思想新聞2003年8月15日号【1面TOP】
韓国動乱休戦 50年の教訓
韓国動乱の休戦から7月27日に50年を迎えた。北朝鮮がついに核問題をめぐる多国間協議の開催を受け入れ、近く北京で米中朝に日韓露を加えた6カ国協議が開かれる運びとなった。これは米国の一貫した2国間協議拒否の「圧力」が奏功したことを意味している。韓半島での緊張を回避したい中国が北朝鮮を説得、さらに韓半島での権益を確保しておきたいロシアが加わり、周辺四大国がそろって北朝鮮の核問題に臨むことになる。これで北朝鮮の「瀬戸際外交」はいよいよ正念場に立たされる。むろん、楽観は禁物だ。北朝鮮は「体制保証」を求めて条件闘争を強めるのは必至だからだ。日米韓は結束して核放棄を北朝鮮に迫っていくべきだ。それにはさらなる「圧力」が不可欠だ。それが休戦から半世紀の教訓でもある。
去る7月27日、韓国動乱で休戦協定が結ばれて50年を迎えた。「休戦」との表現が端的に示すように、この半世紀、韓半島では全面戦争は「休戦」してきたものの、北朝鮮によるテロ・ゲリラ戦など各種の戦争が仕掛けられ、真の平和は訪れなかった。
そして今、再び動乱の危機を迎えている。言うまでもなく北朝鮮が核開発に手を染め、核保有を宣言したからだ。韓半島問題はもはや地域問題ではない。ブッシュ米政権がイラクとイランと共に北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しにし、その危険性を指摘したが、まさにそれを裏付けるように北朝鮮は核拡散防止(NPT)条約から一方的に脱退し核開発に走ってきた。北朝鮮は核開発で「体制維持」を企てようとしているのだ。
7月にはいると米国が寧辺核施設周辺の大気からクリプトン85(使用済み核燃料の再処理に伴う放射性ガス)を検出。これを受けて北朝鮮は七月八日、再処理を完了して核兵器六個分のプルトニウムを抽出し直ちに核兵器製造を行うことを米国に通告。それでも米国は北朝鮮が主張する2国間協議を拒否して国際包囲網の「圧力」を強化した。
こうした硬直状態に業を煮やした中国は7月中旬、外務次官を訪朝させ、米朝2カ国協議にこだわらず多国間協議を受け入れるよう北朝鮮に迫った。これに対し北朝鮮が示した核放棄の条件は「体制保証」である。北の言い分によれば核放棄には米国による「体制保証」が不可欠で、従って米国との直接対話で不可侵条約を結び、その上で多国間協議に応じるものだ。中国は多国間協議の中で米朝対話が可能とし、結局、北朝鮮は多国間協議開催を受け入れた。
北朝鮮が受け入れざるを得なくなったのは、国際社会の「圧力」が効いたからだ。もし北朝鮮が多国間協議を拒否し続けるなら、米国は国連安保理に舞台を移して経済制裁決議の採択を目指すことになるが、そうなれば中国もロシアも同調せざるを得なくなるとの「圧力」だ。北朝鮮が核保有を現実化させれば中国もロシアも「次なる選択を考える」としている。そうなれば北朝鮮は完全孤立し「体制維持」はほぼ絶望となる。
だから北朝鮮は受け入れた。それでも「瀬戸際外交」を止めようとせず、休戦協定締結記念日の7月27日には金永春・参謀長が「米国の敵視・圧殺政策による戦争暴発」への対抗を強調した。これは米国の「体制保証」を引き出すための強硬姿勢の演出にすぎない。
多国間協議はロシアも加わることになり、日米韓と中露朝のかつての冷戦時代の三角支援体制の構図になった。図にあるように韓国側は米国を軸に同盟関係を強化してきたのに対して、北朝鮮側は旧ソ連との間に結んでいたソ朝同盟が解消され、2000年に軍事条項の持たない一般的な友好条約を締結。中国との間には従来の中朝同盟が存在するが、中国は軍事条項の解消を示唆しており、かつてのような「血の友誼」関係は微妙だ。
