国際勝共連合 機関紙 思想新聞は創刊56年 通巻1898号 (令和8年5月1日)

露呈する金正日体制の末期症状 偽装された「教会信仰」

思想新聞2003年11月1日【視点論点】


山梨学院大学教授 宮塚 利雄氏

中朝国境付近の覚醒剤工場を視察

 中朝国境地帯から北朝鮮を十数年来定点観測しているが、この8月には、青水にある麻薬と覚醒剤の工場を視察してきた。戦前、日本がカーバイト工場として造ったもので、今は覚醒剤やホスゲンなどの化学兵器を製造している疑いが指摘される。国境の川沿いにあるので、川をさかのぼる船から間近に見た。煙突からの煙を分析すれば、何を製造しているかはっきりするだろう。
 日本に入ってくる覚醒剤は1993―97年は中国が91%を占めていたが、98年以降は北朝鮮が35%を占めるまでに増加している。東京・お台場で公開された工作船の遺留品からも、覚醒剤を運んだ形跡が発見されている。また、日本が北朝鮮から輸入する魚介類の箱を使い密輸するケースもあった。中国や台湾を経由する場合もある。もっとも今は取り締まりが厳しくなり、流通量が減少しているため、数カ月前までは末端価格が一グラム3~5万円だったのが約2倍に上昇している。

民衆に根づきつつある「地下キリスト教」

 もう一つ分かったのは、北朝鮮で意外に地下宗教が流行っていること。これはキリスト教で、聖書も入り込んでいる。金正日体制を揺るがすのは、政治的な反対勢力の台頭や外国からの攻撃ではなく、むしろ民衆の間に浸透する地下宗教ではないか。
 歴史的にキリスト教は、李朝末期に中国から入ってきたので、朝鮮半島北部にクリスチャンが多い。戦後、共産主義政権が「宗教はアヘンである」としたため、キリスト教徒は迫害された。そこで彼らは韓国に逃げ、韓国で働いて財を成した。それが朴正熙政権時代になると、独裁政権に反発し大量に米国に移住。米国でも財を成し、やがて故郷に目を向けた。
 1984年に北朝鮮が開放政策の一環で合弁法を制定し、外資導入を図ると、在米朝鮮人が郷土愛から投資するようになった。在米朝鮮人の多くはクリスチャンで、長期滞在を可能にするには日曜日に行く教会が必要とされた。そこで北朝鮮はやむを得ず平壌にカトリック系とプロテスタント系の教会を一つずつ建てた。教会には韓国からも金や物資が持ち込まれ、非常に重要なパイプになっている。
 教会には朝鮮人の信者も来るが、彼らは本当の信者ではない。偽者の信者を送り込み、信仰の自由があるかのように偽装しているだけだ。しかし、元来キリスト教の素地があるので、政権が末期症状になってくると、信仰が復活することは十分に考えられる。
 北朝鮮労働党の内部文書でも「資本主義的思想が入り込み、わが国の体制を脅かしている」とし、その最たるものとして、ポルノビデオや雑誌と聖書、そして韓国のラジオ放送を挙げ、地下宗教を問題にしている。キリスト教徒にとり主は金正日ではなくイエス・キリストなので、北の体制を脅かすことになる。

本末転倒の北朝鮮「美女軍団」

 北朝鮮に行ったことのある韓国の牧師に聞いたところ、信者の家を訪ねると、次に来ても会えないと言われたという。「どうしてか」と聞くと、「われわれは臨時に駆り出された信者だからだ」と答えた。それが、長いこと信者をやっていると、本当の信者になってしまう恐れがあるので、一定の期間を過ぎると交代になるらしい。だから次に牧師が平壌の教会に行くと、別の信者がいることになる。そんな秘密をバラすこと自体危険なのに、タガが緩んできたのだろう。
 恐怖政治で締め付けていた北の体制も、少しずつほころびが見え始めているし、韓国のラジオ放送もかなり影響を与えているようだ。脱北者の三分の二は、韓国からの放送を聴いたことがあると答えている。ラジカセのようなものはかなり持っているし、中国から入ってくる人を通して口コミで情報が広まっている。韓国のテレビも見ることができる。韓国の方がいい生活をしていることは、ほとんどの人が知っている。
 先の韓国・大邱でのユニバーシアードにしても、北朝鮮からは選手・役員よりも美女軍団の方が多い。韓国のことわざに「腹よりへそが大きい」というのがあるが、どう考えても本末転倒だ。メディアの目を彼女らに向けさせることで、核開発疑惑や飢餓、脱北者など暗いニュースばかりの北朝鮮の現実から目をそむけさせる狙いがあるのだろう。しかし、彼女たちの笑顔が心からの笑顔かどうか、疑問だ。国を背負った応援なので、どうしても本当の笑顔には見えない。(取材・協力=世界思想、文責・編集部)

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