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領海侵犯 現行防衛体制は通用せず

思想新聞 1999年4月5日号

工作船逃走、北朝鮮へ帰還

逃走を続ける不審船「第2大和丸」(上)と「第1大西丸」(下)

 日本の平和と安全は、はたして現行の防衛体制下で守られるのか――。3月23日から2日間にまたがった、北朝鮮による偽装工作船の領海侵犯事件は、主権侵害以外の何ものでもない。今回は自衛隊発足以来初めての海上警備行動が発令された。
 しかし、現行自衛隊法下では停船を要求する「威嚇射撃」が限界、逃走を許すことになった。法改正はもちろんのこと、有事法制化の早期成立には、政治の決断あるのみだ。 

決断なき法制棚上げで国滅ぶ

 領域保全については、昨年12月、韓国南部沖で起きた北朝鮮潜水艇の撃沈事件を目の当たりにした。事件現場は日本領海からわずか50キロ。場合によっては、わが国への領海侵犯の恐れも十分にあった。三陸沖へのテポドンミサイル着弾からはすでに半年以上が経過したが、安全保障政策、制度の未整備という現状に変化はない。

自衛隊発足以来の発令

不審船に威嚇射撃する海上保安庁の巡視船「ちくぜん」の保安官

 こうした危機管理体制の甘さをつくように、北朝鮮の偽装工作船による領海侵犯から逃走、そして帰還という事件が発生したのである。3月23日午前6時42分に日本船名「第一大西丸」を佐渡沖で、同9時25分に「第二大和丸」を能登半島沖で初探知。偽装船と確認された後、海上保安庁の巡視船による停船命令に応じなかったため、翌24日午前零時50分、政府は自衛隊法82条に基づいた「海上警備行動」を発令。その後も停船命令に応じず、護衛艦「みょうこう」「はるな」が合計25回の警告射撃、対潜哨戒機P3Cが計12発の爆弾投下を工作船二隻に対して実行。工作船はこれも振りきって「防空識別圏」を越えたため、同日午後3時30分、海上警備行動を解除した。工作船2隻は、北朝鮮・清津の軍事基地施設に入港が確認された。領海侵犯という主権侵害のまま、逃走を許したことは無念の極みである。
 海上保安庁の巡視船による警告射撃は実に46年ぶり、海上警備行動は昭和29年に自衛隊が発足して以来初めてのこととなった。これまで危機対応能力を欠いていたといわざるを得ない政府の姿勢を顧みれば、今回の対応は評価できよう。
 とはいえこれを手放しでは喜べない。政府による海上警備行動発令は、巡視船による追跡が始まってから12時間後のこと。緊急事態での意志決定の遅れは、場合によると致命的な打撃を被る。阪神大震災における二次災害は好例だ。また現行法制の限界もある。巡視船、護衛艦とも武器使用は認められているものの、正当防衛、緊急避難以外は「相手に危害を加えない範囲」でしか使用が認められていない。

政治の怠慢続けば同様の事件が再発

 問題は工作船が発砲して自衛隊と交戦、これが拡大していた場合どう対応したのかということ。現在、国会では周辺事態関連法案の審議中だ。しかし本来、その成立が急がれるのは有事立法ではなかったか。テポドン発射の際、米国防総省関係者は「一様の日本の危機意識への欠如に衝撃を受けている」と皮肉を述べたが、今回の事件でも大騒ぎすることなった。
 日本への領海侵犯は北朝鮮の工作活動だけでなく、中国人の密航など茶飯事となっている。元北朝鮮工作員・安明進氏によれば、「日本の警察は絶対に撃ってこないから、日本に出入りするのは簡単だ」と、日本人拉致に関与したことのある上官は漏らしたという。
 日本政府は同事件で北朝鮮に対し身柄の引き渡しなど抗議を行ったが、北朝鮮側は工作船の存在そのものを否定している。断じて許されない態度であるが、何よりも法整備に政治が決断することが、重要である。さもなければ同様の事件は繰り返されるだけだ。

主要各国の沿岸警備での実力行使体制

アメリカ沿岸警備隊が密輸船にも武力を行使 有事の際は海軍の特別部隊となる
韓 国海軍と海洋警察庁が担当(同庁は127ミリ速射砲搭載船も使用)
中 国公安部辺防局の武装警察隊が担当
ロシア領海警備隊が漁船にも発砲
イギリス警備行動は海軍が担当

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