は共産党系や旧社会党系が支配しているところが圧倒的に多い。そうした共産主義労組を相手にまともに労使交渉ができるとでも思っているのか。それでなくても現在、ヤミ専従(公務員給与を得ながら職場を離れて組合活動に従事する違法行為)が官庁にはびこり、違法な政治活動もまかり通っている。官庁から共産主義労組が一掃され、愛国心を持つ、まともな公務員労組に変わるのであれば話は別だが、現状のままで公務員労組に労働基本権を拡大すれば、人件費削減どころか、好き勝手な主張を受け入れさせられる。あげくの果てに官庁は旧国鉄のような争議漬けとなり、ストに明け暮れるフランスやギリシャの二の舞となって国民生活が犠牲にされるのが落ちである。
公務員は「国民全体の奉仕者」である
そもそも憲法は公務員を「国民全体の奉仕者」(15条)と位置づけている。公務員の職務は公共性を持っており、民間の代替が利かない。職務を放棄したり、国民を人質にとって自己の利益を図ったりすれば、国民生活が脅かされる。そのため自衛官や警察官には基本権そのものを付与せず、一般公務員には団結権の労組結成を認めても、給与や勤務条件などを労使交渉で決める協約締結権(交渉権)とストなどの争議権については認めてこなかった。その代償として人事院が毎年、民間の給与水準をもとに「適正な給与」を内閣と国会に勧告してきたのである。
それは公務員の地位や職務が民間の会社員とはまったく異なっているからだ。民間の場合、交渉相手は使用者の経営者で交渉事項に制限はなく、利益の範囲内という歯止めも掛かるが、公務員はそうはいかない。倒産がないから、「親方日の丸」で歯止めがかからない。そもそも公務員の使用者は国民自身で、給与は税金で賄われ、公務の「利益」は不明確である。それで財政民主主義に基づき国民の代表である国会が給与を決定してきたのである。
ところが、民主党の支持母体である連合は、公務員への労働基本権付与を強く要求し、民主党もマニフェスト(政権公約)に「公務員の労働基本権を回復し、民間と同様、労使交渉で給与を決定する」と盛り込んでいる。この認識が根本的に誤っているにもかかわらず、鳩山政権が誕生すると「労使関係制度検討委員会ワーキンググループ」を立ち上げ、2009年12月に人事院の勧告制度を廃止し、これに代えて労組に交渉権を与える素案をまとめた。菅内閣が通常国会に提出しようとしている公務員制度改革関連法案はそれを踏襲し、①国家公務員に協約締結権を付与②政府側と労使交渉を担当する「公務員庁(仮称)」を新設③人事院の廃止―などをあげている。争議権について触れていないが、検討課題としており、どうやら将来、導入するつもりらしい。
これは公務員の定員や給与削減を実現するには「身分保障」をなくす代わりに民間並みに労働基本権を付与すればよいというものだが、公務員と民間を混同する誤りを犯し続けている。かつて国鉄(現JR)では労働基本権を振りかざす国労や動労が「国民の足」を人質にスト権ストなどを繰り広げ、国民生活に悪影響を与えたことは年配者の方なら承知のはずだ。公務員に交渉権を付与すれば(将来は争議権も)、この二の舞になりかねない。こんな話をすると、今は時代が変わった、総評と同盟が対峙する冷戦時代が終わり、連合に統一されているから、そんな心配はない、という人がいる。そうだろうか。
公務員同士での労使交渉はナンセンス
連合は民間労組が中心の旧同盟が加わっているので穏健労組とのイメージがあるが、こと公務員労組はそうではない。旧同盟系は連合の会長ポストを得る代わりに政策策定の実権を旧総評系に握られ、左傾化しているのが実態である。国家公務員の労組は旧総評系を中心とする国交連合(約11万5000人=民主党を支援)と国交労連(約9万5000人=全労に属し共産党を支援)があり、いずれも左翼労組である。旧総評系と共産党系の労組が今も公務員労組を牛耳っているのだ。それが現実だ。
素案は公務員労組の言いなりだった。給与など勤務条件の交渉は①官房長官ら「中央人事行政機関」の長と連合など組合側の長による「中央交渉」②各府省の大臣と府省別組合の長による「府省交渉」③省庁地方支分部局の長と同部局の組合の長による「地方交渉」-の順で行うとしていた。これにしたがって中央と省庁、地方の三レベルで労使交渉をすれば、それこそ公務そっちのけで“交渉漬け”になるのは必至である。公務員の身内の中に「経営者」側を設定して交渉するというのは泥棒が泥棒を捕まえると主張する矛盾に満ちた話だ。経営者は国民自身だ。そのことを忘れてもらっては困る。民主党案では労使の力関係によっては省庁間や職場間で勤務条件や給与が異なる事態も起こり得る。協約締結権がない現状においてすら、労組の強い職場ではヤミ専従など不正行為がまかり通ってきたから、「ヤミ専従天国」になるのは間違いない。
地方自治体も「労組天国」と化す
しかも法案は地方公務員の労働基本権についても国と整合するとしており、国家公務員に協約締結権を付与すると、全国の自治体も同様の労使交渉システムを採用することになり「労組天国」が全国すべての役所に広がる。地方では自治労(約90万人)や日教組(約29万人)、全教(約10万人)などが強力な組織を誇り、労組の強い職場では労使の癒着がまかり通ってきた。昨年、北海道教組が組織ぐるみ選挙違反を繰り広げ、民主党国会議員が辞任したのは氷山の一角にすぎない。これをさらにスト権にまで拡大すれば、どんな事態が待ち受けているか、想像に難くない。
国民を軽視し公務員天国を招く労働基本権付与に反対する。
2011年1月13日


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