【思想新聞2001年6月15日号】
大阪府下の小学校で八人の児童が刺殺された事件は、日本の「安全神話」をまた一つ崩したといえる。安全であるべき小学校に包丁を持った男が侵入し誰かまわず児童に斬り掛かる様は地獄絵そのものである。最近、治安悪化が深刻化してきていたが、事態は一段と悪化している。治安維持の法体制に欠陥があることは明らかだ。
「治療処分」導入へ 刑法の改正を視野に
今回、大阪府下で起こった八人の幼い命を奪う凶悪事件の犯人、宅間守容疑者は過去に障害容疑で逮捕されたものの、「精神安定剤依存症」と診断され、刑事責任能力が問われかなかった経緯がある。その時は起訴されず、精神保健法に基づく措置入院となったが、すぐに退院。その後、再犯を重ね、今回の凶悪犯罪を起こした。
ここから明らかなことは、過去に犯罪を起こした触法精神障害者に対する犯罪予防体制が欠落しているということである。犯罪に走る可能性のある人物を精神障害を理由に野放しにしてきたと言っても過言ではなく、これは治安維持のうえで看過できるものではあるまい。
警察庁によると昨年1年間に凶悪事件(殺人・強盗・強姦・放火)で検挙された7488人のうち、精神障害およびその疑いがあるのは305人。殺人事件では1416人のうち132人、実に1割近くを占めている。
その中には昨年5月、日本中を震撼させた西鉄バス乗っ取り殺人事件の17歳の少年もいる。同少年は精神障害で入院し退院直後に犯罪に走った。また今春、東京・浅草で女子短大生が殺害される事件が発生したが、この事件の容疑者である「レッサーパンダ帽の男」も精神障害の過去をもち、これまでに強制わいせつなど前科四犯を重ねている。にもかかわらず、精神障害の疑いで微罪で済んだために、ついに女子短大生殺害事件を引き起こすに至ったといわれている。
これらの事実は触法精神障害者の再犯が防げなかったことを物語っている。「心神喪失者の行為は罰しない」あるいは「(心神喪失の場合は)刑を減軽する」と刑法が規定しており、99年までの5年間に殺人事件を起こした精神障害者のうち602人は不起訴になり、起訴された117人は刑が減軽され、7人は無罪になっている。
不起訴になった場合、検察は精神保健福祉法に基づき都道府県知事に通報し、知事が精神病院に措置入院させることができるとされているが、その後は医師の医療上の判断だけで入退院が決められる。そこで安易に退院した後に前述した再犯が起こっているのだ。
しかし、海外では「治療処分」を立法化し、触法精神障害者に対応している。刑事裁判所が容疑者の心神喪失を認めるかわりに「入所治療」を命じるのが「治療処分」で、入所以降も司法が再犯の危険性がなくなるまで入所させるかをチェック、さらに出所後も定期的に通院を命じ、場合によっては施設に強制収容させている。
もし日本にこうした制度があれば、宅間容疑者やパンダ男による悲劇は起こっていなかった可能性が高い。
ここで我々が注意しなければならないことは、精神障害者のほとんどは犯罪に関わりがなく当然、そうした人々の人権は擁護されなくてはならないという点である。法の網をかける必要があるのは、一部の触法精神障害者の処遇である。ただちに「治療処分」を刑法に盛り込むべきである。
凶悪な外国人犯罪やネット犯罪急増
わが国の治安維持についてはこのほかにも問題点が指摘されている。その第1は外国人犯罪についてである。
警察庁によると昨年1年間に全国で摘発された来日外国人による犯罪は30971件にのぼっており、過去最高となった99年より1割減少したものの、10年前に比べて約5倍増加している。中でも凶悪犯の摘発は242件、またピッキングによる空き巣も増加している。外国人犯罪は凶悪化しており、検挙率も低下、国民の間に不安が高まっているのである。
第2はインターネットにまつわる犯罪である。いわゆる出会い系サイトで知り合った男女に絡んだ凶悪事件が相次いでいることだ。さらに第3は有害環境が野放しになっていることである。さらに第四にはオウム教団に対して破防法を適用しなかったために、その後の同教団の活動によって国民の間に不安が高まっていることである。
こうした現状は治安維持の体制にほころびが生じていることを示している。時代は国際化、情報化など大きく変化してきている。だが体制は旧態依然のままだ。時代に対応した体制づくりが不可欠となっている。小泉首相は治安維持の面でも「聖域なき改革」を心掛けるべきである。


コメント