思想新聞2003年4月15日号【1面TOP】
有事法、スパイ防止法も必要に

日本で初めての情報収集(偵察)衛星が3月28日、鹿児島県の種子島宇宙センターからH2Aロケット5号機で打ち上げられた。偵察衛星によって北朝鮮の軍事情報などを掌握し、とりわけ日本を射程に入れるミサイル発射に対する情報収集が期待される。だが、残された課題も多い。情報収集の能力とその蓄積、分析力が貧弱なうえ、情報管理(機密保護)体制も整備されていない。さらに情報収集だけでは意味がなく、ミサイルが発射された場合の安全保障策を確立しておかねばならない。有事法や国民保護法の整備は言うまでもなく、スパイ防止法やミサイル防衛(MD)システムの構築などを進めていかねばならない。
今回打ち上げられた偵察衛星は光学センサー(望遠鏡)を備えたものと悪天候や夜間でも撮影が可能な合成開口レーダーを装備したものの2基で、今夏さらに2基打ち上げられ、来年3月頃から本格稼働させる予定だ。これによって戦後初めて偵察衛星を保有することになり日本の守りが一歩前進したといえる。
だが、政府は今なお「宇宙の平和利用を巡る観念的で現実離れした解釈」に縛られているのが現実だ。読売新聞は「安全保障に衛星を利用するには、その衛星が『民生分野で一般化されていることが条件』とする従来の政府見解に拘束され、今回の衛星の解像度も商用の観測衛星レベルに抑えられた」と述べ「自らの目をあえて曇らせるような珍妙な政府見解を、今や改める時だ」(3月29日 社説)と指摘している。
今回の偵察衛星の解像度は光学衛星が1~5m、レーダー衛星が1~3mで、米国の偵察衛星の10cm以下に比べるとはるかに劣る。政府は5年後には解像度が50cmの後継衛星を打ち上げる予定だが、左翼勢力は今なお宇宙の軍事利用だとか専守防衛に抵触するなどと批判しており、珍妙な政府見解とも相まって足かせになるのは必至だ。
偵察衛星を保有したといっても4基の運用では米国のような常時監視はできない。地球のあらゆる場所を1日1回は撮影できるものの、場所と撮影時刻を自由に選べないからだ。武貞秀士・防衛研究所主任研究官は「北朝鮮のミサイル燃料注入は約2時間。その時、上空に衛星がいればいいが、残りの22時間は全くわからないのでは困る。24時間の監視体制には、16~20基程度を打ち上げるべきだ」(読売新聞3月3日)と述べている。
また軍事評論家の江畑謙介氏は「(偵察衛星で)北朝鮮のミサイル発射の準備を察知するのは可能だが、ミサイルの発射探知はできない。それには早期警戒用の別種の衛星が必要だ。だが、北朝鮮が新しい弾道ミサイル基地を建設している状況は観測できる可能性はある」(読売新聞3月27日)と指摘する。今回の偵察衛星でどんな情報でも収集できるわけではない。
いずれにしろ、とりあえずの偵察衛星保有というわけだが、それでも課題は多く残されている。
第1には情報解析能力である。撮影した画像分析を行う技術は「一人前になるには10年は要する」とされるが、今回衛星を運用する内閣衛星情報センターは100人弱の分析担当者しかいない。防衛庁は4月から情報本部の「画像部」を「画像地理部」に改組、120人から160人に増員したものの、決して十分とはいえない。
軍事評論家の岡部いさく氏は「日本には画像情報(インフォメーション)を価値ある情報(インテリジェンス)にできるかどうかという問題がある。米国には国家偵察局という役所やCIAがあり、画像を分析する専門家が多数いるが、日本にはいない」(産経新聞3月24日)と指摘している。
第2には情報保管能力である。情報は収集・分析のみならず、保管をもって完結するとされている。情報が「敵」に筒抜けでは、その情報は直ちに修正され偽情報になるのが情報戦の常であるからだ。情報の保管すなわち国家機密保護(スパイ防止)なくして情報は真の情報足り得ないのである。
ところが、わが国はスパイ防止法が制定されていない。有事法について政府は今国会での成立を目指しているが、有事でも情報が最も大きな課題となることを忘れてはならない。「敵」がいつ、どこで、どのような手段を使って有事を起こすのか、その情報なくして有事態勢を築けないからだ。
以上の二つの課題は偵察衛星保有に伴う情報としての視点だが、もっと本質的な課題が残されている。情報で火急の事態を掌握した場合ではいかなる対応をするかである。
たとえば北朝鮮がミサイル発射を準備していた場合を考えてみよう。たとえば「(偵察衛星によって)不審な動向が探知された場合には、外交ルートを通じて警告したり、治安警備を発動するなどして、危険抑止の効果が期待できる」(東京新聞3月24日社説)といった面はある。
それでもミサイル発射された場合はどうするのか。この対応策が皆無に近い。自衛隊が保有している地対空ミサイル「パトリオット」もイージス艦のスタンダードミサイルもマッハ4程度の対艦ミサイルや戦闘機を迎撃できても、マッハ10を超す弾道ミサイルの迎撃は不可能とされる。日本にはミサイル攻撃を防ぐ方法がないのだ。
現在、抑止力として唯一働いているのは米軍の「報復力」だけである。今回の北朝鮮危機においては米軍はグアム島にB52爆撃機など24機を配備し、韓国に敵のレーダーに探知されにくいステルス戦闘機F117を派遣。さらに空母カールビンソンとイージス巡洋艦を日本海に展開し、ミサイル追跡船「インビンシブル」や電子偵察機コブラボールなどを日本周辺に増援して睨みを効かせ、こうした米軍の抑止力によって日本が守られているといえる。
このため政府は今夏から「パトリオット(PAC2改良型)」を配備するほか、PAC3の導入も検討している。しかし、これだけでも守りは完全でなく早急に米国と協力してミサイル防衛(MD)システムを構築することが必要となる。
さらにミサイルが発射された場合、政府はまず国民に警告を出し、次いで着弾後は自衛隊が災害出動し、攻撃国の日本への攻撃意図が明確になった後に防衛出動態勢をとるという、あきれるほど鈍感な対応策しか考えていない。ミサイル発射の可能性が出た場合、敵のミサイル基地を先制攻撃する行為を専守防衛の範疇に入れ、非常事態宣言を発令し有事態勢および国民保護態勢をとれるように法整備をしておかねばならない。
いずれにせよ今国会で最低、有事関連法案を成立させておく必要がある。
◎写真=初の偵察衛星 H2A-5号機の打ち上げに成功(3月28日、種子島宇宙センター=産経)


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