この記事は2011年1月16日に投稿されました。
菅改造内閣で何が変わったのか。仙谷官房長官の退任はよし。では枝野新長官はどうか。一長一短である。対中政策では「(尖閣問題で)悪しき隣人と述べたタカ派」(人民日報1月14日)と中国からタカ派扱いされるところは大いに結構。だが、仙谷長官の“子分”で、文化共産主義勢力と一脈通じているところは危うい。夫婦別姓に賛成、児童ポルノ所持規制に反対し、何よりもいかがわしいのは極左勢力・核マル派との関係が取りざたされていることだ。1996年の総選挙に立候補した際、革マル派に支配されるJR東労組と「私はJR総連及びJR東労組の掲げる綱領(活動方針)を理解し、連帯して活動します」との覚書を交わしたとされる(『新潮45』2010年7月17日発売号)。昨夏の参院選挙では核マル派の最高幹部で元JR東労組会長・松崎明氏(先日、死去)の運転手だったJR総連政策調査部長の田城郁氏が民主党から出馬(比例代表)、議席を獲得している。昨夏の都議選でも「隠れ核マル派」の民主党新人候補が多数当選した。どうやら民主党内に極左勢力が浸透しつつあるようだ。その意味で枝野官房長官の言動には警戒が要する。
夫婦別姓など家族破壊の民法改悪に警戒を
内閣改造で岡崎トミ子国家公安委員長・男女共同参画担当相が閣外に去ったのは朗報である。従軍慰安婦問題やジェンダーフリーで福島瑞穂社民党党首の盟友だった岡崎氏は第3次男女共同参画基本方針にジェンダーフリー政策を盛り込み、それを推進しようと腕まくりをしていた。その出鼻を挫いた内閣改造だった。だが、事態が改善するかは怪しい。新たに担当相に就いたのは与謝野経済財政相で、与謝野氏は「社会保障・税一体改革」を担当し、政治生命をかけてこれに専念するとしている。本人にとって男女共同参画は社会保障の一環にすぎず、まったくといっていいほど関心がない。副大臣や政務官人事に左右されるが、おそらく実務者に丸投げするだろう。そこをジェンダーフリー派官僚が待ち構えている。官主導でジェンダーフリーがまかり通りかねない。ここをチェックしなければならない。
参院議長経験者の江田五月氏が異例にも法相として入閣した。1月14日の会見で「死刑は欠陥を抱えた刑罰」との考えを吐露したように、千葉元法相と同類の人権派の元弁護士である。1970年代に父・江田三郎氏の急逝で社会市民連合(後の社民連)から政界入りした経歴は菅首相とだぶる。思想的同士関係にあるといってよい。菅首相は東京工業大学時代に「全学改革推進会議」という学生運動のリーダーもつとめた心情左翼で、江田三郎氏の構造改革論に意気投合し、社民連に加わった。
では江田三郎氏の構造改革論(1962年、江田ビジョン)とはいかなるものか。それはイタリア共産党のいわゆるトリアッティ路線を踏襲するものだ。トリアッティは1940年代のイタリア共産党書記長で、グラムシ(ユーロコミュニズムすなわち文化共産主義の中心人物)の後継者である。グラムシが「文化テロリズム」(ブキャナン)を標榜したように、トリアッティも資本主義社会の基礎となる宗教的文化に否定的で、伝統的文化の溶解(破壊)を目指した。マルクス・レーニン主義の暴力革命は肯定しないが、議会制のもとで長期的に社会主義を実現するという。それで構造改革論に基づく国家観は、資本主義や国家をマルクス主義と同様に敵対的に捉え、否定的な態度をとる。そこには歴史や伝統を重んじる姿勢はない。議会制を通じて政権を獲得すれば、資本主義がもたらす矛盾や問題の調整や管理を政府に果たさせようとし、そこから段階的に社会主義政策を実現しようとする。だから菅首相は国家や国民という概念を忌み嫌い、国民意識を消し去ろうと、ことさら「市民」を強調し、「地域主権」といった概念を持ち出してくる。その思想的同士の江田氏を法相に就けた。これで夫婦別姓など家族破壊の民法改悪の動き(法務省所管だ)が強まるおそれがある。警戒しなければならない点である。
子供手当など矛盾に満ちた「第3の道」路線
菅首相は年初から小沢グループへの「反転攻勢」に打って出て、民主党の両院議員総会や党大会で「自信をもって歩もう」と強調し、昨夏の参院選で敗北して以来、封印していた「最小不幸社会の実現」を再び言い出し始めた。この「最小不幸社会」が曲者である。「政府の役割は、国民が不幸になる要素、あるいは世界の人々が不幸になる要素をいかに少なくしていくか、『最小不幸の社会』を作ることにある」(昨年6月の首相就任記者会見)というものだが、その政府像こそ典型的な社会民主主義の政府像である。菅首相によれば、公共投資を重視する「第1の道」でも小泉改革のような市場主義的な「第2の道」でもない「第3の道」を目指すとし、その理想モデルをスウェーデンとしている(昨年6月の所信表明演説)。
この「第3の道」は何ら目新しいものではない。イギリスのアンソニー・ギデンズが提唱し、ブレア労働党政権が採用した政策にほかならない。金銭給付よりも教育や職業訓練など人的資本に投資を重視するものだ(子供手当のようなバラマキは「第3の道」とはかけ離れているが、菅首相はこの矛盾に気づいていないのか)。菅首相が挙げたスウェーデンは、社会民主主義的福祉国家ではあるが、経済成長と雇用政策に力を入れ、失業者を職業訓練し成長の見込まれる産業分野にシフト換えし成果を上げてきた点で「第3の道」に通じる。だが近年、スウェーデンも経済のグローバル化によって新規産業の開拓が困難になり、雇用に苦戦している。特にリーマンショック後、雇用戦略が大きく揺らぎ、失業率は都市部では10%、地方では20%にも及びつつある。雇用を確保できず欧州の「第3の道」も危機に瀕しているのだ。そもそも社会保障を充実すれば雇用や経済成長に結びつくという考えは「科学的根拠の欠く典型的な『まじない経済学』」(鈴木亘・学習院大学教授)である。
「大きな政府」ではなく「家族の再生」を
現に北欧諸国は社会保障制度を維持するために民間分野の雇用創出を促す成長戦略が不可欠として、研究開発費の大幅拡大や税優遇措置などを通じて民間企業の投資を強力に後押ししている。スウェーデンの国民負担率(租税と社会保障負担の国民所得比)はわが国の38・3%に対して70・7%(05年)と極めて高い。それでも国民が納得してきたのは、雇用をいつでも確保できる安心感があったからだ。しかも人口は900万人で、徴兵制を敷く武装中立国だ(徴兵制は効率が悪いとして昨年、志願制に変えたが、国民の国防義務は不変である)。1930年代のハンソン政権の「国家は家」概念が国民的アイデンティティを培い、それが社会保障を下支えしてきた。このような国家的背景を顧みず、つまみ食いのように社会民主主義的福祉政策だけを持ち込めば、消費税の大増税路線に陥り、なおかつ国際競争力を失って3流国に転落するのは必定である。
まず子供手当などの無駄遣いを辞めよ。そして公務員2割削減を実現せよ(労働基本権を拡充しなくても地方公務員は削減してきた。国家公務員にできないわけがない)。菅「大きな政府」路線では未来はない。家族を再生すれば「小さな政府」で済み、社会保障も再生できる。「無縁社会」を後押しするような菅路線では「最大不幸社会」がもたらされる。
2011年1月16日


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