思想新聞2003年5月15日【マスコミ論壇ウォッチング】
わが国の経済はバブル崩壊から10年を超えてなお、好転の兆しを見せていないが、日本経済がいまだに世界第2位の規模を誇ることを考えると、世界経済の動向に及ぼす影響は無視できない。
しかし、わが国でありうべき経済破綻以上に深刻な事態が進行中であるにもかかわらず、国民のほとんどがそのことに無関心だという問題について指摘しておかなければならない。
それは他ならぬ、エイズ感染爆発の可能性という大問題である。
現時点で国民の関心は、中国大陸で感染拡大を続けている新型肺炎、SARS(重症急性呼吸器症候群)に注がれているが、その関心の度合いも「対岸の火事」を見るようなところがある。
現下の最大脅威の一つであるSARSについてすら、他人事のような無関心ぶりを考えると、最近ほとんど報じられることのなくなったエイズについては、国民の関心は皆無と言っていいのではないか。
そのような折りも折り、4月26日、NHK総合テレビで「NHKスペシャル『エイズ・感染爆発をどう防ぐのか』」という特集番組が放送された。番組冒頭、わが国だけが先進国で唯一エイズ患者が増加しており、特に若年層において異性間交渉における感染が急増しているという深刻な事実が紹介された。
わが国におけるエイズ感染の広がりは、若年層の性行動の劇的な変化に起因していることは様々な調査で明らかであり、事態の悪化を防ぐカギは、無軌道な若者たちに性行動の変化を促すことにあるのは明らかだ。
ところが、番組は現実の深刻さ、ことに若者たちの性意識や性行動に対する父兄の驚きを紹介しながら、彼らに無軌道な性行動の変化を求めることは不可能だと判断したのか、エイズ感染を防ぐ方策はコンドーム以外にないとのスタンスで締めくくっていた。だが、米国では「自己抑制」という新しいアプローチが有効に機能し始めている。その事実を顧慮すれば、今回の番組はあまりにも一面的な内容と言わざるを得ない。


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