それだけに北朝鮮は米国の「体制保証」を何としても取り付けたいというのが「瀬戸際外交」の狙いだ。この交渉を有利に進めるために核保有までの時間稼ぎを図ろうとするとの見方もあり、6カ国協議の行方は必ずしも楽観できないだろう。
そこで日米韓は結束して北朝鮮に核放棄を迫っていかねばならない。まず3国は北朝鮮が「検証可能かつ再開不可能な核放棄」を国際社会に約束させねばならない。それには北朝鮮が①多国間協議で核放棄およびNPT条約への復帰を宣言②国際原子力機関(IAEA)や米英仏中露(安保常任理事国)の核査察チームを受け入れる③核施設の閉鎖・解体・封印を行う――の三段階での核放棄保障が不可欠となる。
北朝鮮が不可逆的(後戻りしない)な核放棄を決断すれば、米国は「体制保証」を約束し、それを中露日韓がいわば後見人として保証する形をとることになろう。その際、北朝鮮は米国に不可侵条約の締結を求めているが、米国は戦後、いずれの国とも不可侵条約を結んでおらず北朝鮮を特別視するこうした条約(しかも議会の批准が必要)など締結できるはずがない。
だが、パウエル国務長官は条約でなく別の形の「不可侵」文書を出すことを示唆している。93年6月のクリントン前政権の米朝共同声明では、双方は①核兵器を含む武力を行使せず、武力による脅威も与えないことを保証②朝鮮半島の非核化、平和と安全を保証③朝鮮半島の平和的統一を支持するとの三原則を打ち出していた。
北朝鮮が不可逆的な核放棄を決断し前記の条件を受け入れれば、米国および周辺国は何らの形で「体制保証」を行うことになる。核放棄を明言かつ実行しない限り「ならず者国家」への「先制攻撃」を公言する米国としては「体制保証」などできるわけがないのだ。6カ国協議はこの交渉のスタート台となるわけだ。
ただし、日本の場合は核問題だけで良しとするわけにはいかない。北朝鮮が日本人拉致事件の解決に向けてアクションを起こさねば、日本としては次なる行動に移れない。拉致被害者家族を日本に帰国させることが交渉進展の前提条件となるのは当然のことだ。
核放棄と拉致被害者帰国が前進すれば、段階的に北朝鮮への支援が可能となる。ただし、その援助も北朝鮮の改革を促す方向で段階的に取り組まねばならない。つまり核放棄によって「体制保証」を行い、「体制保証」によって経済支援の環境を整備し、経済支援で改革を迫る。そして、その改革が「体制終焉」の種をまく、という明確な解放戦略を描いておかねばならない。いずれにしても6カ国協議を次へのステップにするべきだ。
現在、南北を分断する軍事休戦ライン(非武装地帯、DMZ)は50年前の1953年7月27日に締結された休戦協定により設置。調印はクラーク国連軍司令官と金日成朝鮮人民軍司令官、彭徳懐中国人民義勇軍司令官の3人だけで、韓国は南北分断固定化を危惧して調印を拒んだ。
94年、北朝鮮は国連軍の窓口だった休戦委員会から代表団を撤収し、95年には「休戦協定破棄」を一方的に宣言、以降DMZ周辺で軍事挑発をしばしば行ってきた。自ら蕫危機﨟を作り出しておいて「米国が危機を煽っている」と非難し、「体制保証」を要求するというマッチポンプを繰り返してきたのだ。北朝鮮は休戦協定締結以来、半世紀にわたってこの手法で臨んできている。
北朝鮮の「体制保証」が「体制終焉」への第一歩となる対北戦略を構築しておかねばならない。決して6カ国協議を妥協の場にしてはならない。


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