この記事は2016年6月21日に投稿されました。
中国軍艦が立て続けに領海侵入、そして接続水域への侵入を繰り返した。領海侵入は6月15日に鹿児島県の口永良部島付近で、接続水域への侵入は16日に沖縄県の北大東島付近であった。いずれも中国海軍のドンディアオ級情報収集艦によるものである。中国軍艦による領海侵入が確認されたのは、2004年の原子力潜水艦による領海侵犯事件以来2度目である。日本の本土に極めて近い口永良部島付近では、もちろん初めてだ。
領海侵入は、日米印の会場共同訓練「マラバール」に参加していたインド海軍艦を追尾するかたちで行われた。目的は共同訓練の妨害と情報収集活動とみられている。中国側は国際法が認める無害通航だと強弁しているが、そんなはずはない。目的は軍事行動である。
対日戦略は新たなステージに
この事件によって、中国軍の対日戦略は新たなステージに入ったとみてよい。
中国軍には1982年に策定された近代化計画があり、2010年までに第一列島線内の制海権を確保し、2020年までに第二列島線内の制海権を確保するとしている。このうち、南シナ海では中国が多くの人工島を築き、レーダーや対空ミサイル砲などを配備して軍事拠点化を進めている。米国が「航行の自由作戦」で対抗しているが、約半年で3度しか行っていない。南シナ海は事実上、中国の海になってしまった。
東シナ海はというと、尖閣諸島の周辺に中国の公船「海警」が毎日のようにやってきている。接続水域を海上保安庁の巡視船と並走して何日か航行し、他の船と交代するタイミングで2時間ほど領海侵犯して出て行く。マスコミではあまり報じられないが、そんなことが常態化している。つまり中国側から見れば、南シナ海も東シナ海も、中国が自由に行動できる海になったのだ。となれば次は第一列島線の突破である。その本格的な始まりが今回の事件だったのである。
伏線はあった。中国軍は12年秋以降、尖閣の北方の洋上に軍艦船1、2隻を常駐させている。はじめは尖閣との距離は100km程度だった。14年末ごろからは70kmほどまで接近している。そして今年の5月、中国の軍用機が尖閣諸島に向かって南下し、これまでになく接近した。政府は公表していないが、日本経済新聞が6月15日、「複数の関係者からの情報」として報じている。そして6月9日、中国軍艦が尖閣諸島の接続水域に入った。ロシア軍と自衛隊の艦艇に続く侵入だったため、「受け身的」「偶発的」と報じたマスコミもあったが、これらの経緯を見れば決して偶発的な事件ではないことがわかる。
では、なぜ「受け身的」に見える行動をとったのか。それは米軍に介入の口実を与えないためである。強大な米軍が介入すれば中国は今はとても太刀打ちできない。そこで考え出されたのがロシア艦の追尾である。ロシア艦が同海域を通過することはこれまでも度々あった。これを「偶発的に」追尾したというかたちを装えば、単独の侵入に比べ、米軍が反応しづらいと考えたのだ。つまりロシア艦は、中国の対日工作のダシに使われたのである。接続水域への侵入は、周到な計画のもとに実行されたのである。
中国の横暴を許すな
実際米国は、この件で全く反応しなかった。そして6月15、16日の中国軍艦の行動についても、中国が無害通航を主張したため、やはり米国は反応しなかった。明確な根拠がないままに中国を非難し、対立を深めることは避けたいのである。中国側の作戦は見事に成功した。中国軍幹部は今頃ほくそ笑んでいるに違いない。
日本側は現在、無害通航には当たらない証拠、すなわち中国軍艦が情報収集活動をしていた証拠の有無を慎重に調べている。政府は早急に証拠をそろえ、そして断固とした態度で臨まねばならない。「懸念を表明する」などと事実上容認するような態度を示せば、中国をつけあがらせるだけである。米国を巻き込むことも重要だ。中国の横暴をこれ以上許してはならない。
2016年6月21日


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