思想新聞2003年10月15日号【ニューススコープ】
中国とインドが“参入”
日本は海洋同盟化めざせ
東南アジア諸国連合(ASEAN)は10月7日、インドネシアのバリ島で首脳会談を開き「ASEAN協和宣言・」を採択し、安全保障協力という新たな課題を据えて共同体づくりに乗り出すことになった。さらに同首脳会談に日、中、韓の三国とインドの首脳も招き、幅広い首脳会談を繰り広げた。中国とインドは新たに「東南アジア友好協力条約(TGC)」に調印、ASEANとの協力拡大に力を注ぐ姿勢を顕著にした。日本は中印の“覇権競争”に巻き込まれてはならない。あくまでも日米同盟を基軸にオーストラリアなどアジア太平洋圏と連動し、ASEANを海洋同盟化へと誘導すべきだろう。
ASEANは1967年、中国とインドシナ共産国に対抗する親米反共連合としてタイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポールの5カ国で発足。76年には今回と同じバリ島で第一回首脳会談を開き「ASEAN協和宣言」を採択、「経済協力促進による域内の強じん性強化こそ、地域安全保障、政治的安定確立の基礎」とうたった。
それから四半世紀を経て、東西冷戦は終えんし、残る共産国も市場経済化をひた走り、共産主義の直接的脅威が消滅。ASEANにはベトナムやカンボジアなども加わり、今日では加盟10カ国、5億3千人を数える一大地域機構となった。
それを踏まえて、今回の首脳会談ではホスト役のメガワティ・インドネシア大統領は新たなスタートを印象付ける「ASEAN協和宣言・」の採択にこぎつけた。同宣言は安全保障協力という従来になかった分野に踏み込み、安保共同体構想を打ち出したのが特徴である。
宣言では「政府・安保協力をより高い段階に引き上げ域内の相違を平和的に解決する」とうたう。だが、宣言は続いて「防衛条約、軍事同盟や合同外交政策よりも、むしろ、政治、経済、社会など幅広い包括的安保の原則に同意する」としている。直接的な軍事・防衛条約ではなく、「包括的安保」と表現するところに安保共同体構想の脆弱性が浮き彫りにしているといえよう。
そもそも過去にASEANは安保問題から逃避し続けてきた。99年にインドネシアで東ティモールの独立問題が発生すると、ASEANはこれに関与せず、国連がオーストラリア軍を軸に多国籍軍を派遣して解決に当たった。これは域内の問題にASEANが非力であることを象徴する出来事とされた。
今回も国際社会が注目したのはミャンマー問題だった。民主化運動指導者のアウン・サン・スー・チーさんが軟禁状態に置かれていることに欧米は反発、とりわけ米国は厳しく批判してきた。だが、ASEAN首脳会議の議長声明では「対話と和解を通じ民主化に移行するとしたミャンマーの表明を歓迎」し、キン・ニュン首相が示した抽象的な「工程表」をすべての社会階層を関与させる現実的アプローチとして「理解し支持するに値する」と評価。正面切ってスー・チー問題を解決する努力を放棄してしまった印象が強い。
こうした態度もASEAN的と解される。ASEANが実力の伴った機構ではない証といえよう。近く引退するマハティール・マレーシア首相はASEANを共同体化し「欧州連合(EU)の道を歩ませたい」としているが、現実は各国の事情があまりにも違いすぎるのだ。
たとえば政治的には軍事独裁のミャンマーや未だ共産主義国であるベトナムとラオスに対して、他国は選挙を通じて政権交代を行う。また経済的格差も大きく、宗教・文化的にも相違点が少なくない。
テロ問題ではアルカイダなどの国際テロ組織が東南アジアを中東に次ぐ「第二戦線」と位置づけて各地で自爆テロを行っており、これに対してASEAN協和宣言・は「テロや国境横断的犯罪への対応力強化にASEANの既存制度や機構を最大限活用する」とする。国際テロ撲滅や海賊取締りで共同歩調をとり、近く「ASEAN対テロ・センター」も創設する見通しだ。
だが、インドネシアとフィリピンではイスラム問題が独立運動とも連動する複雑な様相を抱え、内政不干渉をうたうASEANがどこまで連帯を深められるの
か疑問視する声も出ている。
こうした中で、同時に開催されたASEANプラス3会議で中国の外交攻勢
が際だった。中国はASEANに対してはすでに2015年の自由貿易協定(FTA)の完全実施に合意しているが、同会議では「東アジア自由貿易圏づくりに一気に事前調査に着手したほうがよい」と強調し、域内のシンクタンク連携策を提案。また東南アジア友好条約(TAC)にも調印した。
同条約は義務の伴わない緩やかな条約だが、東南アジアの一員であることを確認する性格を持つ。だから中国の同条約調印は東南アジア地域に関与を強めたい中国の意思表示を行うセレモニー的な政治的意味合いが強い。
こうした中国の積極的な東南アジア外交に警戒感を募らせているのが、インドである。長く中国と対立してきたインドは中国の動きをアジアの「盟主」を目指すものとして警戒し、今回、急きょ東南アジア友好条約に調印することを決め、バジパイ首相が首脳会議に出席した。
インドは中国と対抗するため八〇年代にベトナムと経済、軍事協力関係を強化してきたが、同条約調印によってベトナムとインドの間に位置するラオスとタイ、ミャンマーとの関係を強化するのが狙いとされている。
ASEANをめぐって中印の覇権争いが激化しそうな情勢だが、日本としてはこうした動きに翻弄されてはならない。朝日新聞など一部マスコミはかつての日中国交のごとく「バスに乗り遅れるな」といった論調を張り、中国主導のアジア外交に加わることを奨めているが、これは危険な認識である。
今回、バリ島で初めて日韓中の三国による共同声明が出され、韓半島の非核化が確認されたが、対北朝鮮政策も米国の軍事力の「圧力」を背景にしなければ進みようがないことは明らかなことだ。アジアでは米国の軍事プレゼンスがなければ、中国の軍事的覇権が一層が強まり、これに対抗するインドとの抗争が激化しアジア情勢が不安定するのは必至である。
だからこそASEANの安保共同体構想も防衛条約や軍事同盟ではない「包括的安保」(ASEAN協和宣言・)にすぎないのだ。ASEANの個々の国ではフィリピンのように米国の軍事的プレゼンスへの期待が高いのが現実なのである。
ASEANはアジアの中でも大陸国と海洋国からなる独特の地域性を持つ。日本もまた島国としての独特の立場にあることを考えれば、米国やオーストラリアなどオセアニア諸国と連動したアジア太平洋圏の視点が不可欠といえる。
その意味でも日本は日米同盟を基軸にしてASEANを海洋同盟へと誘導していく責任があるといえる。中国の覇権外交に乗じられてはならないのだ。


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