【思想新聞2004年5月1日号 1面】TOP
韓半島情勢が新たな段階に入っている。韓国では四月の総選挙で盧武鉉大統領の与党ウリ党が過半数を制し、左翼急進政党も国会に進出したことで韓国左傾化の危機が一段と深まっている。こうした韓国の政治情勢の変化を背景に北朝鮮は外交攻勢に乗りだし、金正日総書記が3年3カ月ぶりに中国を訪問、中朝首脳会談で結束ぶりを誇示し六カ国協議を有利に進めようとしている。だが、その直後に列車爆破事故が発生、国際社会の被災者救援策を北朝鮮が受け入れるのか注目を集めている。いずれにしても今ほど日米韓の結束が必要なときはない。日本は米韓との連携を強化して韓半島情勢に対処していくべきだ。
韓国に左傾化の危機国際社会は列車事故で逆攻勢を
4月15日に投票が行われた韓国の総選挙は盧武鉉政権の行方を決する政治決戦だったが、与党ウリ党が選挙前の49議席から3倍増を果たし国会(定員299)の過半数を上回る152議席を獲得したことで、盧大統領の政治基盤が固まった。これでハンナラ党を軸にした国会の野党絶対支配が終わり、憲法裁判所での弾劾審判も大統領有利に運ぶのは必至で、5月中にも弾劾否定の審判が出る見通しだ。
だが、ウリ党内は親大統領派と鄭東泳議長派、在野出身派の三つに分かれているとされ、どこまで結束を維持できるか不透明だ。加えて今回、初めて議席を獲得した民主労働党の影響力増が注目される。同党は労組(全国民主労働総連盟)を支持母体にし、対外政策では在韓米軍撤退・イラク派兵部隊帰還など反米路線を掲げ、国内政策では富裕税導入など労働者・弱者優遇政策を採る親北の急進的左翼政党だ。同党は比例区を中心に10議席(比例8、小選挙区2)を獲得したが、支持者の多くが小選挙区でウリ党に投票したとされ、同党への影響力を強めている。
それだけにウリ党内の左派勢力と連動し、韓国の左傾化を図っていくのではないかと危惧されている。とりわけ、北朝鮮の対韓革命工作を阻止するために制定されてきた「国家保安法」を撤廃、あるいは骨抜きにしようと画策してくると見られ、保守陣営は危機感をつのらせている。
北朝鮮は今回の総選挙を「ハンナラ党の破滅」(4月11日、朝鮮中央放送)「極右保守勢力を総選挙で政治的に葬り去るべき」(同12日、労働新聞)などと選挙期間中から声高に保守批判を展開してきた。そのハンナラ党は16減の121議席で、与党独占には待ったをかけた。
盧武鉉大統領が大統領職に復帰すれば、野党によって妨害されてきた太陽政策を加速させるのは必至で、韓半島情勢は北朝鮮の思惑どおりに進む可能性が高まっている。
■北朝鮮は「核カード」を温存
こうした韓国の動きを見定めたうえで金正日総書記は01年1月以来、3年3カ月ぶりに中国を訪問、4月19日に胡錦涛主席と首脳会談を開いた。中朝首脳会談は01年9月以来のことだ。
会談では胡主席は「朝鮮半島の非核化と対話による核問題の解決を支持する」とし「朝鮮の道理ある懸念も重視され、解決されるべきだ」と述べた。これは六カ国協議で北朝鮮が求めている「米国の敵視政策の変更」に同調したものと解釈されている。
これに対して金正日総書記は「最終的な非核化の目標を堅持し、対話を通じた平和解決を求める基本的な立場に変化はない。今後も忍耐と柔軟性をもって積極的に六者協議のプロセスに参加し、協議を進展するよう貢献する」と述べた。これは中国の六カ国協議での役割を評価したと解釈されている。
このように中朝会談は、国際社会に対して中国が「北朝鮮カード」、北朝鮮が「核カード」を互いに誇示し合ったものだ。六カ国協議は6月末に予定されており、米国がイラク問題に手こずっている間に中朝の結束ぶりを見せつけ、協議を有利に運ぼうとしている。
また中国側の発表によれば「金総書記は訪問の結果に満足の意を表明した」としていることから、中国が北朝鮮に何らかの無償援助を約束したと見て間違いない。
今後、北朝鮮は「核カード」と「中朝結束」を背景に韓国にさらなる経済援助を求めてくるだろう。韓国を米日から切り離し、中朝に引き寄せようとしている思惑を見破っておかねばならない。
■被災者救援をテコに開放迫れ
そうした中、北朝鮮北西部の竜川駅で4月22日、列車爆発事故が発生、多数の子供を含む160人以上の死者と1300人以上の負傷者(25日現在)を出す大惨事を招いた。
北朝鮮はこうした事故報道をこれまで行ってこなかったが、今回は朝鮮中央通信が事故発生1日半後の24日に異例の早さで伝えた。これは事故現場が中国国境からわずか15 キロの地点で隠蔽できず、しかも中国政府がいち早く公表、さらに金正日総書記が中国訪問からの帰途に通過した直後(9時間後との説)で、テロとの関連を否定するためにも公表を余儀なくされたと見られる。
今回の事故は単なる事故とは思われないナゾが少なくない。
北朝鮮は「各国政府、国際機関、団体などが人道的支援の用意を示していることを評価する」(朝鮮中央通信)として、国際社会に人道的支援を要請したが、これには事故を使って国際社会に開かれたイメージを演出しようとしているとの見方も出ている。
だが、逆に言えば北朝鮮を開放政策に誘導する絶好の機会とも言える。国連は94年以降、「人間の安全保障」の一環として災害への人道支援を促しているからだ。これは本来、国家が自国民の生命や安全を守る第一義的責任を負っているが、それができない場合、国際社会は人道上からの援助、場合によって介入することもできるとする考えに基づくもので、今回の列車事故への国際社会の被災者救援は結果的に北朝鮮に人権改善を促す契機になるわけだ。
だから国際社会は竜川地域の北朝鮮住民の被災者救援に乗り出すべきと言える。そして援助物資などが被災者に間違いなく届くように北朝鮮に透明性を求め、また北朝鮮が被災者に対し国際人権規約から逸脱した、甚だしい人権侵害を行っていないか、監視していく必要がある。とまれ、北朝鮮の日韓米離反策をはね返し、核放棄・拉致解決などを要求する逆攻勢をかけていくときだ。


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