国際勝共連合 機関紙 思想新聞は創刊56年 通巻1898号 (令和8年5月1日)

元海上保安官 起訴猶予の「茶番劇」

この記事は2011年1月22日に投稿されました。

今頃になって起訴猶予とは、茶番である。沖縄県・尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が体当たりした事件の映像をネット上の動画サイトに投稿した神戸海上保安部の元海上保安官について、東京地検は1月21日、起訴猶予処分とした。海上保安庁が東京地検と警視庁に国家公務員法(守秘義務)違反として告発し、刑事事件となっていたが、東京地検は流出させた映像を「秘密」に当たると判断したものの、全国の海上保安部で映像を見ることができ、入手方法が偶発的で利益目的でないことや自ら告白し処分を受けて退職していることなどを理由に起訴猶予処分としたものである。一方、那覇地検は同日、体当たりした中国漁船の船長を起訴猶予とした。こちらの理由は衝突された巡視船の損傷が軽く、乗員に怪我がなく、事件後に尖閣諸島付近で操業する中国漁船が激減したことなどを総合考慮したとしている。どちらも臭いものには蓋、の茶番劇にすぎない。

広く国民に公開されるべき映像だった

そもそも元海上保安官が流出させた映像は、守秘すべき「秘密」だったのか、きわめて疑問である。最高裁判例では、守秘義務違反を問えるのは国民の知る権利を考慮し、一般人が知らず秘密として保護すべき情報を漏らした場合に限っている(1977年判決)。今回の場合、映像は未公表でも事件の概要は昨年9月の事件直後にすでに伝えられており、衆院では映像が限定的に公開されていた。したがって一般人が知らない情報ではなく、保護する必要性も見出せないものである。明らかに公益性、公共性を持った情報だった。当時、なぜ映像を公表しないのか、多くの国民は政府の姿勢を批判してきた。これに対して政府は映像を刑事事件の証拠物とし、非公開の理由を「証拠物は公判前には公にできない」(刑事訴訟法47条)としてきた。しかし、那覇地検は中国人船長を処分保留のまま釈放し、船長を帰国させてしまった。その時点で起訴猶予処分しかなく、証拠物としての価値はまったくなくなっていた。事実、那覇地検は今回、中国漁船の船長を起訴猶予処分としたのである。
 しかも映像の非公開で国益が失われる事態が生じていた。中国は「日本の巡視船が中国漁船を囲み、追いかけ、行く手を遮り、衝突して損傷させた」(姜瑜・中国外交部報道官)と主張し、中国のネット上にはそうした図まで掲載されていた。非公表は世界から疑問視され、日本側に不利に働いていた。それにもかかわらず、菅内閣は映像を公表しなかった。命がけで領海、領土を守ってきた海上保安官らの無念さは想像に余りある。そんな中、映像が動画サイトに流れたのは11月4日のことである。国会では約6分だったが、映像は計44分23秒に及んだ。これをテレビや新聞が詳しく伝え、国民は中国船の体当たりの様をようやく目の当たりにしたのである。その意味で映像流出は国益・国民益にかなっていた。
 菅内閣の中国に従属するかのような無責任な態度が映像流出をもたらしたのである。それを国家公務員法(守秘義務)違反とは笑わせる。公表しない菅内閣こそ、国民への背信行為とした罰せられるべきであった。映像は全面的に公表されてしかるべきであった(今なお公表せず、覆い隠そうとしている!)。中国人船長の釈放では地検の「政治、外交的判断」に責任転嫁し、映像流出では守秘義務違反に責任転嫁して自らの責任から逃れようとしたのである。ほとぼりがさめた今頃になって東京地検と那覇地検は歩調を合わせて起訴猶予処分としたのは茶番というほかあるまい。

起訴猶予で非公表の法的根拠がなくなった

中国漁船の船長を起訴猶予としたのは法治国家としてあるまじき判断である。衝突された巡視船の損傷が軽く乗員に怪我がなかったとしているが、巡視船の損傷が決して軽いとはいえない。国民は元海上保安官が流出させた映像によって、体当たりは執拗かつ悪質で、損傷も軽微でなく、まかり間違えば怪我人が出た重大事犯であることをすでに承知している。それを釈放しただけでなく事件そのものがなかったかのように装うのは、わが国の主権を冒涜する行為である。また元海上保安官の起訴猶予処分も理解しがたい。起訴猶予とは、「刑事手続きにおいて犯罪の嫌疑が存在するにもかかわらず、犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重、情状、犯罪後の情状を考慮して、検察官が公訴を提起しないでおくこと」(ブルタニカ国際大百科事典)を指すが、映像流出にはもともと犯罪の嫌疑そのものが存在せず、「不起訴」とすべきものである。あたかも犯罪の嫌疑があるかのような起訴猶予処分は事件の本質を捻じ曲げるものである。
 海上保安庁のホームページには「動画配信コーナー」があり、海難援助活動や九州南西海域不審船事案(つまり北朝鮮工作船との銃撃戦)の映像などを国民に公表している。にもかかわらず尖閣諸島の中国漁船体当たり事件の映像は今になっても公表されていない。だが、今回の東京、那覇両地検の決定で映像は刑事事件の証拠物でなくなった。これで「証拠物は公判前には公にできない」としてきた政府の非公表の根拠は吹き飛んだ。もはや非公表とする根拠が存在しないのである。したがって海上保安庁は「動画配信コーナー」に堂々と映像を公表すべきである。それさえ菅内閣が拒むなら、国民は菅内閣の「隠蔽」「責任転嫁」を厳しく指弾するであろう。茶番劇に騙されてはならない。

2011年1月22日

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